ニレイへの潜入開始
ニレイ?犯人は他国だって言うのかよ…。
「そう。あの二人が疑ってたわ。でも、特護である以上動けないとも言ってた。」
悪魔騒動もあるし、なにより天士がさらわれたんだ。でもどうする…?まともに行っても真相は掴めそうにないな。
難しそうに考えていると、闇士がワクワクしながら言った。
「潜入しちゃえばいいのよ!アタシ変装は得意だよ。」
「変装かぁ。でもマリーナ、何に変装するんだ?イノシシか?ヘビか?」
「マウちゃん、何で動物かなぁ…。まぁいいや。とりあえず今からあの王様帰るし、チャンスじゃない?」
「そうか。護衛団員だね。」
「さすがデリー!せいかーい!」
護衛団員に変装か…。
「そうと決まれば待ち伏せだな。急ごう!」
「みんな、気をつけるんだよー。」
「はーい。」
元とはいえ、裏士のリーナさんはさすがに動けない。ニレイの国への潜入は、俺たち3人で行く事にした。
まさか今日、極秘潜入するとは思わなかったな。だけど、本当にリホはニレイの国に連れ去られたのか?一体目的はなんなんだよ…。
門を出て橋を渡り、街へ繋がる人気のない森の道で、俺たちはニレイの集団を待った。
これで準備完了だ。
「来たぞ!ニレイの護衛団だ。じゃ、頼むぞ。」
「マウアもね。」
俺は足止め役の為、先にある街へ走った。暗黒剣士と闇士には、後方の荷物を運ぶ手押し車を狙ってもらう。
「デリー、来たわよ。」
「うん。」
「今よ!引いてー!」
土で隠した板に紐を着け、車輪を軽く穴に落とす作戦だ。
ガシャーン!
「ん?何だ?今の音は?」
「すっ、すみません。車輪が穴に。」
「早く出せ。いいか押すぞ、せーの。うぅぅぅ。はぁ、ダメか…積み荷が重いな。」
「どうしました?」
そこにデリーがタイミングよく登場だ。
「あぁ、町の人か。ちょっと車輪を落としてしまってね。手伝ってもらえるか?」
「いいですよ。」
「すみません。前方で酔っ払いが団員に酒をよこせと絡んできまして…。」
「ちっ、すでに遅れているんだぞ!もういい、前方は俺が対処する。お前はここを手伝え。」
「はっ、はいっ。」
前方にいるのは、もちろん俺だ。
「あー?早く酒よこせって言ってるだろー?いいじゃん。一本くらい。」
「こいつか?」
「は!申しわけありません。」
隊長…いや、胸にある星の数からして小隊長だな。
「ハァ…。おい君!わかったから、これで勘弁してくれ。」
「本当に一本かよ。仕方ねぇなぁ。」
「君は未成年だろ?ほれ、あんまり飲むなよ。」
「わかってるよ。ありがとな。」
これで後方に気は回ってないはず。時間は稼いだぜ。後はデリーとマリーナ待ちだな。
「せーの、よいしょーふぅ。やっと出せたな。少年、ありが…グフッ。」
「いいえ、こちらこそ。許してね…。」
「グフッ。」
「ごめんねー。」
酒を持って、集団とすれ違うように後方を目指す。すると、暗黒剣士と闇士が気絶させた兵士を引きずって森に寝かせる姿を目にした。
うまくいったみたいだな!
俺は、走って二人と合流した。
「二人は早く着替えて。アタシは荷台に隠れるから!」
闇士は、脱がしたニレイの護衛団の服を俺に投げ渡し、シートで囲まれた荷台へピョンと乗った。
「マリーナの奴、楽しやがって。」
「仕方ないよ。この服は男物だし。それよりマウア、急ごう!」
着替えた俺と暗黒剣士は、台車を引いて前方との合流を目指した。
「あぁ。くっそー、重てー!」
「あー、これ美味しそう。これは何だろうー。あー!ケーキ?」
「…!くっそおぉぉぁぉ。」
「まぁまぁ。」
しばらくして、ようやく前方最後尾に追いついた。調度街へ入るところだった。誰にも見られることなく、こうして変装は成功した。
後は、潜入するだけだな…。
「遅くなりました。申し訳ありません。」
「おう、ご苦労。もう遅れるなよ。」
あ、さっき酒をくれた人だ。
「はいっ。」
「はーい!」
「ん?今女の声がしたような…。」
マリーナのバカ!
