表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の輝き  作者: ぴん
4章
30/53

覗き店ロウともう一人の生け贄

ー翌朝ー


眩しい…。あ、そうだった。俺、逆さのままだった…おっちゃん!?


「…ぐっ。」



歯を食いしばって苦しそうだ。



「おい、おっちゃん!大丈夫かー?もう限界か…ん?」


「フフフンフーン。今日も元気にお洗濯ー。」



ヤンさんだ!



「助けてくれー!」


「ん?今声が聞こえたような…。下でしょうか…。あれ、ロープがなぜベランダに縛られて…マウアさん?」



「やっ、ヤンさーん!やっと気づいた…。」


「朝から何かの修行でありますかー?熱心ですねー!」



「違うって。そんなボケいらないから、早く引き上げてよー!」


「え?そうなのですか?わかりました。」



ヤンさんに引き上げられた俺とおっちゃんは、ベランダにへたれこんだ。おっちゃんはまだ目を覚まさないが、息はしている。


助かったぁ…。



「マウアさん、どうされたのですか?」


「デリーに吊るされたんだよ。メルナさんに言われてね。」


「メルナ様に言われて、デリーさんが?ですか?」


「あぁ、そうだど…。」



変な聞き方だな。驚いてるというか、面白くないというか、そんな感じだったけど。



「むむむっ。まさか私が知らない間にメルナ様の信頼を得て、私の立ち居ちを奪おうとお考えなのでは?そうはさせませんぞー。」


「いやいや、ヤンさんそりゃないって!



「うっ…。」


「おっちゃん?気がついたか?」


「…。」



ダメだったか…。超短い間だったけど、楽しかったよ、おっちゃん…。



「zzz…」



って、まだ寝てるんかよ!!苦しそうな夢を見るのはわかるけどさ。



「おっちゃん、起きろー!」


「わぁァァァ!お許しをー!…あれ?朝?助かった?」



夢でメルナさんに襲われてたのかな…。



「おはようございます。」

「おはよう、おっちゃん。」


「ブラザー?おーーー!」



おっちゃんは、ヤンさんの両すねに抱きついた。



「何泣いてるんだよーおっちゃん。アハハ。」


「そうですよー。」



「よかったー。よかったでっせ。アッシはもうダメかと。」



俺もそう思ってたよ。



「あー、みんなおはよう!」



ベランダから下を見ると、デリーが笑顔で見上げていた。



「その様子じゃ、もう覗きの件は終了みたいだね。」


「覗き?」

「逆さ吊りでっせー!!」



覗きというキーワードは、俺とおっちゃんの頭を刺激した。



「いたたたた、デリー止めてくれ。思い出すと頭がいてぇ…。」


「許して、許しておくんなせー!あぁ…頭が…。」



「あ?本当にメルナさんの言った通りになった!」



デリーはくすくす笑っている。


こっちはそれどころじゃねーのに。



「デリーさん、私は負けませんよー!」



ベランダから下を覗きこみながら、ヤンさんはデリーに無意味な宣戦布告をした。



「え?は、はい?」



ただのヤンさんの勘違いだから、デリーの反応はそうなるわな。


ぐぅ~。



「あ、お腹鳴っちゃった。そう言えば、夜メシ食べてなかったな。」


「マウアさん、朝食の用意でしたら済ませてありますよ?」



「おー!さすがヤンさん。じゃ、遠慮なく頂くよ。おっちゃんも行こうぜ!」


「アッシもいいのでっか?」



「もちろんです。たくさん作りましたので。」


「ブラザー!」



俺とおっちゃんは、一階の店へ向かった。


もう覗きは辞めよ…てててっ、思い出すと頭が…いてっ。


一階に着きテーブルを見ると、見たこともない料理が置いてあった。



「おー!これは…」


「うまそうでっせ。」



席に着いた俺たちは、口にかきこむようにむさぼった。



「ふむ。見た目はふわふわ。麺は細いが歯ごたえがある。これはうまいでっせ。」


「うん、最高!うまー!」



「ヤン、おはよ…。」



め、メルナさんだ…大丈夫だよな?



