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闇の輝き  作者: ぴん
4章
31/53

数々の訪問者

裏切られたと思ったが、おっちゃんはメルナさんの言った二重スパイ中なのかもしれないな。あの男は、おそらくニレイの護衛団長。おっちゃんはこっちの情報は何も言ってないし、決めつけるのは早いな。だけど俺は信じてるぜ。


しばらくしてニレイの護衛団長らしき男は去り、おっちゃんもどこかへ行こうとしていた。



「マリーナ、おっちゃんを追うぞ!」


「待ってマウちゃん。あの犬…。」



「犬?」



マリーナが、ジーっとおっちゃんの犬を見ている。その怪しげな顔は、俺を少し不安にさせた。



「なぁマリーナ。何だって言うんだよ。それよりおっちゃんに逃げられ…「悪気…。」


「はぁ?」


「あのわんちゃんから悪気を感じる。マウちゃん、このままじゃマズイよ。」



マリーナは犬の側に行った。俺もマリーナについて行ったが、その間におっちゃんを完全に見失ってしまった。覗き店だけに、足は早いみたいだ。



「やっぱり。マウちゃん、このわんちゃんを浄化しないと。」


「あぁ。魔獣になっちまう。」



おっちゃんの犬だし、子犬の命を今すぐ…ってのは心が痛いしな。



「よし、そうと決まれば急ぐぞマリーナ。」


「うん。」



仕方なくおっちゃんの追跡は諦め、俺たちは犬を連れてメルナさんの店へ駆け足で戻った。


急げー!暴れだしたら大変だぞ。


店へ着き、マリーナがドアを開けた。



バーン!


「メル姉!!」


「おかえりマリーナ。早かったわね。それより、その犬はどうした…ヤン!」


「はいっ!」



「天の水晶を持ってきて!それと砂も。」


「え?わかりました。」



厨房にいたヤンさんは、よくわからないままメルナさんに頼まれた物を取りに二階へ行った。


本当に浄化できるのかな…。


抱えた犬を、メルナさんが真剣に見ている。今は裏士(うらし)の顔って感じだ。



「メルナ様!お持ちしました。」


「ありがと。ここに置いて。」



メルナさんが、テーブルに置かれた水晶と小瓶に入った砂と犬をそれぞれ見ている。でも、表情が険しい。



「足りないわね…。あの酔っぱらいに使いすぎたわ。」



酔っぱらい?デリーが気絶させた奴か。確かあの時、メルナさんは魔人化を遅らせる為に砂を使ってたな。魔獣ならそれで浄化できるのか?そういえば、マリーナもイノシシの時に何か使おうとしてたけど…。



「仕方ない。マウア!」


「え?俺?」



突然メルナさんに呼ばれると、ヤンさんが両腕で抱えるくらい大きな布の袋を持って俺の前にきた。



「両手を水汲みのように出しなさい。」


「うん。」



一体何をするの?


ヤンさんが袋の口を開けると、小瓶に入っていた砂と同じような砂が袋に入っていた。その砂が、俺の手のひらいっぱいに乗せられた。



「メルナさん?」


「いい?マウア。天の水晶もビンの砂も、浄化するのに天の力が足りないのよ。だから今から、あなたはその砂に天の力を注ぐのよ。」



「天の力?って…それって天士の?」


「そうよ。」



「メルナさん、俺は闇士だぜ?そんなの無理だよ。」


「いいからやりなさい!」



そんなこと急に言われても、どうするんだ?やるしかないのか?


