裏士長ラナ
side - 裏士長ラナ
始まったか…。わしにとって3度目の封印の儀。年齢的にも、二人に贈る最期の祈りになるであろうな…。
「お久しぶりです、ラナ様。」
「誰じゃ?なぜここに人がおる?」
「リーナでございます。」
「リーナ?ファイの国のリーナか?」
「はい。」
「おばあちゃん、初めまして。」
「ラナ様、娘のマリーナです。」
「なんと!封印の儀に二人の人間がおるというのか!?」
「おばあちゃん、二人じゃないよ?えーと、ルーヒ国王様でしょ?それと…。」
「な!?国王様がおるのか?」
この方は…間違いない。
「これまで全ての封印の儀を見守ってくださり、二人に祈りを捧げてくださいましたこと、大変感謝いたします。そして、申し訳ありませんでした。」
「国王様、頭を下げるなど、そのような事は止めてくだされ。」
まさか、このような事になろうとは…。
「まだまだいるよ。声をかけて、町のみんなも来てるよ!」
こんなにも大勢の人々が来ておるのか…。何故かはわからん。じゃが、何かが変わろうとしておるのかもしれぬな。
「そうか…。封印の儀は人々に忘れ去られた記憶。そして、代々裏士長が見守る務め。わしの最期の祈りが、このような形になるとはのう。では、皆で見守ろう。そして、祈りを捧げてくだされ。」
「おばあちゃん、アタシたちは祈りに来てないよ。アタシたちは、復活の儀を見守りにきたの。」
「復活?リーナの娘よ。それはどういうことじゃ?」
「それはね、えーと…「マリーナさん、私にご説明させて下さい。」
「ミルカさん。エヘヘ、お願いします。」
「やはり、ミルカもおるのか。」
「はい、ラナ裏士長様。お久しぶりでございます。では、お話しさせて頂きます。」
「ふむ。」
「復活の儀。これは、魔王の復活を表してはいなかったのです。」
「なんじゃと!?そのような事はありえぬ。今、目の前で起きておるではないか。」
「はい、私もこれを魔王復活の儀と思っておりました。ですが、復活の儀という言葉はあっても、実際に行われた事例がないのです。これは、魔王覚醒です。」
「そうか。ではなぜそのような言葉が…。」
「復活の儀は、先代の裏士の言葉です。英雄であったはずの二人を救い、この繰り返される悲劇を止めたいと願った思いから生まれたのです。」
「おぬしの言う通りかもしれぬ。数百年の時が、いつしかわしら裏士の認識を常識に変えてしまっていたのか…。」
「はい。ですから私は、悲劇を招いた先代の裏士の願い、復活の儀を今日行います。」
「二人はすでに覚醒しておる。通例封印の儀は、天士が凄まじい天の力で魔王の肉体を滅ぼす。そして、魔王の肉体を滅ぼすほどの天の力は、自らの肉体をも滅ぼすが…。」
「私の考案した復活の儀。それは、魔王の覚醒前から始まります。覚醒前の魔王は、善の心を持っていました。これは、融合魂の他に、もう1つ体内に魂を持っている証拠になります。同様に、天士の体内にも2つの魂があるのでは?と、私は推測しました。そこに復活の儀の答えがあるのでは?と。天の力…すなわち人が本来持っている愛の力。人は、生きている間に愛を学び愛を育み愛を注ぎます。天士が本来持つ天の力と、魔王が覚醒前に持っていた天の力が共鳴したとき、復活の儀は成功します。」
「先代の裏士が悪には悪と対向してきた歴史に、おぬしは天には天で挑むと言うのじゃな?」
「そうでございます。二人はこれまで、互いに天の力を育ててきました。後は、見守るだけです。」
「そうか…。わしは封印の儀を2度見守ってきたが、いつもなら天士がすでに終わらせておる。確かに、これほどまでの天の力は見たことがない。お主の思い、届くかもしれぬな。」
「はい…。そう願います。」
ファイの裏士に選んだこの2名。わしの目は確かだったようじゃ。
「リーナよ。おぬしの目にはどう映っておる?」
「均衡状態です。ですが、危うい状況とも思えます。」
「ふむ。今はまだ、見守るしかないようじゃな。」




