奥の手
side-クラレスの闇裏士メルナ
「くっ。」
ネルアも魔王に気を取られてるようね…。
「こしゃくなぁ!うおっ!くっ、小僧がー!」
魔王アーサがイラついてる。ようやくマウアの本気が出たか。よし、今ならいける!裏士の実力も見切った。決めさせてもらうわよ!
「ハアァ!」
私は、隠していた悪気を込めた一撃を振るった。弾かれた裏士の剣が床に落ち、カランカランと虚しい音が響いた。
「この力は悪気…。メルナ、闇士になっていたのか!」
「隠してこその奥の手よ。ネルア、終わりにしましょう。」
尻餅をついた裏士の首もとに、私は剣を差し向けた。
「くっ。私は…私はまだ諦めない!」
その刃を、裏士が両手で掴んだ。
「なにを!?」
「ぐふっ…。」
私の剣をみずから胸に…。ネルア…なぜ…?
「奥の手は最期まで隠すもの。そう言ったのはあなた自身よ、メルナ。」
「がはっ!ハァ…ハァ…。」
自ら剣を抜き、裏士はフラフラの状態で玉座の横の台に置いてある闇の水晶へと歩いていく。倒れると同時に、右手を水晶に当てた。
まさか…あなたの本当の狙いは…魔王アーサ!?
水晶からモヤモヤと溢れ出た悪気の中へ、裏士は自らの魂を委ねた。
ネルアが私を闇士と知らなかったように、あなたも自ら闇士となる技をあみだしていたというの?信じられない、こんなのありえないわ。まずい…私は堕天士長の魂を守る為に、天の力を使い果たしてしまった。今の私にネルアの魂を浄化する力はない…。ミルカは封印の儀に集中してる。天士の邪魔も出来ない。…ダメだわ!時間がない。このままでは、ネルアの魂が魔王の中に。油断したのは私の方だった…。
パーン!
えっ?天の力?
裏士の魂は浄化された。天の力が放たれた方向を見ると、視線を魔王アーサに向けたまま、手を広げた右腕のみをピンと伸ばした闇裏士の姿があった。
「ミルカー!」
「メルナ、私ではありません。」
「でもその手はあなたの…。」
「ミラよ…。」
「ミラ?」
ミルカの手に、天の刻印が刻まれてる。
ミルカの意志に関係なく、ミルカの中の堕天士長が天の力を放ったと言うの?
「私の指示で…私のせいでミラは命を落としたのに…。」
「違うわメルナ。あなたがやらなければ、その役目は私でしたから。」
「ミルカ…どうして…どうして…ミラを…?」
「全ては二人の為…。決着を見守りましょう、メルナ。」
淡々と話す闇裏士の言葉は、まるでミラが話しているかのように聞こえた。そして会話の最中も、ミルカの視線は魔王アーサからそれる事はなかった。戦いはまだ終わっていない。
マウア、リホ。あなたたちの最期、ここで見守らせてもらうわ。封印の儀の成功、頼んだわよ!




