謎の裏士現る
「ここがニレイの国かぁ。」
「見てよ、マウア。あれってコロシアムじゃない?」
「この国の剣士と戦ってみたいなー。強いかな?」
「あれ剣士じゃない?」
「なんか…、こっち見てるな。」
「うん、強そうだね。」
「どうした?」
小隊長が声をかけてきた。
「あー、コロシアム剣士か。俺も昔は暴れたもんだ。今はすっかり落ちついちまったけどな。これでも一応、少しは名の通った剣士だったんだぞ?」
「あのー、どうして辞めちゃったんですか?」
「簡単な話さ。勝者のみが生き残れる世界だからな。そんな奴は一握りだ。お前らだって、憧れてた時くらいあっただろ?」
「そうですね。でも、自分には厳しいと思ってましたから。」
「もったいねーな。いい腕してるし、やってみればよかったじゃねーか。」
「いえ、護衛団に憧れてましたので。」
「まぁ、これも立派な仕事だけどな。そうだ!今度、参加自由の団体戦があるんだが、試しに出てみるか?成績次第では、エリートとの試合が組まれるかもしれないぜ。」
「本当ですか?じゃあ…」
「いえいえ、とんでもないです。」
つい勢いで返事をしてしまった俺を、暗黒剣士が止めた。
「僕らにはとても…。ね?」
「ん?」
「お?こいつはやりたそうな顔してたけど。」
「いいえ、僕らには無理ですから。」
わかってるよ、デリー。そんなに睨むなって。ごめんごめん。
「まぁ、いつでもって訳じゃないが、やる気になればまたチャンスはあるだろ。」
コロシアムを過ぎ、しばらくするとニレイの城へ着いた。
「よーし、荷物は倉庫に運べ。お前らもついて行け。ご苦労だった。」
「はい。」
ここがニレイの城…。って、ワクワクしてる場合じゃなかったな…。
「見てマウア。あれ!」
暗黒剣士は王様が乗っている馬車を見ていた。降りてくる人の中に、ドレス姿の少女がいた。
あの後ろ姿、間違いない!
「やっぱりリホだ!よーし…。」
「おい、お前ら。早くその荷物を運べ!」
「は、はいっ」
くっそー。また見失っちまうぜ。
「マウア、確認出来ただけでも収穫ありだよ。でも変だったね。連れ去られたっていうより、むしろ自分の意志で来たようにも見えたけど…。」
「どっちでもいいさ。連れ帰ることに変わりはない。」
裏口で闘ったあいつが全てを物語ってる。理由はわからないけど、危険な事だけはわかるんだ。
荷物を倉庫に運び終えた俺たちは、抜け出す隙を伺っていた。
「よーし、ご苦労。今日はあがっていいぞ。」
「お疲れさまでしたぁ。」
「うっしたぁ!」
なんとか潜入成功だな。さて、城の内部へ行くか!
暗黒剣士に耳打ちし、行動を開始しようとしたその時だった。
「おい!お前らどこへ行く?」
くそっ。小隊長に見つかっちまった。
「ちょっとトイレに…。」
「目の前にあるじゃないか!疲れてるのか?」
「あー!そうでしたね。アハハ。」
「早く休めよ!」
「はいっ!」
倉庫を出てすぐ側のトイレへ仕方なく向かった。だが、偶然にもそれが良かったのかもしれない。トイレを出て冷静に城を見渡すと、兵士が個々ではなく集団で配置されていた。ファイの城の数倍の警備体制に、異様な雰囲気を感じた。
暗黒剣士も、同じ事を考えてる様子だ。城の中へ行きたいのに、顔の向きとは反対に足は城から遠ざかっていく。
これじゃ、強行突破も出来ないな。リホの無事は確認できたけど…。
「デリー、これからどうする?」
「そうだね。とりあえずどこかで一休みしない?作戦はそれからだね。」
俺たちは、門を出て街へ向かった。
「リホはとりあえず無事だし、何か食べたいな。せっかくだしさ、ニレイの名物とかないかな?」
「それいいね。じゃあお店探そうよ。」
「おう。」
そう言えば、エビしか食べてなかったな…腹減った。
「ん?デリー、何か忘れてるような…。」
「あ!?マリーナだよ。マリーナの事を忘れてた!」
急いで城へ戻ろうとしたその時だった。横から聞き慣れた声がした。
「ほんとヒドイよねー。こんな可愛い子を忘れるなんてさー。」
「うおっ。」
「マリーナ!無事でよかったよ。でもどうやって?」
闇士は得意げに言った。
「コロシアムの辺でササッっとね。お城に入っちゃったら出にくいでしょ?」
「全然気づかなかったな。」
「さすがマリーナ。アハハ。」
「それでデリー、城の様子はどうだったの?「おいマリーナ!なぜ俺に聞かない!」
「え?マウちゃんアホだから。」
真顔で言われたぁ!
