事件再び
訓練団施設。俺とデリーにとっての原点。当時の俺たちは、生きる為だけに必死だった…。
「マウちゃん、ここはいつぶり?」
「2年ぶりかな。それでもなつかしく感じるよ。」
後輩たちの練習を見てると、当時を思い出す。誰にも負けたくない!その気持ちだけだった。
「おい、あれマウアさんじゃん!」
「本当だ、マウアさーん」
「おーーー!」
たった2年なのに、ずいぶんと見た目が変わるもんだな。たくましくなったもんだ。
「みんなー、久しぶりー。」
「俺もー、いつかコロシアム剣士になりまーーす!試合がんばって下さーーい!」
「応援してまーーーす!」
「おう。ありがとなーーー!」
あんな遠くから俺に気づくなよ。あいつら集中して練習してないのか?でも、嬉しいもんだな。
「さすが今注目の人気剣士だね。」
「複雑だけどな…。」
これから、悪魔と戦って平和を守ることになるかもしれないし。
「おう、来たな。こっちだこっち。」
「ナイクさーん!」
「アハハ、マリーナ。背伸びたな!」
ナイク先生は変わらないな。二十歳越えての2年じゃ、こんなもんか?だけど、あの厳しかったナイク教官も、今や訓練団長か…。
「お久しぶりです。ナイクさん。」
「ナイクさん?ナイク団長様、だろ?アハハ。まぁ、今やコロシアムの最強剣士と名高いお前には、もう敵わないだろうけどな。」
「大袈裟ですよ。俺なんてまだまだ。」
「それより、デリーの様子はどうだ?かなり派手にやられたらしいな。」
「あ、それはその…。」
「悪魔だろ?」
「!…、知ってたんですか?」
「護衛団連中の会話から、ちょっとな。俺も目にしたから言える事なんだけど、詳しく聞かせてくれるか?」
「はい。でも…。」
マリーナに聞かせるのはちょっと…。
「お?あぁ、マリーナなら構わない、大丈夫だよ。」
「ですけど…。」
確かにシフおじさんの件が悪魔の仕業なら、マリーナの方が俺より詳しいかもしれない。でもなぁ…。
「マリーナ?」
「うん。平気!」
軽いなぁ…。笑顔で返すなよ。
「いや、あのさマリーナ、そうじゃなくて…。」
巻き込みたくないって意味なんだけど…。
「いいからいいから。じゃ、奥の部屋行こうか。」
「行くよぉ、マウちゃん!」
「わかったよぉ…」
みんな軽く考え過ぎなんじゃねーかなぁ…。
不安は残るが、とりあえず俺も団長室へ入った。
「適当に座ってくれ。何か飲むか?」
「私コーヒー。もちろんブラックでねー!」
ぶ、ブラックーだと?マリーナの奴、いつの間に…。
「へぇ、マリーナ大人だなぁ。マウアは?」
「あ、俺も…」
負けられるか!
「ナイクさん、マウちゃんのはミルク無しの砂糖たっぷりでね!見た目ブラック!なんちゃって。」
なっ!
「お子ちゃまにはまだ早いのだ。」
「同い年ぃ!ったく。お前なんて最近ブラジャー付け始めたばっかだろー!」
「アタシ、マウちゃんのブリーフ昨日洗った!」
「くっ。」
あー言えばこー言う。これから真剣な話をするってのに、マリーナには参っちゃうな。
「俺から見れば、二人ともお子ちゃまだよ。ほれマリーナ、コーヒーブラック。」
「ありがとう。うっ…。」
マリーナの奴、苦そうな顔してる!背伸びしすぎだぜ。俺のは見た目ブラックだけど…甘っ。
「じゃあ本題に入ろう。聞かせてくれるか?マウア。」
「あ、はい。」
俺は、ナイクさんに全て伝えた。ナイクさんの目線が、時折斜め上へと行く。7年前の記憶と照らし合わせているように感じた。
「そうか…。そりゃ間違いなく悪魔だな。」
「やっぱり、そうですか。」
「しかし驚いた!そのリホって天士の子もそうだが、お前が倒したって事だよな?」
「俺、無我夢中でよく…。バイラインを倒した後、リホがそう言ってましたから。」
「それを聞いて確信したよ。お前の強さは、俺を完全に超えてる。」
「そうなんですかね!」
「おっ前、今笑ったなぁー!」
「だって、訓練生時代1回も勝てなかったし。そう思ったら嬉しくて…つい。」
「冗談だよ。」
「エヘヘ」
笑いながらも、心中は複雑だった。悪魔という俺にとっての夢物語が、自分の中で色濃く現実になっていくからだ。リホ、リーナさん、デリー、マリーナ、そしてシフおじさんの事件とナイクさんの反応。誰もが本当の事を語っている。そして、さらなる確証が突然飛び込んできた。
「ナイク団長!大変です。」
訓練教官の一人が、ノックもせず慌てて部屋へと入ってきた。
顔色が悪いな…。
「お?どうした?」
「訓練場で生徒が暴れていまして、それが…どんなに注意しても聞かないのです。とにかく様子がおかしく、手が付けられない状態なんです。」
教官クラスが訓練生を?まっ、まさかっ…。
「気づいたかマウア、最悪…だな。」




