クラレス暗黒団の実力
「マウア、あなた男だからよ!」
「はぁ?何だよそれー!」
「私だって知らないわよー。昔からそう決まってるんだから。でもまさか、あなたが生け贄とはね。」
「俺には生け贄とか関係…なくはないけど、とにかくリホを助けたいんだ!」
「二人は世界の希望…だからかしら…?」
この人、考えるポーズがやけに色っぽいな…。
「それがねメル姉。そうだけど、それだけじゃないんだよねー。」
「意味深ね。マリーナ、話して。」
闇士が闇裏士さんに耳打ちしてる。
「ゴニョゴニョ。」
マリーナの奴、余計な事言いやがって。俺はリホが好きとか一言も言ってない…よな。
「えー?そんな話聞いた事がないわよ?でもいいじゃなーい。なんかロマンチック。」
「でしょー。」
本当に姉妹みたいだ…。
「デリー、マリーナが二人いるような気が…。」
「アハハ。にぎやかになりそうだね。」
「マウア!」
さっきまで笑っていた闇裏士さんが、強い口調で俺を指差しながら呼んだ。
「え?はい。」
「気に入った!天士の奪還、および魔人騒動の解決、私たちと共に必ず達成する!いいわね!!」
「は、はい?」
よくわかんねーけど、まぁいいか。
「ねぇメル姉。アタシたち今日潜入してきたから寝床なくて困ってるの。泊まっていい?」
「もちろんよ。ヤン!」
「はい。」
あの男の店員さんは、ヤンって名前か。
「あなたの部屋にデリーとマウアを泊めてあげて。マリーナは私の部屋で寝るから。」
「了解しました。ではこちらへ。」
「どうも…。」
ヤンさんに一礼した俺と暗黒剣士は、そのまま後ろをついていった。奥へ案内され、階段を上がりながら、少し考えていた。
本当は俺たち、ファイの国の裏士を探してたんだけど。まぁ、とりあえずファイの裏士が犯人じゃなさそうだ。
魔人騒動はニレイの仕業だとしても、俺やデリーの事はファイの裏士の仕業だと思うから、結局は会いたいんだけど。リホがさらわれて、今はそれ所じゃないか。救出するには力がいる。で?この人はクラレス暗黒団か…にしても…。
「ねぇ、ヤンさん。」
「はい、何でしょう?」
「なんで俺たちにまで敬語なの?ヤンさん二十歳くらいでしょ?俺ら十四だし、そんな必要ないよ。そもそも、俺たち敬語使ってないしさ。」
「ええ、…そうでしたね。では。あー、あー、まっ、マウ。マウア。こっ、ここが俺のへ、や…ごほん。ダメです。無理みたいです。私は、幼い頃から王族に仕えてきましたので、その癖で違和感が。誰と話しても、敬語になってしまうのです。お許し下さい。」
「マウア、変な感じするけど、それなら仕方ないよ。」
「そういうことなら、もう気にしないよ。」
「ありがとうございます。では、こちらが私の部屋でございます。どうぞ、お入り下さい!」
「おーーー!」
ヤンさんに案内された部屋を覗くと、見事なまでに綺麗に整頓されていた。
だけど…。
「これ、何?」
「もちろん、見た通り人形でございます。素晴らしいですよねー?美しいですよねー?」
嬉しそうなのは構わないが、ヤンさんそうじゃなくてさ。
「この人形、よく見ると全部同じぬいぐるみだよね?」
「だな。でもどこかで見た気が…あ?」
このセクシーなポーズ。それに抜群のスタイル。これって…。
「めっ、メルナさーん!?」
「はい、メルナ様でございます。クラレスの次期裏士でありますからね。国民からの人気はものすごいですよ!」
ヤンさんは、かなり上機嫌だ。
それにしても、すごい数だぞ?百はあるな…。
「特殊護衛団すら秘密になってる僕らの国とは大違いだね…。」
「本当だよ。まさか裏士が人形になるとはな…。」
もしリーナさんが人形になったら…う~ん、メルナさんに負けないかも…。って、俺は何考えてんだよ。
「そうなのですか?ファイの国は厳しいのですね。では、現在の裏士をご存じではないのですか?」
「知らないよ。」
「僕たちの国では裏士そのものが秘密扱いですから、会えないんです。」
「私の感覚では理解できませんね…。あ!メルナ様のサインもありますよ!ほら。」
意外にミーハーな人だな。どれどれ…。
「おぉ!このサインいいな。へぇ~。メルナさんって人気者なんだね。」
「それはもう。街を歩けば民衆に囲まれ、悪が現れると誰よりも早く駆けつけて一人で倒して浄化までしてしまいます。今回も、自らこの国に乗り込んで事件を解決しようと頑張っておられます。美しく、そして誰よりも強い。あこがれない方がおかしいですよ。」
「ヤンさん。そんなに凄い人と任務中だなんて、ヤンさんもただ者じゃないんでしょ?」
「その通りよ。」
部屋のドア付近から、闇裏士さんが突然割り込んだ。
「めっ、メルナ様ぁ。そんな、私などまだまだ…。」
「その前にヤン…。これは何なの?」
闇裏士さんが部屋中を照れながら見ている。
さすがに自分の人形がこんなに並んでたら、恥ずかしいよな。
「申し訳ありません。私の宝物でありますので、クラレスに置いていく訳にはいかなかったのです。」
「そう。全く、あの大荷物の正体はこれだったのね。」
「うぅ。」
「仕方ないわね。エースの顔に免じて、許してあげるわよ。」
「エース?めちゃめちゃ強いってこと?」
「当たり前でしょ!王族に仕えてたんだから。そうね…。マウア、あなた試してみる?」
「いいのか?ヤンさん怪我しても知らないぜ?」
「生意気言うわねー。構わないわよ。ね?ヤン。」
「メルナ様?今からでございますか?」
「なによー。嫌なの?軽くやるだけなんだからいいでしょ?」
「軽くですか…。わかりました。」
自信ありげだが、俺だって簡単にはやられないぜ。
「よーし、やってやる!」
俺たちは、店を出て少し開けた荒野に来た。互いの距離が20メートル程の位置に立ち、剣を抜いた。
クラレス暗黒団のエースの力、見せてもらうぜ!
「準備はいい?勝敗のタイミングは、私が決めるわ。」
「おう!」
「マウちゃん、手加減なしだよー!」
「いつも通りやれば大丈夫。」
「よし、ヤンさん!じゃあ遠慮なく行くぜ!」
一気に距離を詰めた俺は、高くジャンプし剣を振り抜いた!
まずは上段…
「はぁ、でりゃー!」
「フッ…。」
キーン!
止められが、一瞬地面についた足の反動で、勢いそのままに暗黒団長さんの後ろへ飛び距離を取る。
「さすが!次は本気で行くからね。うりゃー!」
「ふーん、なかなかのスピードね。でも…。」
再び間を詰める。俺は上に飛ぶと見せかけて、今度は前に跳ねた!隙だらけの足を下から狙った。
同じ距離からのフェイントだ。もらったぁー!
キーン!
え?止められた!
「やれやれ。君の力はこの程度か?」
ん?ヤンさんのしゃべりが?目つきも違う。
「あれ?なんか人格変わった…。」
「マリーナ、あのヤンさんが普通に話してるよ!」
「デリー、それ驚く事なの?」
「うん…多分。」
何なんだこの人。しゃべりはともかくつえー。今のは足を切り裂くつもりだったんだぞ?隙もあったのに…さばきが速すぎるのか!
「どうしたの?マウア。もう終わり?」
少し茫然としていた俺を、闇裏士さんがちゃかした。
「うるせー!メルナ………さん。次は本気の本気だー!だりゃー!」
無我夢中で次々に剣を繰り出すが、ことごとく止められる。暗黒団長さんが、まだまだ本気でない事は明らかだった。
「くそっ!」
キーン!
ダメだ。押し込んでも動かねぇか…。
「メルナ、終わらせてもいいかな?」
「くっ!?」
「えっ?いっ、いいわよ…。」
「メル姉?あはっ!もしかしてメル姉…。」
おもいっきり、死ぬ気で行くしかねぇ…。
俺は助走をつけ、覚悟を決めて正面からの一突きに賭けた。
「うおぉぉぉ!」
スッ…
「なっ?」
受けずに横へ!?かわされた…。
「なかなか。でも、まだまだ。」
ブシュ!
カウンターの形になった暗黒団長さんの剣が、俺の腹を浅く切り裂いた。
「いってーっ。」
「そこまでね!」
「えーー?ちょっ、まだ…。」
「…あ!マウアさん、申し訳ありません。大丈夫ですか?」
あれ?目つきが優しくなった。
「戻ったぁ!ヤンさんって面白~い!」
マリーナは余裕だな。ヤンさんに勝てるって言うのか?
「チェッ、悔しいな。ヤンさん強いや。」
「マウアさんも、強かったですよ。」
そう言いながら、暗黒団長さんはハンカチを出して俺の傷に当てようとしたが、俺はその手を払った!
「でも俺、いつも試合序盤は調子でないんだよね。だから、手加減された傷の手当てなんかより、もう一回だけやらせてよ。いいだろ?メルナさん!」
「負けず嫌いね。いいわよ。そのかわり、次は本当に死ぬわよ?」
「あぁ、構わない。死が怖くて剣士が務まるかっつーの。」
集中するんだ…。
「デリー、マウちゃんって確か逆転勝利が一番多い剣士だったよね?」
「うん。派手な試合が多いよ。マウアはピンチになると信じられない力が出るんだ。そんな姿に興奮して、ファンになる観客も多いみたい。負けないのもそうだけど、逆境に強すぎるんだよ。」
「ふーん。」
集中…。
「あら?空気が変わったかしら…。」
行くぜ!
「速いっ!」
「これは…マズイわ!ヤン!!」
キーン!…カランカラン…。
「はっ!メルナ…様?」
「くっ!なんてキレなの…。」
「…」
「マウアーー!ストップストーップ!」
「おーい、マウちゃーん?」
「ん?あ、あれ?メルナさん?」
気がつくと、俺の剣は折れていた。両脇を闇士と暗黒剣士に捕まれ、身動きも出来ない状態になっていた。
「完敗ね、ヤン…。」
「メルナ様、申し訳ありません。」
「わっ、私は別にヤンを助けた訳じゃないんだから…謝らなくてもいいわよ。」
あ!
「ちょっ、メルナさん!何で止めたのさー!これじゃ、どっちが勝ったのかわかんないじゃん。」
「ホントに面白い男ね。勝敗のタイミングは、私が決めるって言ったでしょ?あなたの勝ちよ。」
「デリー、マウちゃんクラレスのエースに勝っちゃったよ?凄い凄ーい!」
「うん。何度も見た光景なんだけどね。やっぱりマウアは天才だって思うよ。」
二人ははしゃいでいるけど、俺は覚えてないんだよな…。でも、気づいた時に見た剣の位置…やはり胸だった。
「マウアさん、参りました。メルナ様が止めに入らなければ、私は無事ではすまなかったでしょう。そのくらい、強烈な一撃でした。」
「最後はいつもの感じだったよ。ありがとう、ヤンさん。」
握手をすると、闇裏士さんは振り返ってコロシアムの方を見た。
「さて、みんなの実力も大体わかったことだし、これなら多少手荒だけどあのプランを実行できそうだわ。ね?ヤン。」
「メルナ様ぁ?あのプランってもしかして…。いえ、いけません。目立ち過ぎます。」
「いいじゃなーい。面白そうだし。」
「しっ、しかしですね…」
「ねぇメルナさん、そのプランって?」
「コロシアムよ。」
「コロシアム?」
「もしかして、団体戦ですか?」
「デリーよく知ってるわね。なら話は早いわ!それに出るのよ。」
マジかよ!
「おぉぉぉぉ!!やったぜデリー!」
喜びのあまり、暗黒剣士にだきつこうとしたが、手当てが先だと止められた。
「マウア、傷を見せて。」
「あぁ。」
「うん、出血の割に傷はたいしたことないね。」
あれ?ヤンさんに斬られた時、スゲェ痛かったからもっと深いと思ってたのに。一瞬傷を見たけど、こんなもんだったかな…?
「さぁ、そうと決まれば今日の所はゆっくり休みましょ。裏に温泉もあるんだから!」
「ホントですか?」
「すげー!」
「わぁはっ、温泉!」
さすがに今日は色々ありすぎて、癒されたい気分だった。
「デリー、早く行こうぜ!」
「あっ、マウア待ってよー!」
「もー!アタシが一番に入るんだからー!」
遠慮なく、俺たち3人は温泉へ向かった。
「マリーナさん、混浴ではありませんよー!アハハ、楽しい方々ですね。」
「そうね、久しぶりにドキドキしたわ。ねぇ、ヤン。最後の一撃だけど、嫌な予感したでしょ?」
「確かに、しましたね。約15年に一度現れると言われる生け贄のマウアさんは、根本的に違う何かを感じました。闇士として彼に住まう魂のせいでしょうか…?とにかく凄いとしか言えません。しかし、さすがはメルナ様。あの一撃を止めてしまわれたのですから。」
「ヤン…まぐれよ。」
「え?」
「マウアの性格を知らずに戦っていたなら、止められなかったわ。ほら、あの子って単純で真っ直ぐでしょ?思った通り、狙いは急所だった。ヤンが受けようとした位置に、私は自分の剣を合わせただけよ。例え私の剣が折られても、ヤンの剣が折られることはない!そう思ったんだけどね。」
「そうでしたか。しかし珍しいですね。メルナ様の予測が外れるとは。結果的に、3本目で止める予定が2本目で止まったのですから。」
「それがそうでもないのよ。これこそまぐれかもしれないわ。だって私、止めに入る直前に悪気を込めたのよ?予測なんて外れまくりよ。」
「悪気を?信じられません。ではマウアさんは、普通の剣でメルナ様の武器を壊したということですか?」
「気づいてたのね?そうよ。あの一撃だけは、なぜかマウアは悪気を使っていなかった…。普通というより、あれはおそらく天の力ね。」
「天の力!?信じられません。」
「もしそうなら、こんな話は聞いたことがないわよ?マウアは本当に闇士なの?理由はわからないけど、スピードと破壊力は私の予想を遥かに超えていたわ。…これは正直ショックよ。」
「はぁ…。私、死んでましたね…。」
「天士が選んだ生け贄…これ程とはね…。」
ふと、俺は振り返った。
ん?メルナさん?ヤンさん?
「何やってんのー?お二人さーん。早くお風呂行こうよー!」
「あんにゃろー、こっちの気も知らずに…。待てコラー!私の作った風呂だぞー。」
「めっ、メルナ様ぁ。置いていかないで下さいよー。」