「貴様ー!なぜメシを食べている!マウア、お前もだー!」



全然ダメじゃん…。フフっ、でも俺には秘策があるんだよね。



「メルナさん、ヤンさんに頼んだんだよ。」


「そうでっせ。ヤンさんにごちそうになっただけでっせ。」



すると、タイミングよくヤンさんが洗濯を終えて下に降りてきた。



「ヤン?これはどういう事?」


「いえ、きっとメルナ様も同じことをされると思いましたので。」


「なっ!?」



メルナさんの顔が真っ赤になった。やっぱりね。



「そっ、そうね。そうよヤン、わかってるじゃない。」


「いやぁ、よかったです。」




「おはよー!あ、マウちゃん生きてたの?残念、おかえりー。」



おいマリーナ。どっちかわかんねーぞ?



「なぁ、俺が死んでたら困るだろ?まぁ、あのくらいじゃ死なないけど。」


「それよりマウちゃん、しっかり反省したぁ?」



「したさー。もうコリゴリだよ。メルナさん、マリーナ、ホントごめんなさい。」


「アッシも、ホント申し訳ない。」



腕組みをしたメルナさんが、一息ついた。



「いいわよ。もう忘れてあげる。」


「メル姉がいいならアタシもいいけど、ホントにいいの?」



「マリーナ。心配なら、試してみればいいのよ。」


「試す?」


げっ!?



「メルナさん、ストップ!」


「そうでっせ。それだけは勘弁してくだせー。」




「ね?わかった?マリーナ。」


「う~ん。よくわからないけど、二人の顔を見たら納得できた。」


「でしょ。」



本当にもうごめんだよ…。



「ところで、マウアがおっちゃんと呼んでる中年デブのあなた。名前を聞いてなかったわね。名乗りなさい!」


「アッシはロウと言いやす。覗き店をやっておりますので、ニレイで知りたいことがあれば是非。」


「ふ~ん、覗き店のロウね。」

 


「それにしても、マウアのあんさんにはビックリしましたぜー。あの時、アッシの通り名で叫ばれたんでね。」


「覗き店が?」


「ええ。」



覗き野郎…覗きやろう…「覗き店ロウ!!って、おっちゃん、まぎらわしいんだよー!俺が叫んだのは、覗き野郎だよ。」


「一緒でっせ?」



「……まぁ、いいや。それより覗き店ってなんだ?」


「情報を集めるのが仕事でっせー。」




「あの、それでしたら情報店ロウでもよいのでは?」


「ブラザーヤン。それではポリシーが伝わらないでっせー。アッシは覗きに命を懸けてますんで。」




「なら、そのポリシーがより伝わる、スケベ店ロウに今この瞬間から変更!!」



パンッ!と、メルナさんはおっちゃんの肩をはたいた。



「いててっ、そ、そんなぁ…。」


『アッハッハ』



「覗き野郎の名もわかった事だし。そろそろ昨日話したコロシアム団体戦の作戦を説明しようかしら。」


「ちょっと待ってくだせぇ。メルの姉さん、団体戦に出場するんでっか?」



「何よ?そんなに驚いて。昨日決めたのよ。…そうね、あなた情報店でしょ?何か知らない?」


「もちろん知っ…るらないでっせー。」



おっちゃん噛んだ!?



「へぇー。覗き店のポリシーもたいしたことないのね。」


「そんなことないでっせ。だってアッシは…。」


「アッシは?」



「アッシは…かぁーっ。メルの姉さんには敵いませんなぁ。わかりやした。話やすが、内緒にしてくれまっか?」


「もちろんいいわよ。」



「実はアッシ、この家を調べるよう頼まれたんでやんす。その頼まれた相手がちと厄介でして。」


「この家を調べてたですって?いつからなの?」



「つい3日前からでっせ。」


「ふ~ん、穏やかじゃないわね。それで、あなたに依頼したのは誰?」


「護衛団長様でっせ。」



ニレイの護衛団長だって!?



