真実の産声
「マウア!気がついたのね!
もう…平気?」
「あぁ、大丈夫だけど…リホ、少し雰囲気変わったか?」
「え?そうかなぁ…。」
「なんかさ、大人になったというか…そんな感じ。」
リホが一瞬下を向いたが、すぐに笑顔で俺をテーブルに招いた。
「私、昨日15才になったからね。」
「マジかぁ!おめでとう…あ、ごめん。プレゼントないや…。」
「いいのよ、気にしないで。
それより何か飲む?」
「コーヒーごちそうになっていいか?いつかの約束だけどさ。」
「そうね!じゃあ、私いれてくるから、ちょっと待っててね。」
「うん、ありがとう。」
リホは部屋を出て行った。扉付近で立っていた闇裏士さんが、リホと入れ代わるようにテーブルへと来た。
「ミルカさん、リーナさんに聞いたんだけど、話って何ですか?」
闇裏士さんは、相変わらず冴えない顔で俺に接した。
「マウア様、今のリホ様のお姿を見て、どう…思われますか?」
「うーん、さっきリホに言ったけど、大人になった感じかな。」
「他に何か感じませんでしたか?」
「他に?」
どうしてそこまで聞くんだ?そう言われてもなぁ…。
「ごめん、ミルカさん。よくわかんないよ。俺にはいつものリホにしか見えない。」
「そうですか…。」
闇裏士さんが気を落としてる?俺に何かを期待していたとしか考えられないけど…。
ガチャ
「ん?」
リホが嬉しそうにコーヒーセットを持って帰って来た。
「おまたせー!はい、マウア。ブラックでよかったわよね?」
元の席に座った天士が、カップにコーヒーを注いでくれた。
「あ、あぁ。」
やべっ、忘れてたわ。…まぁいいか。
「頂きます。ん…?うまい!!これ本当にブラックかよ!」
「ウフフ。ほんのり甘味があるでしょ?」
「ああ!これならブラックでも全然いけるよ!」
「え?」
「あ!アハハ、ごめんリホ。
実は俺、ブラック苦手なんだ。あの時は…、その…見栄張っちゃってさ…。」
「もーう、それくらい言ってくれればいいのにー。」
「でも平気だよ。これ本当においしいから。」
「だから言ったでしょ?自信あるって。」
「だな。リホには敵わないや。」
『アハハ』
明るく笑う天士を見ていると、封印の儀をやり遂げ生き残った自信みたいなものを感じる。運命から解き放たれた!そんな感じ。闇裏士さんの求めた答えって、これだったのかな?
「マウア?どうしたの?」
「いや、嬉しくてさ。リホに命を下さいって言われて、封印の儀の約束が守れたからな。」
「そう…だね。」
リホの顔が一瞬曇った?今の…なんだったんだろう…。
「マウア様!」
「え?」
再び、闇裏士さんが鬼気迫る表情で俺を呼んだ。
「今日マウア様をお呼びしたのは…。」
コンコン!
ノックされた扉を見ると、そこには天士の父ルーヒ国王様が立っていた。
「邪魔する。よいかな?」
「お父様!」
天士が急に叫んだからなのか、ルーヒ国王様が突然来たからなのか、俺の中で一気に緊張が高まった。
「国王様!」
「ミルカよ、わしの口からマウアに話させてくれ。」
国王様が俺の名を知ってる?なぜ…。
「わかりました…国王様。」
ルーヒ国王様が、闇裏士さんの肩をなだめるように叩き、側の椅子に座った。手のひらを組みじっと見つめた後、覚悟を決めたように話し始めた。
「リホ、そしてマウアよ。よく聞くがよい。そなたたち二人は、これから復活の儀に挑まねばならぬ。」
「復活の儀!?」
俺は、その言葉で思わず立ち上がった。
復活の儀って、終わったじゃないか!なら…あれは一体…。
泳ぐ俺の目を止めたのは、ルーヒ国王様の力強い目差しだった。
「マウアよ、リホの姿を見て、違和感を覚えたであろう。リホは、天士として覚醒を果たした。それは、いずれ訪れる封印の儀に備える為だ。」
「では…。本当にまた復活の儀が…。俺はもう一度リホと共に戦うという事ですか?」
「そうなるな。だが、その戦う相手はマウア、そなた自身であると言えよう。」
「えっ?」
俺自身…?俺が…俺と戦う??国王様は、何を言ってるんだ…。
「マウア、そなたは今いくつになる?」
「もうすぐ、15になりますが…。」
「そうか…。」
ルーヒ国王様は立ち上がり、窓際へ歩を進めた。城下を見つめながら、静かに口を開いた。
「その日…、そなたも覚醒が始めるやもしれん。」
「俺が…覚醒?」
頭の中で、天士と闇裏士さんの態度がよぎった。悪い予感しかしない俺は、ガクッと椅子に座り込んだ。振り返ったルーヒ国王様が、少しうつむきながら話を続けた。
「マウア。そなたは世界を支配する魔王として、残念だが覚醒するであろう。」
魔王?俺が?国王様、悪い冗談だろ。何言ってんだよ…。そんなこと、急に言われたって理解できる訳な…。
俺の目に飛び込んできたのは、落胆する天士の姿だった。
リホ…そっか……覚醒したリホにはわかるのか…。俺が魔王だって。それなら…。
「国王様…。今すぐリホに封印の儀を…。じゃなきゃ俺は…。」
世界を救えない…。
堪えきれない涙を流しながら、俺は国王様へ訴えた。
「リホよ。」
「はい、お父様……覚悟はできています。」
力ない天士の声から感じた優しさが、心にしみた。
「マウアよ、わしはそなたを今すぐ封印するつもりはない。」
「どうして…ですか?俺だって、リホと約束したあの日から覚悟は出来てます!だから…。」
「フッ…。」
国王様が微笑んだ?
「わしは、二人の覚悟を見守ると決めたのだ!もちろん、これは世界の問題でもある。失敗は許されん…。だが運命を決めるのは、そなたたち二人であってほしい。わしはそう信じておるのだよ。」
国王様の両手が、俺と天士の肩に、それぞれ置かれた。
「そうですか…。」
リホに感じた違和感は、天士の覚醒じゃなかったんだ。俺が…魔王だったんだな…。




