復活の儀の予兆
「大会に出場された皆さん。命知らずのその勇気に、まずは感謝を述べさせて頂こう。私は、強さのみを望む。強さこそが全てであり、平和を勝ち取る最大の武器である。最高の試合を、思う存分楽しんでくれたまえ。」
『おーーー!!』
『感動したーー!』
『国王様ーー!!』
観客は喜んでるし、立派なスピーチに聞こえるけど、なんか攻撃的だな。
「アーサ国王様、ありがとうございました。ではさっそく、一回戦第一試合を始めたいと思います。選手の皆様は、ご退場下さい。」
来賓席は、ここから20メートル程の高さとガラス張りの部屋だった。
やっぱり、優勝して下に降りてもらうしかねーな。
「マウア…。」
デリーも同じことを考えてるようだ。
「あぁ。デリー、後は俺たちが優勝するだけだ。」
「それしかないね。」
ニレイの国王、絶対にたどり着いてやるぜ!
控え室に戻り出番を待っていると、部屋に放送が入った。
「一回戦第一試合、チーム25対美女と野獣。選手の皆様は、入場して下さい。」
「あら、いきなり私たちじゃない。」
へ!?俺たちって?メルナさん、ササッとAチームって書いてなかったか?
「メルナさん?俺たちの番ってどういうこと?」
「どうもなにも、私たち美女と野獣だけど?」
マジ!?
「なんだよそれ!俺たち野獣かよ!」
「何よマウア。身に覚えがないとは言わせないわよ?」
逆さ吊り…。
「う…、頭がイタイ…。」
「冗談はここまで。私に回したら、晩ごはん抜きだからね!」
「ここまでを冗談にしてよ…。」
「つべこべ言ってないで行くわよ!」
リーナさんといい、裏士ってみんなこうなのかな…。
控え室を出て、俺たちは入場口へ向かった。
そういえば、チーム25ってどんな奴等なんだろう。やっぱり暗黒剣士なのか?
入場口へ着くと、二人の大会関係者が立っていた。閉まっている扉を開ける役目だろう。
「アナウンスでチーム名が呼ばれましたら、入場して下さい。」
「わかったわ。」
メルナさん気合い入ってるなぁ。服装はカジュアルなんだけど…。
「それでは第一ゲートより、チーム25の入場です。」
次か…。さすがに緊張するな。
「続きまして、第二ゲートより、美女と野獣の入場です。」
「さぁ、みんな。行くわよ!」
『おー!』
扉が開き、中央闘技場に目をやると、そこに立っていたのはあのちっちゃいニコだった。
「あれ?メルナさん。」
「あちゃ…いきなりニコとはね。なるほど、チーム25。」
おぉ、25(ニコ)だな。
「両チーム、前へ。」
審判の声で、それぞれのチームが対面した。
女一人に男四人か。強そうには見えないな。
「メルちゃん、わらわは一騎討ちを挑む。先鋒で来るのじゃ。」
「ニコ、それは無理よ。私は大将だから。」
「むっ!」
「でもまぁ、懐かしい顔ぶれだしサービスで先鋒でもいいわよ。」
「ちょっとメルナさん!そりゃねーだろ。」
「マウアさん。行きましょう。」
「なっ!」
俺は、ヤンさんに腕を掴まれながら闘技場を降りて待機席に座らされた。
「何だよヤンさん。」
「実はですね、ニコさん以外の方々は、私の部下なのです。もちろん暗黒剣士ですが、メルナ様は彼らの実力を把握してますので、ニコさんの申し出を受けたのですよ。」
「ふ~ん。」
「それでは、先鋒戦始め!」
審判の声と共に、観客の声援が鳴り響いた。ニコは、威勢よく短剣を構えたが、メルナさんは手ぶらだ。
メルナさん、体術でも使うのかな?
「ではメルちゃん、行くぞ!はぁー!」
「ふ~ん…。」
ニコの攻撃は全然当たらない。メルナさんは余裕でかわしている。
「ハァ、さすがじゃのう。」
「ニコ、あなた本気で私に勝とうと思ってるの?」
「当たり前じゃー!」
再び斬りかかったニコの腕を、メルナさんは右手で払った。
「いつぅ…。」
短剣は宙を舞って闘技場の床に刺さった。ニコは、払われた右手の甲を左手で押さえながらメルナさんを睨みつけている。
「ニコ、諦めなさい。」
メルナさんは、呆れた顔でため息混じりにニコを見た。
「まだやる…。」
「懲りないわね。」
メルナさん、めんどくさそうだな。
「メルちゃんは…メルちゃんはいつもそうじゃ…。いつも冷たい態度でわらわを…。」
ニコって子、泣いてるのか?
