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闇の輝き  作者: ぴん
6章
45/53

忘れられた過去

side-ファイの闇裏士ミルカ



天士(リホ)様とマウア様は、おそらく丘へ行かれたのでしょう。ここからが、本当の始まり…。



「ミルカよ。」


「はい、国王様。」



「リホは天士として覚醒したが、わしらにできることは全てやった。そうだな?」


「はい…。」



「そなたには、色々と苦労をかけたな…。」


「いえ、そのようなことは…。私は、私にできることを行ったまで…ですから。それでも、国王様の想いが届くかどうかはわかりませんので…。」



「信じようではないか。あの二人をな。」


「はい…。では、失礼致します。」



三階の客室を出た私は、同じ階にある自室へと戻りました。そして、この計画の始まりを思い出していました…。




あれは、天士(リホ)様が12才を迎える数ヵ月前の晩。私はルーヒ国王様の部屋へと呼び出されました。



「国王様、お呼びでしょうか?」


「おぉミルカ。こちらに座りなさい。」



「はい。失礼致します。」


「いきなりですまんが、天才と呼ばれる裏士に聞きたい。この悲劇の連鎖を止める術はないか?」


「それは、封印の儀の事でしょうか?……私には、わかりません。」



「そうか…。わしはな、国王であるわしの娘が、天士として生まれてきたことに運命を感じている。繰り返される悪夢に、わしが終止符を打つ!そう思うのだよ。」


「お気持ちはわかりますが、この数百年もの間、誰にもどうすることもできないのですから…それは…。」



「そうだな。だが、いつかどこかで誰かが止めねば、英雄のはずの二人は悲劇のまま…。救われぬ。」


「おっしゃる通りでございます。」



「諦めるのは簡単だ。それを何とかしたいと思うのも、親心かもしれん。わしはそれでもよい。解決する方法を知りたいのだ。」



「では、これまでの過去を調べてみます。何か手がかりがあればよいのですが…。」


「うむ、頼むぞ。」



「承知致しました。」



部屋を出た私は、その足で資料室へと向かいました。ファイの国の裏士(うらし)となって約5年。裏士の歴史から、悲劇の始まりを振り返ることにしました。そして、1つ答えにたどり着いたのは、それから数週間後の事でした。



コンコン! 


「ルーヒ国王様、ミルカでございます。」


「ミルカか、入るがよい。」



「はい。」


「その顔は、答えが見つかったようだな。」



「はい。ですが、私が出した答えのみをお話するよりも、これまでの経緯を話しながらの方がご理解頂けると思いますので、ご了承下さい。」


「わかった。始めよう!」



私は、ひとつひとつ国王様に語り始めました。



「私たちが使っている天と悪の力とは、元々は、人が生きている間に魂へと溜め込んだ感情エネルギーであります。」


「うむ。」



「人が死に、肉体から魂が出る時、溜め込んだエネルギーは自然に浄化され、大地へと還元されます。愛などを主とする天のエネルギーは自然を育て、怒りや憎しみなどを主とする悪のエネルギーは、自然を強靭にする役割を果たします。各エネルギーを自然浄化した魂は、人々の祈りによって無の世界に昇ります。」


「そうだな。続けよう。」



「この自然へと還元されるはずの各感情エネルギーを生のない物体に蓄え、生きている人の肉体に利用したのが、ルーヒ国王様もご存知の通り、私たち裏士(うらし)であります。」


「ここから、悲劇が始まったのだな…。」


「はい…。」



「天の力は人々の怪我や病気の癒しに、悪の力は兵士の肉体を強靭にし、それぞれ役立てました。全て順調に見えたのですが、この行為が魔人を誕生させてしまいました。」


「なんとも皮肉なものだ…善とした行為が、悲劇招く結果になったのだからな。」



「はい…。魔人に対抗するには、天の癒ししかない。そう考えた当時の裏士(うらし)たちは、魔人に天の力を与えました。しかし、肉体の一時的な浄化は可能でしたが、内にある魂の暴動を、生きているうち止める事はできませんでした。」