俺は、よくわからないまま手のひらに集中した。



「んぐぐぐぐ…。」



すると、砂が黒く染まっていく。



「ダメね、やり直し。マウア、その砂は悪気だから外にばらまいてきなさい。」


「はぁ…。」



そりゃそうだよ。俺は闇士だから悪気が込められるのは当たり前。っていうか、裏士のメルナさんならこれくらいわかるもんだろ?なのになんでなんだよ。


不満はあったが、言われた通り砂を外へばらまいて店に戻ると、メルナさんはまた同じことを要求した。



「ぐぐぐ…。」



くっそ…天の力なんて出やしねー。



「黒か…ダメね、やり直し。マウアもう一度よ。」


「メルナさん!ちょっと待ってよ。」



納得いかなかった俺がメルナさんを呼んだその時だった。



「ワン!」


「あー!こらー!」



マリーナの抱えていた犬が突然吠えて外へ走って行ってしまった。砂の件は中断し、先に追いかけたマリーナの後を追った。



「ワン!」


「おお!ワン。ここにいたんでっか。探したで~こいつぅ。」


「ワンワン!」



立ち止まったマリーナの先にいたのは、ロウのおっちゃんだった。



「これはマリーナはんにあんさん。実はワンを探してたんですわ。今朝エサをあげて、少し目を離したらいなくなってまして。助かりましたわ。」


「それがおっちゃん。その犬はまだ助かってないんだよ。」



「へ?と言いますと?」


「悪気のせいで、このままじゃ犬が魔獣化しちゃうんだよ!」



「あんさん、ホンマでっか!?」


「あぁ。だから早くメルナさんに!」



「わかりやした。」



再び店へ戻った。


おっちゃんの後ろにいたマントの人は誰なんだろう?フードで顔を隠してたみたいだけど…まぁいいか。



「あら?飼い主まで連れて来たの?」


「偶然おっちゃんがいて、犬を捕まえてくれたんだよ。それよりメルナさん。俺に天の力を砂に込めるのは無理だと思うんだけど。」



「そうねぇ…。」



「ロウさん、噂通りいいお店ですね。」


「そうでっしゃろ?」



マントの人、いつの間に…。でも今の声、どっかで聞いた覚えが…。えっ!?何でここに?



「マウア様、まさかこのような場所で会う事になるとは。」



フードを脱いだその顔は、堕天士長のミラさんだった。



「ミラさーん!」



マリーナは、助かったとばかりにはしゃいでいるが、俺はミラさんがここにいる理由が気になった。



「ミラさん、晩餐会ではどうも。」


「あまりお相手できなくて、申し訳ありませんでした。次回は是非…。」



「それよりさ。ミラさんがここにいるってことは、リホを助けに来たの?」


「助ける?マウア様、何か勘違いをされていませんか?天士(リホ)様は、この国に招待されて来たのですよ?」



「招待?だってあの夜、城で特護の二人が殺されて、俺たちは裏口で魔人と闘ったんだ。その時、拐われるリホを見たんだよ!」


「その、ファイの城にいたという魔人はわかりませんが、我々は確かに裏口から出ました。どうやら余計な心配をかけてしまったようですね。この訪問は極秘に行われてますので、ご理解下さい。」



険しい顔の俺とは逆に、ミラさんは笑顔を浮かべた。



「じゃあリホは誘拐されたって訳じゃないってこと?」


「もちろんです。リホ様は今、他の堕天士とニレイの城におられますよ。」



そっか…よかった。



「あ、でも何でロウのおっちゃんと?」



「アッシは観光案内もやってるんでっせー。お迎えに行って、ワンを繋ぐのを忘れて戻ったら行方不明で。ミラのダンナに、ファイの国の人たちの話をしたら是非会いたいと言われまして、それでここへ。ワンが見つかったのは偶然でっせー。」


「へぇー。」



「あなた、覗きの案内とかしてないわよね?」


「してまへん、してまへん。メルの姉さん、滅相もない。」



「ならいいけど。マウア、天士(リホ)が無事でよかったじゃない。」


「あぁ。これで国に…帰れないじゃーん!」



「そうだよマウちゃん。まだ魔人騒動の件があるもん。」



マリーナの魔人騒動という言葉に、堕天士長(ミラ)さんが反応した。



「魔人騒動?それは例のですか?」


「うん。ミラさんならニレイの国王様に会える?」



「会えない事はありませんが…その言い方ですと、ニレイの国王様が魔人騒動の容疑者なのですか?」



堕天士(ミラ)さんの問いに、クラレスの裏士(メルナ)さんが答えた。



「実はね、堕天士(だてんし)さん。私たちクラレスの国でも同じ騒動が起きてるのよ。この国が怪しいのは間違いないわ。」


「クラレス?あなたのような方がここニレイにいるのは、魔人騒動が理由なのですか。」



どうやら、堕天士長(ミラ)さんはメルナさんをただ者じゃないと、すでに見抜いてるようだな。さすが。



「そう。だけど証拠がないのよね。ミラさん、協力してくれるかしら。」


「アタシからもお願い。お母さんの容疑を晴らしたいの。」



「ええ、協力しましょう。そうですね…。それとなく探りを入れてみましょうか。報告は、ロウさんにお願いしますので。」


「スケベ店ロウじゃあてにならなかったのよ。助かるわ。」



「姉さん、信用してくだせー。」


「冗談よ。それでミラさん、滞在期間はどれくらいなの?」



「今週末に行われるコロシアム団体戦の招待客として来ていますので、約1週間程度かと。」


「俺たち、その試合に出るんだよ!」


「本当ですか?マウア様。これはこれは。」



「ミラさん、その決勝戦までに、証拠が欲しいのよね。」


「わかりました。最善を尽くします。では、私はまた別の場所を案内して頂きますので、この辺で失礼致します。実は私、今日はお休みなのですよ!」



堕天士(だてんし)も仕事って事か。コロシアムでデリーの試合を見た時も、休みの日だったのかな?