「何を言ってるのよ。ニコだって、いつも私を睨んでるじゃない。」
「わらわは、メルちゃんを睨んでなどおらぬー!」
「じゃあ、なんなのよ?」
「だから…それは…。あ、憧れてなにが悪いのじゃー!」
「憧れ?」
「そうじゃ!わらわはメルちゃんが大好きで、いつも追いかけていたのじゃ。なのに…それが、いつの間にかどこかに行ってしまったではないかー!」
「だって、それは…。」
「やっと会えたと思ったら、メルちゃんはネルちゃんと勘違いするし…。全部ヤンのせいじゃ!」
「えー!?私の…せい?」
「アハハ。そうよニコ、ヤンのせいよ。」
メルナさん嬉しそうだなぁ。隣で一人へこんでるけど…。
「ごめんねニコ。あなたと同じで、私も素直じゃないのよ。」
「どうして、何も言わずにわらわを置いていったのじゃ…?」
「だから、謝ってるでしょ?ニコ」
「嫌われたと思った…。メルちゃん怒ってばかりいたから…。」
「それは…ニコが私にちょっかいばかりするからよー。」
「それも、わらわの勘違い?」
「そうよ、私はニコを見捨てていなくなった訳じゃないし、嫌って怒ってた訳でもない。」
「め、メルちゃん…。」
ニコはメルナさんに抱きついた。
一件落着、かな。
「はいはい、また後でふわ金あげるから、もう許してね。」
「どんぐり汁もくれる?」
「どん汁!?あなた好きね…変わってないわ。いいわよ、ヤンにお願いするから。」
「ホントー!やったぁ!」
「うん!じゃあ、後ろの四人の涙ももらったし、この様子なら試合は終わりでいいわね?」
「もちろんじゃ。強くなったわらわをメルちゃんに見せられないのは、残念じゃがな!」
「調子に乗るな!ウフッ」
「アハハ」
メルナさんは、ちっちゃなニコのおでこに軽くチョップした。
まぁ、よかったな。
「それよりヤンさん、って!」
「かっ、感動で涙が止まりません!」
号泣してるし。さっきまでへこんでたのに。
「あのー、試合はどうされますか?」
あ!そうだよ審判。どうするんだ?
「メルちゃんチームの勝ちでよいぞ。」
「わかりました。勝者、美女と野獣!」
へ?終わっちゃったけど…。
「バカヤロー!早く次の試合やれよ!」
まぁ、納得いかない客もいる…なにっ!
俺はスタンド方向を見て目を疑った。
今あいつ、隣の観客を投げたよな?これは喧嘩じゃない…。
ふとマリーナを見た。
真剣な目で奴を見ている…やっぱりそうだ!俺でもわかる。奴からは悪気を感じる!
『うぅっ』
『ぐあぁ』
何だ?あちこちから苦しむ声がする。数が尋常じゃないぞ!まさかこれは…リホの言っていた復活の儀が始まったっていうのか?
「ハッ!」
光?苦しんでいた人が、気を失ったかのように倒れていく。魔人化を一時的に止めた
のか。
「ミラさーん!」
マリーナが見た方向を見ると、堕天士長のミラさんが苦しむ人々へ向け、次々に光を放っていた。
さすが、困った時のミラさんだ!可哀想だが、動けないうちに止めを指すしかねぇ…。
だが、動こうとした瞬間に腕を掴まれた。
な!?
「ヤンさん?どうして…。」
「ぐあぁ」
なんだ?誰が矢で攻撃を…。
「マウア!私たちに任せなさい!!」
「そうじゃ!」
「メルナさん!ニコ!」
メルナさんとニコは、闘技場からスタンドへ次々に矢を放っていた。メルナさんはニコに矢を借りたようだが、借り物でも的は外さないところはさすがだ。
スゲェな…。
「さすがメルナ様。それに、裏士ニコさんですね。」
「ヤンさん…。ん?ちょっと待って!今ニコを裏士って…。」
「はい。彼女は裏士ですよ。」
「そうなんだ…あはは。」
ビックリしたけど、これなら被害を最小限に出来るかもしれない。
「あんさーーーん!」
呼ばれた方向は、第一ゲートだった。覗き店ロウのおっちゃんが、叫びながらこっちに走ってきた。
「おっちゃん!?」
「大変でっせ!この大会の本当の目的は、強者の選別ではなく排除でっせ!控え室の連中は、すでにみんな殺られちまったっす!」
なんだって!?
「外も暗黒剣士だらけ。もうめちゃくちゃでっせ…。」
「おっちゃんは避難してくれ!っておい、おっちゃん!」
「メルの姉さんに伝えてきやす!」
「くっそ、こうなったら俺がみんなぶっ飛ばしてやる!」
「待ってマウちゃん!」
「なんだよ!マリーナ!」
「マウア、落ち着くんだ。」
「デリー、お前まで…。」
そこには、見たこともない二人の真剣な顔があった。
「ここはアタシたちに任せて!リホりんが心配なの…もしこれが復活の儀の始まりなら、リホりんは封印の儀を…。」
「だから、マウアは急いで城へ向かって!!」
俺は無言でうなづき、目を閉じた。
はぁ~、そうだ落ち着け…。冷静になるんだ…。よし!
目を開けた俺は、二人を同時に抱き締めた。
「デリー、マリーナ、リホは俺が必ず助ける!そしておそらくは封印の儀を…。二人とも…死ぬなよ…。」
「マウちゃん…。」
「マウア…。」
二人から離れ、城へ向かおうとした時だった。
「マウア!待ちなさい。」
「メルナさん?」
「あんさん!アッシが案内しまっせー!」
「おっちゃん…。」
「マウア様ー!急ぎましょう。」
スタンドからミラさんが叫んだ。
ミラさん…。
「マウア!天士を助けなさい!じゃないと、晩御飯抜きよ!」
メルナさん…。こんな大変な時だってのに…ありがとう!
「ミラさん、ニレイの城へ行こう!おっちゃん、道案内頼むぜ!」
「任しておくんなせー。」
この場はみんなに任せる!仲間を信じるんだ…。
俺は、覗き店ロウのおっちゃんとゲートからコロシアムの外を目指した。
リホ…今行くぞ!