「そこで、目には目を、悪には悪…か…。」



「はい…。武器に悪の力を与え、強靭な武器を手に魔人を倒しました…。」


「そして、一難去ってまた一難だな?」



「はい…。ご存じの通り、その武器を使った剣士が魔人化してしまいましたので…。」


「ミルカよ。後の祭りだが、すぐにその剣士を天の力で浄化することはできなかったのか?」



「そのような事例はありました。ですが、魂に与える影響が大きい為、魔人化を遅らせるに留まったと…。」


「そうか…。獣はよくても人はダメだということだな…。」



「そうでございます…。」


「ならば、肉体ではなく魂に直接天の力をか…。そなたと話しておると、わしでもそう思ってしまうな。」



「はい。しかし、裏士(うらし)には生きている人の魂のエネルギーを操る能力はありません。」


「本当の悲劇の始まりだな…。」


「はい…。」



「直接が無理なら、間接にとはな…。」


「はい。人々は祈りを辞め、裏士は自然浄化後の死者の魂に、天の力を与えました。そしてその魂を…「人に憑依させた…か。闇士の誕生だな。」



「はい、内側からの天の力で、肉体に与える悪の力を抑えることに成功しました。この時魔人にも試しましたが、互いに受け付けず失敗に終わっております。」


「ふーむ…。」



「その実験に選ばれたのは、二人の才ある男女の兵士でした。魔人の連鎖から人々を救った、英雄のはずの二人…。」


「2つの融合魂の誕生だな…。」



「はい………。英雄たちの死後、誰もが自然浄化されると思っていた感情エネルギーの突然の変化。そして、予想も出来なかった魂の融合…。」


「融合前に、裏士の浄化が必要だったのだな…。」



「はい、今ではそれがわかっていますが、当時は前例がありませんので。」


「そうだな。方法を知らぬ人々が、突然融合した魂を、巨大すぎるエネルギーを持ったまま無の国へ送ったのも責められぬ。祈るしかなかったのだろう…。」



「はい…。そして、生まれ変わった一人は天士(てんし)と呼ばれ、もう一人は魔王と呼ばれる事になります。魔王を止めるには、天士が命をかけるしかなかったのです。それからも、互いの肉体が消滅しては生まれ変わり、また闘う…。確かに、人々は魔人の連鎖から救われました。ですが、かつての英雄二人は、人知れず悪夢を繰り返しています。今日(こんにち)も…また…。」



「ミルカよ、そなたは2つの融合魂が正反対のエネルギーに変化した事実をどう考えておる?人々は、その奇跡のおかげで救われたと考えておるが…。」


「国王様、私の答えはそこにあります。」



「やはりか…。そなたがひとつひとつ説明しながらと言わなければ、確かに気づけなかったな。」



「私も、必然と考えました。実は、封印の儀は本当の意味で、人知れず繰り返されていたのです。」


「本当の意味…?どういうことだ?」



「国王様、最初の被害記録はご存知でしょうか?」


「もちろんだ。生まれ変わった魔王が、たった一夜にして一国を壊滅。人々は次々に魔人化…だったな。」



「はい、そして2回目以降は封印の儀と呼ばれ、成功の記録しかありません。これを私は、被害がなかったからと考えます。」


「うむ…。」



「被害がない。これは、覚醒前に封印の儀の準備が整っていた事は間違いありませんが、国王様がリホ様にお気づきになられましたように、天士は覚醒前の選別が可能であったからと考えます。ですが、覚醒前の魔王の選別はどう思われますか?」


「国民には報告の義務があるが…。確か、最初の被害記録にはこう書かれておったな。全く普通の子供と変わらなかった少年が、突然魔人化したと。」



「はい。人々には、覚醒前の魔王の選別は不可能だったと思われます。それでも被害がなかった事を考えますと、私はこれを天士が行っていたのではないか?と推測しました。」


「なにっ!天士が覚醒前の魔王を、選別だと?」



「はい、この推測には理由があります。それは、各国王様と人々の責任のズレが、主な理由になります。」


「責任のズレ…?」



「私は、この原因を立場の違いと考えました。監視役であります各国王様とは違い、人々はある者が天士とわかった時点で、魔王と闘う運命を察し…「まさか、その恐怖心から天士に近寄らなくなったというのか!」


「残念ながら…。天士の側にいるだけで、人々から非難されたと思われます。同様の理由から、国への報告も、人々は放棄しました。天士発見の古い記録はありますが、

少なくともここ数十年はありませんので…。」



「覚醒前の天士が、迫害を受けていたとは…。」


「はい、いつしか人々は、恐怖心から語ることを辞め、自然に平和が続くことから語り継ぐことを忘れ、さらに年月を重ねた今では、天士と魔王を知る者がいない状態となっております。」



「なんということだ…。人々に恐怖心を与えぬ為、

封印の儀は極秘に繰り返されてきたのではなかったのか…。」


「はい、当初はその目的がありましたが、今では結果的にそうなっております。封印の儀は、結果のみが各国王様に伝わり、記録として残されておりますので。」



「各国民が、関わりたくないと報告を放棄したにもかかわらず、封印の儀が無事に行われていた裏には、そのような事実があったのだな…。」


「はい。封印の儀の全ての報告が、私の故郷であります浄化村の歴代裏士長からのものだったことからも、この推測は裏付けできます。」



「わしは今、ようやく全てを理解したようだ。」



「はい…。天士は人々から見放され、心をかよわせる人物と出会います。それが覚醒前の魔王です。そして、天士といることで魔王もまた、同じように人々から迫害を受けます。二人には、絶望しかなかったと思われます。やがて二人は覚醒し、互いの絶望に終わりを誓うのでしょう。世の中に絶望した魔王の力なら、天士が封印の儀を行わなければ破滅できる場合も考えられました。ですが天士の魂が持つ天の力は愛です。これが、いつの時代も必ず封印の儀が行われた理由になります。魔王の覚醒が近づくと、能力の高い裏士は悪気に気がつきます。裏士は封印の儀の見届け人となり、消滅した二人に祈りを捧げた後、各国王様に報告をしておりました。この悲劇を生んだ原因は、元々裏士にあったのですから、いつしか責任や義務になっていたと思われます。私がこの事実を知るまでに時間がかかってしまったのは、私がこの黄の国へ10才で来たという年齢のせいかもしれません。これが、本当の意味で人知れず悲劇を繰り返していたと思われる…はっ!」



国王様…涙を……。



「ミルカよ、わしを許せ。娘のリホが天士でなければ、わしも人々と同じであったであろう…。報告書を見るだけで終わりだ。それで平和が続くのだからな。」


「…。」



「ミルカよ。」


「はい。」



「二人を絶望させてはならぬ。頼んだぞ。」


「かしこまりました…。」

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