堕天士(だてんし)にお休みって、何か変だね。」


「マリーナ様、そんなことありませんよ。リホ様にもお休みはありますから。リホ様があの丘に行かれる時はプライベートなので、護衛がいないのですよ。」



知らなかった…。アハハ



「では皆様、またお会いしましょう。ロウさん、お願いします。」


「アッシはまた覗きにきやすんで。」



「おっちゃんまたねー!」



大会の来賓か…。まぁリホは天士だけどお姫様だしな。堕天士もいることだし。



「あー、ビックリしたぁ。何でミラさんっていっつも急に現れるんだろーね?」


「マリーナ、それは正義の味方だからだろ?俺も見習おうかな…カッコイイし。」


「そう言えばマウちゃん、何か忘れてない?」



リホは無事だし、後は大会で優勝して、魔人騒動でニレイ国王を問い詰めるだけじゃ…。あ!



「犬よ!」


「そうだよ、メルナさん!しまったぁー。おっちゃーん!」



「マウア!堕天士にお願いするのよー!」


「わかったぁ!」



俺は、すぐにおっちゃんを追いかけた!



「おっちゃーん、待ってってばー!」


「お?あんさんどうしたんでっか?」



「犬だよ犬ー。浄化するの忘れてた。」


「おー!そうでっせ。」



「ミラさん、お願いします。」


「犬を私に?…なるほど、これはマズイですね。」



ミラさんは、犬を地面に座らせた。



「皆さん、少し離れてて下さい。ハッ!」



ミラさんの放った天の力が、おっちゃんの犬を光で包んだ。徐々に悪気がモヤモヤと浮かび上がる。



「おー!」


「あんさん、何か見えるんでっか?」



「そっか、おっちゃんは見えないのか。悪気が浄化されて、飛んでいったんだよ。」


「そうでっか。なら、もう大丈夫でっしゃろか?」



「えぇ、もう心配ありませんよ。」



ミラさんの浄化が終わった。



「おぉーワンちゃんよかったでー!ミラはん、ありがとうございまっせ。」


「どういたしまして。」



「ねぇミラさん、今の悪気は追わなくていいの?」


「浄化した悪気の場合、悪の力は自然へと帰ります。本来は、これが普通の流れなのですよ。」


「そうなんだ。よかった。じゃ、俺戻ります。リホによろしく伝えて下さい。」



「わかりました。コロシアムでの健闘、期待してますよ。」



「狙いが優勝だからね。頑張りますよ。ロウのおっちゃんもまたねー!」


「あんさん、ありがとうでっせー!」



二人に手を振って、その場を後にした。


ミラさん、悪の力を浄化すると自然に帰るって言ってたなぁ…。どういうことだろう?俺には難しいや…。

あれ?なんか怪しい奴がいる。店の中を覗いてる?新たな覗き店か?


俺は物影に隠れ、会話を盗み聞きした。



「間違いない。ここじゃ。」


「今こそ我らの思いを…。」



小さな女の子と同い年くらいの男か…年下だな。声かけてみるか…。



「おーい!覗いてないでメシ食いに来たなら入ればいいじゃん。」



「なっ!何でもない。誰がこんな店入るのじゃ!行くぞ!」


「はっ、はいっ。」



「なんだぁ?」


走って行っちゃったけど、どっかで見たような関係だなぁ…。



「ただいまー」


「いらっしゃい…あー、おかえり。どうマウア?浄化できた?」



「バッチリだよ。さすがミラ堕天士長(だてんしちょう)だね。ところでさー、メルナさん誰かに追われてるとかない?」


「そりゃー、私くらいになれば追っかけの1人や2人は分単位でいるわよー。」


「マジかよ…。」



つーかここ、クラレスじゃなくてニレイの国なんだけど…。



「マウア、急にとうしたのよ?」


「今さ、外で怪しい二人組がいたんだよ。だから聞いたんだけど。」



「怪しい二人組?わからないわねー。いいのよ、ほっときなさい。」


「メルナさんがいいなら、俺もいいんだけどさー。」



マリーナ風に言えば、ブッ飛ばせばいいって事か。



「そんなことよりマウア、コロシアム初戦まで3日しかないのよ。しっかり腕を磨いておきなさい。」


「おう!任せとけー!」



「メルナ様ぁ?(わたくし)はまだ出ると納得しては…。」


「全く、クラレス暗黒団長の名が泣いてるわよ?デリー!」



「僕は、頑張ります!」



「よろしい。マリーナ!」


「エヘヘ。アタシも試合やってみたかったんだよね。」



…メルナさん、ドヤ顔似合うな…。



「わ、わかりました…。」


「イッヒヒ!」



ヤンさんも大変だな…。



「それでマウア、覗き店ロウの方はどうだったの?」


「ニレイの護衛団長みたいな人と話してたけど、俺には五分五分(ごぶごぶ)に見えたよ。」



「五分五分か…。十分ね。」



メルナさんは笑顔だった。


いいのかなぁ…。メルナさんの事だから、考えあっての判断だろうけどさ。

後3日か…。マリーナじゃないけど、リホの無事がわかったからワクワクしてきたぜ。待ってろよ!ニレイの暗黒剣士!



そして3日後、コロシアム大会当日を迎えた。

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