「なんと!それは本当ですか?それで、これまでどのような報告を?」



ヤンさんも顔が真剣になった。



「まだ報告はしてないんですわ。1週間の期限付きでしたので。」



「あなた、どこまで知ってるのかしら?」


「スリーサイズでっか?」


「アホー!」





「冗談でっせ。これまでアッシの覗きによると、この家に住んでるのは二人。メルの姉さんとブラザーヤンですな。」




「ブラザーヤンって…そういえばさっきも…。」


「どうしたデリー?何かおかしかったか?」



「だって、ヤンさんがロウさんといつブラザーになったの?」


「もちろん昨日さ。ちなみに俺もブラザーマウだ。」



「えー?いつのまに…。」




「デリーはん、話進めてえーですかな?」


「あ、はい。」




「お店は朝7時から夜9時まで。この間、不明の怪我で出てきた客が二人。一人は他に入っていた客はいないので、この店が怪しい。もう一人は、3人さんが入っていたので関連性は不明。今のところは、護衛団が目をつけるだけのことはあり!とまぁ、こんなとこでっせ。」



「もう一人って誰だ?」


「マウアさん、メルナ様をナンパした酔っぱらいであります。蹴りで男の急所を…「ヤン!」


「はいっ!…すみません。」



「とにかくこの情報、ニレイの護衛団に渡す訳にはいかないわね。スケベ野郎、全て忘れなさい!」


「覗き店ロウでっせ。」



「どっちでもいいわよ。で、あなたどうするの?」


「アッシは仕事ですから従ってましたけど、本当は護衛団嫌いなんですわ。メルの姉さんが抱きしめてくれるなら、すぐに忘れまっせー。」



「調子に乗るな!いいロウ、今からあなたは二重スパイになりなさい。向こうの情報を徹底的に覗くのよ!」


「わかりやした。ところで、メルの姉さん方はクラレスの国とわかるのですが、あんさんたちはまた別なんでっしゃろ?」



「あぁ、俺たちはファイの国から来たんだ。」


「ファイ?こらまたえらい所からいらしたんですなー。もしかして、天士(てんし)様がいらしたのと関係があるんでっか?」



「お、おっちゃん!今…。」



天士がいらした…って言ったよな?



「ん?アッシは何か変なこと言いましたかね?」


「ねぇロウさん、それどういう事?リホりんはニレイに拐われたはずなんだけど。」



そうだよ!


だが、俺の態度にもマリーナの言葉にも、ロウのおっちゃんは動揺しなかった。



「誘拐ってことでっか?いやいや、天士様は封印の為にこの国に来たそうでっせ。護衛団長直々に聞きましたし、生け贄はこのニレイにおりますんでね。」



どういう事だ?全然わからないぞ…。



「あら?生け贄はマウアじゃなかったの?」


「メルナさん…。そのはずなんだけど…。」



「えーーー!じゃ、じゃああんさんも生け贄でっか?」


「一応…。」



でも、確かにリホは生け贄が一人とは言ってなかった。封印の儀に必要な生け贄は、複数必要なのか?わからねぇ。



「そうね…。その生け贄の事を詳しく知りたいけど、ニレイの城には入れないし。」



メルナさんの言う通り、この戦力でも無理だろうな。そうだ!



「ロウのおっちゃんなら入れないの?ほら、護衛団長経由とかでさ。」


「あんさん無理でっせ。やりとりは全て城下町で行ってますんで。」


「そっか。」



俺以外の生け贄…。本当に存在するのか?もしそいつが本物なら、俺は一体…。



「こうなると、天士の目的はわからないわね…。でも、私たちのやる事は1つよ。」


「メルナさん、試合してる場合じゃないよ。俺もう訳わかんないし。」



「いいマウア、コロシアムにはニレイの国王も来るのよ?一石二鳥じゃないの。」



そうだけど、気持ちが焦るな…。



「あの包囲網の突破は無理。だから団体戦に出るんですね?」


「はい。一般参加を含む試合なら、コロシアムに入っても疑われない。これがメルナ様のお考えではありますが…。」



デリーの問いにヤンさんが答えたが、ヤンさんは不安そうにメルナさんを見た。心から賛成はしてないようだ。



「ヤン、他に近づく方法がないのよ。」


「ですが、それでも王族の席は観客の届かない位置にありますので…。」



「大丈夫よ。それまでに裏を取るわ。だから二重スパイなのよ。」


「まさか、強行突破するつもりでっか?そりゃいくらなんでも無理でっせ。」



「城よりはいいでしょ?」


「いけません、メルナ様。もしメルナ様の身に何かあったら…。」



「冗談、しないわよ。」


「本当にお願いしますよ。」



ヤンさんも、メルナさんの相手は大変そうだな。



「でも、他に方法はないのか…。」


「あんさん、強行突破の自信があるんでしたら、この際優勝するのはどうでっしゃろ?そうすれば、表彰式で顔を合わせられまっせー。」



そうか!



