変えたはずの運命
「は!?」
目覚めた俺は、混乱していた。
生きてる?そんなはずは…あれは夢…だったのか?ここは…俺の部屋。わからねぇ。ニレイでの封印の儀で、魔王アーサが倒れた姿は覚えてるけど…。いや、あれだけのダメージを負ったのに、俺の体に怪我らしい怪我は何一つない。やっぱり、夢か…。
いつものように食堂への階段を降りていると、聞き覚えのある鼻歌が耳に入った。
「フフフンフフーン!」
ヤンさんの鼻歌?ってことは、夢じゃないのか!?
階段を降り終えると、テーブルに座る元裏士さんの背中が見えた。
「おはよう、リーナさん。」
俺の声を聞いた瞬間、元裏士さんが信じられないといった顔で俺を見た後、スッと席を立った。
「マウア!あんた、何時だと思ってるんだい。もうお昼よ、お昼!」
「リーナさん?」
「あんたまだ寝ぼけてるの!
全く…ならあたしが一発…。」
まだ訳がわからない状況の俺に、元裏士さんが怒鳴りながら近づいてきた。俺は、思わず目を閉じた。
「えっ?」
気がつくと、俺は元裏士さんに抱き締められていた。
「マウア…おかえり…。」
「リーナさん…。」
泣いてる…。
「本当に、よくやったよ。」
「うん…。」
俺、生きて帰ってきたんだ…。
涙が自然に溢れた。
「うっうっ…。」
「リーナ様、マウアをいじめるのは私の役目ですよ?」
この声は、闇裏士さん?
元裏士さんから離れた俺は、テーブルに座る3人を目にした。
「マウちゃん泣かないでよぉ。泣かない…マウちゃーん!よかったぁー!うわぁぁぁん。」
「マリーナ、お前の方が泣いてるじゃねーかよー。」
「だって、だって、嬉しい時は泣くのーー!」
マリーナが勢いよく飛びかかってきた。俺はマリーナを受け止めた。
「わかった、わかったからさ。これじゃまた、二人してまぶたメイクになっちゃうぜ?」
「アタシはかわいいからいいのー!」
「あははっ。」
涙を袖で拭うマリーナの肩を元裏士さんと押しながら、闇裏士さんと暗黒剣士の座るテーブルへと歩いた。
「マウア、もうダメかと思っていたよ。でも、奇跡が起きたんだね…。」
「あぁ。」
涙を流すデリーと、熱く握手をした。
奇跡か…そうかもしれない。俺は、誰も変えられなかった運命を変えたんだよな。
「怪我はもう、大丈夫かい?」
「あぁ、大丈夫だ!」
やっぱり怪我していたんだな。あれからどれくらいの時間が…。
「みなさ~ん、お昼は感謝感激雨あられチャーハンで…マウアさーん!?」
「やっぱりあの鼻歌はヤンさんか。」
「もう大丈夫なのですか?」
「今ちょっと頭痛が…。」
「ダメじゃないですか!まだ寝てて下さい!」
「いや、怪我じゃなくてね…。」
「そうよ、ヤン。その頭痛はお仕置きなのよ。」
「メルナ様?お仕置きですか?」
呆然とする暗黒団長さんを見て、思わず笑ってしまった。
「アハハ、そうだよヤンさん。」
「はぁ…。ですが、本当に無事でよかった…。」
ハンカチで涙を拭いながら、暗黒団長さんは料理をテーブルに置いた。
「ねぇリーナ様、このチャーハン味見してみて下さい。おいしいですよー!」
「クラレスの国は色々あるわねぇ。」
そういえば、ヤンさんとマリーナがそんな約束してたな…。
「あら、これもおいしいわ。」
「でしょー!」
「メルナ様、私が!作ったのですからね?」
「さぁ、私たちも食べましょう。」
「えーー!無視ですかぁ?メルナ様ぁ。」
「わぁ、メル姉おいしー。」
「うん、ヤンさんは料理上手だよね。」
あの戦い、あの騒動が嘘みたいな雰囲気だ。みんなも無事でよかったよ。
「マウア、あなたも食べなさい。元気出るわよー!」
「うん。」
取り分けられたチャーハンをメルナさんから受け取り、スプーンで食べ始めた。
「おー!マジでうめー。」
『アハハ』
みんなの笑顔…平和な空気…本当に終わったんだな。封印の儀が成功したんだ。
食べ終えた俺は天士たちの事が気になり、あの場にいたメルナさんに聞いた。
「ねぇ、メルナさん。リホと裏士の…「ミルカ?」
「そう、ミルカさん!二人は…?」
「ファイの城に戻ったわよ。」
「そっか、無事でよかったよ。」
それから俺は、気を失ってからの一部始終をみんなから聞いた。
封印の儀が終わり、コロシアム騒動も片付いた後、ニレイの国はめちゃくちゃになったらしい。特にまずかったのは、裏士がいないことだったようだ。だけど、今のニレイの裏士が、あのちっちゃいニコと言われたのにはびっくりした。闇裏士さんを目標にしていたぐらいだから、実力的に問題はないのだろう。裏士の側にいた、暗黒団長さんの部下であるクラレス暗黒団も残ったらしい。コロシアムで自然浄化されなかった悪気の排除を考えると、妥当な判断だ。
王様には、アーサ国王と険悪だったらしい弟が王座に就き、一応形にはなったようだ。あの王と険悪なんだから、まぁいい人かもしれない。傑作だったのは、覗き店ロウのおっちゃんが王様の側近ってことだった。緊急だし国中を知り尽くしてるから、適任と言えばそうなんだけど。
こうして混乱を治めるのに3日。気を失っている俺とリホを馬車に乗せて、ファイの国へ帰ってきたのがおとといだったようだ。天士は昨日目覚めたらしい。
天士の話が出た途端、元裏士さんが思い出したように言った。
「そうよマウア!あんたが目を覚ましたら、城へ来るようにミルカに言われてたんだわ。」
「そうなんだ。俺もリホやミルカさんにお礼が言いたいし、行ってくるよ。」
「アタシもリホりんに会いに行くー!」
「マリーナ、リホも目覚めたばかりだし、呼ばれてるのはマウアだよ。」
「お母さん…。」
「マリーナ、そんなにショボくれるなって。リホによろしく伝えておくからさ。今日は一人で行くわ。」
「はぁ~あ、つまんないの。」
「じゃ、行ってきます!」
俺は店を出て、一人ファイの城へと向かった。
剣を背負わずに街を歩けるなんてな。
城へ着き、門番に事情を話すと、壁にある電話で中へ伝えてくれた。中へ入ると、入り口に闇裏士さんが立っていた。
「マウア様、お待ちしておりました。」
「ミルカさん!おかげでなんとか…。」
「話は奥で…、こちらです。」
「あ、はい。」
闇裏士さんの表情に、妙な緊張感があった。三階まで階段を上ると、廊下を少し歩いた所で闇裏士さんが足を止めた。
「こちらです。」
闇裏士さんが扉を開けた。周りに人は誰もいない。
「どうぞ、お入り下さい。」
「どうも…。」
闇裏士さんに一礼して先に部屋へ入ると、白い丸テーブルが置いてある椅子に座る天士と目が合った。
「お!リホー。」
うん?リホ…?




