愛してる
王様と闇裏士さんは、俺たちに何を求めてるんだろう…あ!!
「おい!コロシアムで試合が始まったぞ!」
「ねぇマウちゃん、今はそれどころじゃ…。」
「いいじゃねーかよマリーナ。わかってるって。デリー!夕方って事は新人戦だよな?」
「うん。って、マウア…そうなんだけどさ…。僕もマリーナと同じ気持ち…「カッコイイ剣士、いるかしら!」
「えーー、リホりんまでー?」
「バカだなぁ、リホ。俺が人気ナンバーワンだっての!」
「そうだね!」
「ぼっ、僕だって…それなりに人気は…。」
「デリー!裏切ったわねー。もー、これじゃアタシのキャラじゃないじゃん!こうなったら…うりゃー!」
マリーナが後ろから俺の両目を手で隠した。
「うおっ!?なんだよマリーナ!見えねーだろ!」
「うるさいうるさいうるさーい!今のうちにマウちゃんなんか死んじゃえー!」
「だってしょうがねーだろ?頭使うの得意じゃねーんだよ。」
「頭はこうやって使うのよー。」
ゴチーン…
正面に来たマリーナが、勢いよく頭突きした。
「いってー!頭使うって頭突きかよ!」
「アハハ、マリーナったら。」
「いつもの調子だね。」
それを見ていた天士と暗黒剣士に笑われた。
「マウちゃん、ツッコミの練習だよ!」
「激しすぎるだろ!」
「あ!悪気込めるの忘れてた。」
「そんなもん込めるなー!」
「アッハッ、お腹痛い…アハハ。」
あの日の約束…今度は四人でこの丘に…だったな。気がついたら、みんな揃って笑ってる。答えを考えなくちゃいけないのにな…。
「おーい、マウアー!」
「あらら、メルナさんまで来ちゃったよ。隣にいるのはミルカさんか?」
なんで、あの二人が一緒なんだ?
「はぁ、着いた。なぁーにマウア、へこんでないじゃない。つまんないの。」
「メルナさん、へこむどころかここ見てよ、ここ。」
俺は、マリーナに頭突きされたおでこを指さした。
「なにそのたんこぶ。あなたまさか…覚醒?」
「マリーナのツッコミ!」
「エヘヘ。やっちゃった。」
今、メルナさんマジ顔で覚醒って言ったよな…?
「そっか、ミルカさんと一緒ってことは、メルナさんも聞いたんだね?」
「まぁね…。」
「メルナさんつえーからさ、俺を倒してくれねーかなぁ。」
「あのねぇ…、私はニレイの城で、あの闘いを見てるのよ?覚醒してなくても、マウアには勝てないわよ。」
「覚えてないんだよなぁ。俺そんなに強かったの?」
闇裏士さんが、斜め上を見ながら顎に人指し指を当てた。
「そうねぇ…ほぼ見えないって言ったらどう?」
「そりゃ、速いな!」
「それに、あなたは何度もあの化物の攻撃を食らってたのよ?私には無理よ。」
「まぁ、俺魔王だからな。」
「調子に乗るな!!」
闇裏士さんに頭をはたかれた。
「てっ。」
俺は、今まで自分が闇士だと思ってたからな。コロシアム剣士の試合も、バイラインの時も、護衛団長さんの時も、魔獣の時も、俺は魔王の悪気で戦っていたんだな…。
なんか、複雑…。
だから、悪気の武器が平気だったのか…俺そのものだからな…。
「あら?マウア。らしくないわねぇ。そんなにへこむ事ないでしょ?」
「いや、メルナさん。今までの戦い全てが魔王の悪気だったのかって思ったら、ついね…。」
「全て?」
クラレスの闇裏士さんが、ファイの闇裏士さんを見た。つられて俺もミルカさんを見ると、ミルカさんは微笑みながら小さくうなづいた。
…違うって言ってるような顔してるけど…。
「それでマウア、解決法は見つかったの?」
「全然。」
「鈍感ねー、全く…。」
「なにそれ?じゃあメルナさん知ってるの?」
「知ってるもなにも、自分に聞いてみればいいでしょ?」
「俺に聞く?」
俺のことを??うーん…。
「ねぇ、ミルカ。やっぱり覚醒前にやっちゃう?」
「ウフフッ、ダメよ。マウア様、信じてますからね。」
「ふ~ん、うん。」
「じゃ、マリーナ、デリー!帰るわよー!」
「え?メルナさん、今来たばっかなのに、もう帰るの?」
「マウアはここで、正座でもして反省してなさい。」
「えー!」
「それとも、逆さ吊りの方がいいかしら?」
「勘弁してよぉ。」
「リホ様、私もお城へ戻ります。マウア様、リホ様をお願い致しますね。」
「ミルカさん、俺はいいけど…リホはいいの?」
「私はいいわよ。マウアが城まで送ってくれるならね。」
「ならいいけど、羽は隠さねーとな。」
「あ!そうだった!」
『アハハ』
「じゃ、天士様とクソ魔王様、まったねー!」
「マウちゃんまた後でねー。バイバーイ!」
「マウア。マウアならきっと出来る!」
「あぁ…。クソ?」
3人は手を振りながら帰って行った。
「リホ様、マウア様、それでは…。」
「はい。」
「ミルカさん、今日はありがとうございました!」
闇裏士さんも帰り、俺は天士と、また二人っきりになった。
う、う~ん。なんか、緊張してきたな…。
「あのさ、リホ…。」
「なに?」
「この丘で二人で話した時も、こんな感じだったな。」
辺りは、すっかり夜になっていた。
「そうね。今日も星がキレイ。」
「俺は、あの時の約束を守れたのかなぁ。」
「うん!」
「そっか…。」
「やっぱりウソ。」
「えー!?」
「だって、まだ終わってないもの。」
そう言った天士は、覚悟を語ったあの日の丘とは違い、吸い込まれそうな程眩しい笑顔をしていた。
なんだろう。リホは二人の想いに気づいたのかな…。
「でもさ、魔王になった姿の俺の笑顔ってどうなのよ?絶対こえーぞ?」
「そうかなぁ。意外にかわいいかもよ?」
「じゃあ、一応笑ってみるわ…。」
そうは言ったけど、自信はない。俺自身、覚醒した後どうなるのか全くわからない。意識は保てるのだろうか?リホは、覚醒しても翼以外変わらないように見える。そういえば、あの記憶の小柄な者は、今のリホと同じような感じだな。細かい所まで思い出せるって事は、俺の覚醒は近いのかもしれない。だけど、あのデカイ体で、俺はリホを攻撃するのか…。あの鋭い爪でリホを…嫌だ!魔王なんかになりたく…
「ならないわ。」
「え?」
「マウアは魔王にはならない!私は信じてるから。」
今一番欲しい言葉をもらったはずなのに、不思議と涙は出なかった。確信めいたリホの目が、俺をそうさせたのかもしれない。
「リホ…。」
「この丘でマウアと初めて話したあの日、私は全てを知らなかった。お父様に封印の儀を行うって言われても、どうするのかわからなかった。私が知っていたのは言葉だけ。お父様に言われてやったことは、マウアを探すことだけだった。でも今は、全てを知ってる…。」
「そっか…。」
リホ。リホは、俺に運命を共にするのが俺で良かったと言ってくれたよな。俺も、リホで良かったって、本気で思えるよ。
「私はね、みんなが出した答えがわかったよ。」
「そう言うと思ったよ。」
「マウア?わかったのは、みんなの答えよ?でも、私は最初から…知ってたわ。」
「最初から?」
「うん、一目でわかったから。」
あれ?今背中の羽が少し光ったような…
「リホ、今羽が…「光ったの?」
「あぁ。」
「天の力が溢れてるのね…。」
リホが両手の手のひらを見てそう言った時、俺は懐かしい感覚に襲われていた。
あれ?この感じ…あの時リホに治療してもらった時の温かい感じ…。
視点の合わない俺を見て、リホが何かを確信したように俺を呼んだ。
「マウア…。」
「リホ、しばらく目を閉じてていいか?」
「うん。」
ルーヒ国王様とミルカさんが、俺たちを導こうとした答え…。俺も…最初からわかっていたんだな。
……きた。この違和感は、リホが放つ天の力のせいだったんだ。これが、俺の闘い…。
「リホ…。」
「うん?」
横に座る天士を見ると、天士も目を閉じていた。
俺も再び目を閉じた。
「待たせて…ごめんな。」
「始めるのね………封印の儀。」
「あぁ…………終わりにしよう。」
「うん………。」
「リホ…」
「…」
「愛してる…」