「それよ!やだぁ、簡単じゃなーい。」



大会に出てニレイ王に近づく予定から、ハードルはかなり上がるな。でも、それなら意地でも優勝するしかない。



「簡単って。メルの姉さん、腕に自信があるようですが、今度の大会には黒い噂がかなり飛び交ってまっせ。大丈夫でっか?」


「それを早く話しなさい。」



「へい。今度の大会には、国王軍の強化が目的として隠されているらしいっす。つまりスカウトでんな。その為に、あえて暗黒剣士を出場させるとのことでっせ。」



「へぇー、面白そうじゃない。ねぇマリーナ。」


「うん。最初からブッ飛ばすつもりで来てるしね。」




「へ?今のは冗談でも何でもないでっせ。本気でニレイの暗黒剣士に勝つつもりでっか?」



「しつこいわねー。当たり前でしょ。私たち闇士なんだから。」


「うん、マウちゃんもね。」



「えーーーー!あんさんも?

やっ、闇士言うたら伝説ですやん。それが三人て。こらぁ凄いでっせ。」


「さらに、この二人は暗黒剣士だったりしてー。」



マリーナがヤンさんとデリーを順番に指差した。二人は少し照れていた。



「ほんまでっかー?デリーはんにブラザーヤンが暗黒剣士?あの、皆さん後でサイン頂けまっか?」



「構わないけど、あなた裏士のサインいらないの?」


「うっ、裏士!!!ホンマに存在してるんでっか?」



「ええ、私だけど…。」


「うえェェェェ!?ぶったまげましたわ。伝説を超えてまっせ。メル姉さん、とんでもない人やったんですなぁ。

いやぁー、自信にはこんな裏付けが。」


「まぁね、こんなとこよ。」



「そうでっかー。団体戦は5人やし、これでしたら問題ありませんな。にしてもまぁ驚きましたわ。これは報告できまへんなぁ。おっと、ブラザーヤン、今何時でっか?」



「もうすぐ開店の7時ですね。」



「そうでっか。危ない危ない。アッシ、犬を飼っておりやして、毎朝この時間に餌をあげないと吠えて吠えて近所に迷惑かけるんですわ。ブラザー、ごちそうさんでした。また覗きに来ますんで、メルの姉さん、よろしく頼みまっせ。」


「いい?ロウ。絶対に秘密にしておくのよ!」


「わかってまっせ。」



「ロウのおっちゃん、またね。」


「くれぐれもバレぬよう、お気をつけ下さい。」



「おー、両ブラザー。了解でっせ。」



「またね。」


「どうせすぐに覗くんでしょ?」



「デリーはんはともかく、マリーナはんはキッツいでんなぁ。表向きは覗きまっせ。では。」



おっちゃんは、走って帰って行った。



「じゃあ、作戦をたてるわよー。」



早速か。メルナさんやる気満々だな。目標はコロシアム大会優勝。その時、ニレイの国王が姿を現す。おそらくは、ニレイの裏士もいるはずだ。それまで、頼りはおっちゃんの情報…頼むぜ!おっちゃん。



「それじゃあまずマウア、ロウをつけなさい。」


「へ?なんで?」



「情報に嘘がないからよ。」


「ん?なら問題ないじゃん。」



「そうね…。見つかるべくして見つかり、捕まるべくして捕まり、情報を流すべくして流した!要するに、話がうますぎるのよ。ただのスケベじゃないわね。」


「本当にそうなの?」



「だからハッキリさせてきなさい。早く行かないと、見失うわよ?」


「わかった。」



俺は店を飛び出した。



「アタシも行くよー!」



振り返ると、マリーナがついてきた。


まぁいいか。俺は、おっちゃんを信じるぜ!


マリーナとおっちゃんの後を追い様子を見ると、おっちゃんは言っていた通り犬にエサをあげていた。



「おー、よしよし。遅くなったな、いっぱい食べるんやでー。」



平和だな。とりあえず問題は…ん?誰か来た。



「ロウ、うまく潜入できたか?」


「これはビク様、成功でっせ。」



なにぃ!?



「詳細はまたでいい。引き続き奴等を見張れ。」


「了解でっせ。」



おっちゃん…。マジかよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