「まぁまぁ二人とも。マリーナ、潜入するにはかなり厳しいよ。警備が厳重すぎだね。異様なくらいだったよ。」
「ふ~ん。」
「でもな、マリーナ。リホの無事は確認出来たぞ!」
どうだ!マリーナ。俺だってやるときはやるんだ!
「そう。で、これからどうするの?」
今度は普通に言われたぁ!まぁ、リホは天士だし簡単には殺られないって信頼の証なのかな。
「マウちゃん、落ち込んでないでさぁ、どうするか考えようよ。」
「それなら、名物でも食べながら考えようかと…。」
しまったぁ。こんなこと言ったら、もっとマリーナに怒られる!
マウちゃん!そんな呑気なこと言ってないで早くリホを助けるわよー!観光に来た訳じゃないんだからねー!
う…幻聴が聞こえるぅ…。
「あわわわわ」
「おぉ、アタシも食べたーい!ねぇ、はやく行こうよー。」
「へ?、あれ?」
「マウア行くよー。」
「あ、うん。あれれ?」
怒られなかった…。
「なぁマリーナ。お前の余裕は、リホは誘拐じゃないってことなのか?」
「うーん、わかんない!」
「なっ、なんだよそれ。」
「わかんないけど、リホは天士だよ?その気になれば、マウちゃんなんて一撃じゃないの?」
その言葉はグサリと来るが、そうかもしれないな。
「それにマウちゃん、腹が減っては救出は出来ぬ!だね。」
微妙に違う気がするけど。気のせい?
「っていうか、マリーナ。お前ケーキとか食ってたんじゃねーのか?」
「女は別腹があるの。」
それは意味が逆じゃないか?
「あそこがいい!何か雰囲気がウチに似てない?」
「ん?」
ふむ。それとなくリーナさんの店に似てるな。
「うん。そうしよう。」
「じゃあ決まりね。」
完全に闇士のペースで、とりあえず腹ごしらえをする事にした。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「三人です!」
闇士が答えると、テーブル席へと案内された。
店内も、なんとなくリーナさんの店と似てるな。
「よっと。ねぇ、何にする?
アタシはねー、このエビドリアってのにしようかな。」
「僕はこのジャージャー麺かな。マウアは?」
「へへっ、デリーもマリーナもわかってないなー。ここはニレイの国だぜ?俺はこのカレーってのにする。横に小さく書いてあるし、隠れメニューみたいで怪しいだろ?」
「マウちゃん…それ。ただのダジャレじゃん…!」
なっ!?
「ちげーよ。来ればわかるって!それより早く頼もうぜ。すいませーん。」
「お決まりでしょうか?」
「えーと、これとこれと…。」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ。」
腹ごしらえが済んだら、リホを助ける作戦を考えないとな。リーナさんにも時間がないんだし…。
雑談をしていると、注文の品が揃った。
「ご注文の品は、以上でお揃いでしょうか?」
「はーい!」
「では、ごゆっくりどうぞ。」
「いっただきまーす。うーん、美味しい!」
「こっちも美味しいよ。」
闇士と暗黒剣士は満足そうだ。
なるほど、これがカレーか。
「スープ?かな…。」
「なんか、色がね…。」
「色が?」
「それ以上、レディに言わすなー!」
「いてっ。」
闇士に、平手で頭をはたかれた。
相変わらずマリーナのツッコミは本気だな。
「いいからマウちゃん、食べてみなよ。じゃなきゃわかんないし。」
「そうだな…名物だしな。よし!」
ガシャーン!
突然、どこからか酒ビンが飛んできた。俺たちのテーブルにあった全ての食べ物が床に落ちてしまった。
「あぁぁぁぁ!!俺のカレーが…。」
「おっとすまねぇ。空きビンを片付けるつもりだったんだが、手が滑っちまった。」
「まだ食べてないのに…。てめぇ、何のつもりだ!」
「なあに。ちょっとした挨拶さ。」
3つ離れたテーブルにいたその男は、明らかに俺たちを狙った。
「あまりにおもしれー注文してやがるから、ついな。」
「おもしれー注文だと?」
「あぁ。笑いすぎて腹筋が割れちまうぜ。」
どれだ?エビドリアか?ジャージャー麺か?まさか?俺のニレイ名物カレーか?
「ぼ、僕のジャージャー麺が…。失礼なー!」
俺より先に、温厚な暗黒剣士がぶちキレた!
「ぶはははは。そんな怒った顔されちまうと、嫌でも殴りたくなるじゃねーか。」
この男、見た目は確かに自信ありそうな体をしている。でも、デリーは剣を構えてるんだぞ?あの余裕はなんだ?
「マウちゃん、あいつ魔人だよ!」
「なに!?」
「魔人!?」
奥に逃げたか。あの店員に聞かれたのはマズイな…あっ!デリー!
「食べ物を粗末にするなー!」
暗黒剣士が斬りかかってしまった。
今もめ事は本当にマズイ!
「くっくっ。返り討ちに…はっ、速い!」
「はあぁぁぁぁ。」
「ぐふっ。」
暗黒剣士の剣が男の頭部を直撃し、剣が真っ二つに折れた。ニレイの兵士の剣に、悪気が入っていなかったからだろう。男に傷はないが、気絶させるには十分な一撃だった。
やっちまった…。
「ハァハァハァ…。」
「マリーナ、デリーを怒らせるの辞めよう…。」
「そ、そだね…。」
「さ、飯もダメになっちゃったし…そろそろ…。」
デリーを連れて逃げるしかねー!!
ハッ!?
そう思った瞬間、先程奥へ逃げた男の店員が出口方向に立っていた。
マズイ…どうする…。
「助かりました。私共は、お客さまに手を出すことはできませんので…。ありがとうございます。」
いたって普通の態度だな。気づいてないのか…?それなら…。
「いえいえ、絡んできたのは向こうだし、全然問題ないですよ。」
「そうですか。」
「じゃ、これで…。」
よかった…。いきなり正体バレるとか、リホ救出どころじゃなくなるからな。
「すみませんが、お礼ついでに1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「え?」
「先程、そちらの女性が彼を魔人と申されたのは何故ですか?」
「げっ!?」
もうダメだ。完全にバレてる。
「マジーって言ったんですよ。ね?マウちゃん?」
「そうそう、マジーって…。」
それでもごまかそうとした闇士と俺だったが、奥から出てきた女性の声で観念した。
「悪気…間違いないわね。」
ゆっくり倒れている男へと、その女性は近づいて行った。
「隠してもダメみたいだね。この人にもバレてるよ。」
「デリー。そうらしいな。」
「あなたたち、一体何者なの?」
「先に聞いてきたのはそっちだぜ?」
「そうね、失礼したわ。私の名はメルナ。裏士よ。」
「う、裏士ぃ!?」