「きょ、今日は街もお祭りですからね。ほら、あちらで女性が歌を歌ってますし…。」
「おぉ、いいなー。次は護衛ではなくプライベートで来たいものだ。」
「アハハ、そうですね。」
なんとか暗黒剣士がごまかしたが、俺は闇士に言わずにはいられなかった。でも、小声で…。
「マリーナのバカ!デリーに感謝しろよ!」
「ごめーん。つい返事しちゃった。」
「ふぅ。」
暗黒剣士も安堵したようだ。俺たち集団は、街を出てファイの国境を通過した。
他国は初めてだな。ここから山道が続くのか。
荒れた道で荷台をゴトゴト揺らしながら、俺はすれ違った豪華な馬車の人影を思い出した。
「ところで小隊長、あの豪華な馬車に乗っておられるのは国王様でしょーか?」
「当たり前だろ!」
「そ、そうですよねー。まさか国王様以外の人が乗ってるなんてことは…。」
「おい、新人…。」
顔が曇った!覗きこんだのがまずかったか?
「はい。」
やべぇ…。
「ここだけの話だがな。実は客人も乗っておられるようだ。確か…女性だったな。」
よかったぁ。だけどさっきの顔はなんだったんだ?
「女性!で、ありますか。」
「詳しいことは俺にもわからない。国王様がファイの国の女性を気に入って連れてきた!とかいう話だろうな。羨ましいぜ。」
そういうことか…。
「本当ですかー。それは羨ましい。どんな方かお目にかかりたいものですなー。」
「ばか野郎。これは内密と言っただろ。もう…忘れろ。」
「そう言われましても、気になるもんは気になると言うか…うおっ。何すんだよ。」
突然、足元に矢が突き刺さった。
「マウちゃん、多分リホよ…。」
「えーーーー!あ…。」
「どうした?急に大声出して。」
「いえ、何でもありません。突然足元に矢が刺さっただけです。」
「矢だと!敵襲か?どこからだ!」
「ぼっ、僕が彼を驚かそうとして、つい矢を。お騒がせしてすみません。」
「あのな、今は護衛中だぞ。任務に集中しろ!」
「はっ。申し訳ありません。」
「お前もだ!たかが矢1本でそんなに驚くな。」
「そんなこと言われても、これ普通の矢じゃないですよ?」
「普通じゃない?じゃあ何だと言うんだ!」
しまったぁ!つい口が…。
「そ、それは…その…」
「盗賊だぁ!」
ん?
「そ、そうです。盗賊の矢です!はい。」
「そうか、わかったぞ。お前ら前方の盗賊に気づいていたんだな。だが、わざと驚いたフリをした。敵の狙いは我々の同士討ちだろうとな。敵を騙すにはまず味方から…か。よくやった!我々の混乱に乗じて、盗賊の主力部隊が突撃する作戦だったんだろうな。」
「は、はいっ。多分その通りであります。」
「さすが隊長です。恐れ入りました。」
あぶね…助かった。
「安心するのは後だ。盗賊を片付けるぞ!」
「はっ。」
小隊長と暗黒剣士は、盗賊討伐へ向かった。
「危なかったね。マウちゃん。」
マリーナぁ!
「誰のせいだよ。誰の。」
「マウちゃんが、リホって気づかずに騒ぎを大きくしそうだったからでしょー!天士が乗ってるのも、下には秘密かもしれないし。」
「だっ、だからって矢はねーだろ!」
「仕方ないじゃん。手っ取り早いんだもん。」
「あのなーマリーナ、知らせるだけなら他にも…「おいお前、何をぶつぶつ言ってる!早くこい!」
「あ、はいっ、小隊長。」
話は後だ。でも本当にあの馬車にリホが?捕まったんじゃないのか?
「でりゃ。」
「ぐはっ。」
「ふう。」
「ようやく片付いたな。お前たちもご苦労だった。新人にしてはなかなかの腕前だったぞ!」
「ありがとうございます。」
「うっす!」
「だが、まだまだ気を抜くなよ。」
「はい。」
「危なかったね…マウア。」
「マリーナのやつには困ったもんだよ。まったく…」
「もう食べられなーい!」
「え!?」
「げっ!?」
「ん?どうした!」
「あ、いえ。先程のお誉めの言葉でお腹いっぱいでして。」
「そうか、ならいい。」
小隊長の目を盗んでシートをめくると、闇士は俺たちが盗賊と戦ってる最中に寝ていたようだ。
「こっ、今度は寝言かよ!」
「アハハ…。」
しばらく山道を歩いて下りにさしかかると、道が開けてきた。今夜はここで一泊らしい。
翌朝から再出発し、いくつかの山を越え夕方に差し掛かった時だった。森を抜けると、地平線の先には街らしきものが見えた。
あそこがニレイか?
「よいか!もうすぐ我がニレイの国だ。到着まで気を抜かぬように。」
「はっ!」
「到着か。何とかなったな。」
「リホもあの馬車が怪しいしね。」
ニレイの門に近づくと、見上げる程高い位置に城があった。
「デリー、いよいよ潜入開始だな。」
「うん。」




