始まりの終わり4
「ただいまぁ…」
「…」
リーナさんもマリーナも、もう寝てるよな…。
二人を起こさないように、俺はそぉっと階段を登って自分の部屋へと入った。
「ふぅ~。」
やっと部屋に帰って来た気がする。デリーが入院して、一人で寝るのもかれこれ1週間か。デリーにあんな態度を取ったけど、本当は凄く恐い。俺があんな奴らと闘えるのか?剣士になって、やっと一人前になれたと思ってたのに…。
この世に悪魔がいて、俺が世界を救う?これが現実…あれっ、何泣いてんだ。リホの力になりたいけど…どうして俺なんだ…特別な人間ってなんだよ…。
その日、眠りにつけたのは朝方だった。
-翌日
「ふわぁ、おはようリーナさん。」
「マウア、おはようじゃないわよ。もうお昼よ。」
「え?昼?疲れてたのかなぁ。スゲー寝ちまった。」
「寝てる場合じゃないわよ。悪魔が出たんじゃないかって、噂が広まって街じゃ大騒ぎよ。確かに、一部のコロシアムの観客は見てしまったからね。護衛団の発表だと、悪魔ではなかったって言い続けてるらしいけど。」
「そうなの?話が違うじゃん。」
「当たり前でしょ。この街に悪魔が出た!なんて事になったら終わりよ。みんなが街を出て行ったら、国が崩壊してしまうわ。アンタ、まだ寝ぼけてるならアタシが一発…。」
「わぁー、待った待った。起きてる、起きてるって!」
それにしても、リホの件といい悪魔騒動といい、リーナさんは冷静だよな。歳のせいか…?って、まだ30半ばか。デリーと一緒で、知っていたのかな?
「とにかく、これ食べ終わったら訓練団に顔出してきな。」
「訓練団に?」
「行けばわかるわ。そうそう、娘も一緒に行くから、ちゃんとナイクに話してくるのよ。」
「それはいいけど、何でマリーナも一緒なの?」
「マウちゃん、酷ーい。」
食器の片付けをしていたマリーナの声が背中に突き刺さった。
俺の言い方が気に入らなかったのか?
「お店の看板娘と一緒に歩けて嬉しいでしょー?」
「いやいや、そういう意味じゃなくてさ。目的地が訓練団だからだよ。」
まさか、リーナさんはマリーナを訓練団に入れようとか考えてないだろうな…。俺たちみたいに。
「まっ、そういう事だからマウア、よろしく頼むわよ。」
「リーナさん。わかったけどさぁ…。」
そう笑顔で言われてもね。まぁ娘を訓練団に入れる感じじゃないからいいか。
「じゃマリーナ、行くか。」
「エヘヘ、お母さん行ってきまーす!」
とりあえずリーナさんに言われるがままに、俺とマリーナは訓練団施設へ向かった。
そういえば、マリーナと出かけるなんて初めてかもしれないな。俺はコロシアム剣士、マリーナはお店の看板娘。お互い忙しいから、そんな暇もなかなかないんだけど。
ナイクさんに話せか…。頭はまだ混乱したままなんだけど。今日リホに会って、もっと話を聞いてから色々考えようと思ってたのになぁ。
でも、リーナさんの頼みじゃ断れないし。とりあえず気持ち切り替えて、この用事を済ますか。
「なぁマリーナ、何でお前まで訓練団に?」
「アタシも知らなーい。」
「はぁ?何だそれ。てっきりマリーナは知ってるもんだと思ってたぞ。」
「アタシだって、ナイクさんに会えって言われただけだもん。」
隠してる様子はないか。本当に知らないみたいだな。まぁ、いいや。行けばわかるだろ。
「ナイク先生に会うのも久しぶりだな。いつぶりだっけなぁ?あ…。」
「ん?」
そういえば、護衛団長をしていたマリーナのお父さん、シフおじさんが事故で亡くなった時、ナイクさんは部下だったんだよな…。ナイクさんが、嘆いていたのをよく覚えてる…。
「マウちゃん!マウちゃんってばー!」
「えっ、あぁ。」
「今、気にしたでしょ!」
「いや、その…ごめん。」
「私は気にしてないから大丈夫だよ。」
マリーナは二・三歩スキップして先に行った。一連の騒動とわずかな知識から連想した俺は、聞かずにはいられなかった事を聞く為、マリーナに追い付いた。
「あのさマリーナ、もしかしてあの時シフおじさんは事故じゃなくて悪…「シッ!ほら、街の人たちに聞かれるでしょ!」
やばっ。リーナさんにも言われてたな。俺が知らなかったように、これは隠すべき事実だったな…。
「そうか。今ならなんとなくわかる気がするよ。だから、ナイクさんに会うのか。」
「そうじゃないかなー。」
体験に勝る知識はないってことか。俺の考えなんて、リーナさんにはお見通しなんだろうな。本当、不思議な人だ。
「そういえばさ、昨日は大丈夫だったのか?」
「うん、リホならちゃーんと送り届けたよ。すごく楽しかった。」
楽しかった?
「そうじゃなくてさ。誰かにつけられたり、襲われたりしなかったか?」
「それはなかったけど、リホの帽子を届けに来た人ならいたよ。」
なにぃ!?
「ちょっと待て、マリーナ。今届けに来たって言ったか?」
「うん。何か変なの?」
「変!」
「あはは。変なのはマウちゃんだよ。」
俺?俺なの?
「だってさ、俺は天士に近づくなって言われたんだぞ?」
「そんなの当たり前でしょ。」
「そうなの?」
「天士には定められた運命があるんだから。それよりマウちゃん、着いたけど入口わかんない。案内してよ。」
「あ、そうだな…。」




