表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の輝き  作者: ぴん
6章
44/53

あの記憶

しばらく続いた沈黙を破ったのは、天士(リホ)のいつもの声だった。



「ねぇマウア、ついてきてくれる?私、行きたい所があるの。」


「え?あぁ、いいけど…。」



「じゃあ、競走ね!よーい、ドン。」



天士(リホ)は、走ってどこかへ行ってしまった。



「ちょ、ちょっと待ってくれよー!リホー!あ、国王様、ミルカさん、失礼します。おいリホー!」



天士(リホ)を追いかけ、俺も部屋を出た。


リホの背中を追いかけてると、色んな事を思い出すよ…。今だけは、運命を忘れたい…。



「いっちばーん!マウアー!遅いわよー。」


「ハァ、そんなこと…言ったって…リホが速いのは知ってんだよ。」



「ウフフッ、マウアはまだ気づかないのね?」


「ハァ、え?何?」



「私にとってこの場所は、

庭みたいなものなのよ?」


「ハァ?ってことはなんだ…あー!近道かぁー?」



「そうよ。あの時、マリーナには話したけどね。」



丘に座ったリホの横で、俺は大の字に倒れた。



「アハハ、2度もやられたってことか。俺さ、前は天士の運動能力ってスゲーなぁって言ったじゃん?今日は覚醒した天士の能力かよ!って思って走ってたよ!」



「そんな訳ないでしょ。私は、これでも普通の女の子なんだからね。」


「背中に羽のある女の子が、普通な訳ないだろ?」



「あらっ?バレちゃった…。」



リホは、羽のコートを着ているかのように、翼を後ろから前へ閉じていた。広がった翼を見て、俺は改めて天士(リホ)が覚醒したことを実感した。



「キレイだな、その羽。リホはいいなぁ…。俺はさ、角とか牙とか生えて、ニレイの国王みたいな姿になるのかな…。」


「そしたら私が、えいって消してあげるよ!」


「そうだな…。」



消える…なんか、涙出そうだ。そうなったら、二度とリホに会えない…。俺をこの丘に連れてきた理由が、今わかったよ…。



「風が気持ちいい~!」


「ほんとだなー!」



リホの言葉と表情は逆だった。楽しそうな声が、切ない顔と合っていない。言葉に心が伴っていなかった。


リホは今、何を考えているんだろう…。あの日の夕方、ここで俺に言ったよな?天士(てんし)は命がけで悪を封印するって。なぁリホ。どうして俺に会いにコロシアムへ来たんだ?会わなければ…俺たちが他人だったら、今そんな切ない顔をさせずに済んだのに。もしリホが封印の儀をためらう事になってしまったら、俺は世界を滅ぼすんだぞ?責任取れねーよ。



「ねぇマウア。」


「ん?」



「私は、覚醒してからずっと考えてることがあるの。」


「何を?」



「あなたを救う方法。」


「何言ってんだよ。そんなこと、リホが気にすることじゃないよ。」



「これが、私たちの運命だから?」


「仕方ないさ…今ならハッキリとわかるんだ。俺の中にある、俺の知らない記憶がなんだったのかさ。リホも、気づいてるんだろ?だから、ニレイでアーサ国王を止められた。」



「うん…。」



変えることはできない…。何度も繰り返してきたあの記憶は…。封印の儀の記憶だったんだから…。



「嫌…。」


「リホ?」



「私、そんなの嫌…。無理ってわかってても、運命ってわかってても、嫌なものは嫌…。」


「リホ…。」



涙を堪えるリホに、かける言葉がみつからない…。どんな言葉も、慰めにしかならない。俺だって本当は…。



「いっちばーん!」



なんだ?



「ハァ、マリーナ…速すぎだよ…。近道でも使ったんじゃないの?」


「エヘヘ、ばれちゃった。さすがデリーだね。マウちゃんとは違うわ。」



マリーナとデリーじゃないか!



「あー!マウちゃーん!リホりーん!」


「え?本当だ!おーーい!」



二人が手を振りながら、俺たちの所へ来た。



「マウちゃん、城に行ったんじゃないのー?」


「あ、あのさーマリーナ、リホがいるからわかるだろ…。」



「アハハ、そっか。でもリホりん、その羽は何?天士の新しい道具?」



いつもの調子で話すマリーナに、俺たちの現状は重たすぎた。困った様子で俺を見た天士(リホ)に、俺は微笑みながら小さくうなづいた。



「マリーナ。私ね、天士として覚醒したの。」


「覚醒?スゴーイ!天士の羽ってかわいいね~。う~ん、アタシにも生えないかな…。」



「生えねーよ!マリーナは闇士だろ!」


「えー!マウちゃんだって闇士じゃ~ん。エヘヘ、お互い残念だったね。」



「一緒にすんな。俺はな、強そうでカッコイイ羽が生える予定なんだよ!」


「なにそれー。それじゃ悪魔みたいじゃん!」



「ま、まぁな…。」


「あれ?冗談で言ったのにへこまないでよー。」



「マリーナ…。」


「なに?デリー。」



長い付き合いだ。デリーには、隠せないな。



「ウソ?え?どういうこと?」



「マリーナ…。あのね…。」


「リホ、俺が話すよ。」



「うん…。」




「実は俺、もうすぐ覚醒して魔王になっちゃう運命でしたぁ!アハハ…。」


「マウちゃん!!」



「なっ、なんだよ。」


「そんなボケじゃ…もうお笑いコンビ解散だよ…。」


「そうだよマウア…笑えないよ…。」



俺の隣に座るマリーナとデリーの肩が震えていた。



「ねぇリホりん、何とかならないの?」


「ごめんね…マリーナ。」



「そんなの嫌だー!やっと…みんなでいろんなこと乗り越えて、それで今があるんだよ?それなのに…マウちゃん魔王って…信じたくない!」


「俺だって…。」



いや、マリーナ…ありがとな…。



「マウア、詳しく聞かせてよ。僕だって…納得できないよ。」


「わかった。」



俺は二人に全てを話した。真剣に聞くデリーと、泣きながら聞くマリーナだったが、泣き止んだマリーナの表情が、途中からおかしくなった。


俺、ちゃんと話したよな?伝わってないのか?



「これで全部だ。俺は、もうすぐ魔王として覚醒する。それを、リホが止めて終わり。そういうことだ。」


「ねぇマウちゃん、アタシ疑問だらけ。」


「疑問?」



だからマリーナは、途中から不思議そうな顔をしてたのか。



「うん、色々…。」


「マウア、僕もおかしいと思うよ。」


「デリーもか?」



「リホりんもおかしいと思うでしょ?」


「えっ?」



驚いた天士(リホ)もわからないようだ。闇士(マリーナ)は疑問を言い出した。



「だって、マウちゃんが魔王だってわかってるのに、どうして王様は封印の儀を先伸ばしにするの?」


「マリーナ、王様の心の広さがわかんねーかなー。気持ちを整理する時間を俺たちにくれたんだよ。後はほら…リホは娘なんだし親心とかさ…。」



「マウちゃんはホーーントにバッカだなぁ!」


「なにい!!」



「だってさー、アタシが王様だったら、そんな危ない橋は渡らないよ?マウちゃんが魔王に覚醒したら、すーぐ暴れるってわかるもん。ほら、今だって暴れそうだし。」


「あのなぁ…。」



「後ね、特におかしいのが最後のところ。でしょ?デリー。」


「そうだね。これは、昔から繰り返されてきたんでしょ?

その方法も。だから、王様は結果がわかってるのに、二人を信じるって変だよ。」




「言われてみれば…確かにそうね…。」



心当たりを思い出すように、天士(リホ)は言った。



「でしょー?リホりん。やっぱりおかしいよ。復活の儀に挑む!とか、マウちゃんがマウちゃん自身と闘うとかね。」


「マウア、王様とミルカさんは、二人に違う結果になることを求めてるとしか考えられないよ。」



マリーナ…デリー…。



「でも、それなら何で国王様とミルカさんはハッキリ言わないんだ?」



暗黒剣士(デリー)闇士(マリーナ)へ向かって言った俺の問いに、天士(リホ)が答えた。



「マウア、それは言えないから…かしら?理由はわからないけど。」


「そうだと思う。ねぇ、マウちゃん。何か心当たりはないの?」



「心当たりかぁ…う~ん…今思うと、変だなぁってのはあるけどなぁ…。」


「なになに?」



マリーナが身を乗り出して聞いてきた。



「リホの入れてくれたコーヒーが、ブラックなのにほんのり甘かった!」


「えーーー!本当にー!?」



「いやいやマリーナ、それは冗談。」


「もー、真剣に考えてよぉ…。」


「ごめんごめん…。」



ミルカさんか…。



「俺はさ、なんとなくだけど、見守られてる感じがするよ。」


「あ!!」



「リホもそう感じるか?」


「うん。」



「見守られてるって、マウちゃんとリホりんを?」



「あぁ…俺たち二人だよ。マリーナ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