晩餐会への潜入2
「ここに来れば会うとは思ってたけど、久しぶりねデレク。」
「ええ、7年振りです。お元気そうでなにより。お嬢さんも、大きくなられましたね。」
「ねぇお母さん、どなた?お父さんの知り合い?」
「そうよ。デレクと、こちらがジャル。」
「どうも。特殊護衛団のデレクです。ここで何度かお目にかかってましたが、シフさんのお嬢さんでしたか。」
「アタシ、いつも食べるだけで帰っちゃうからね。エヘヘ。」
「ちょっと待って!」
突然裏士さんの顔色が変わった。
どうしたんだ?
「デレク、あなた今特殊護衛団って…。」
そういえば、そう言ってたな。
「そうだぞ、デレク。リーナさんだから良かったものの、これは…。」
「すまんジャル。そうだったな…。リーナさん、実はあの件(シフの悪魔騒動)以来、自分も何かしたいと思いまして、今はこいつと直属の任に。」
「そうなの…。でもすごい偶然ね。あたしは今日、それが目的で来たのよ。」
「そうでしたか。私も調度お話したいと思っていた所です。おそらく同じ内容かと。」
「何か知ってるのね。話してくれる?」
「ここではちょっと。あちらへ。」
特殊護衛団のデレクさんとジャルさんは、裏士さんと会場とは別の場所へ行ってしまった。
「あんたたちは、パーティーを楽しんでてね。」
「はーい!お母さん、行ってらっしゃ~い。また後でねー。」
闇士は、手を振って3人を見送った。そして俺たちは、2階にある大広間へ向かった。
「なぁマリーナ、俺たちは行かなくていいのかな。」
「うん…。」
俺と暗黒剣士は不安だったが、闇士は相変わらずの態度だった。
「いいんだよ。任せておけば。それより早く行こうよ!」
「あぁ。」
まぁ、リーナさんなら心配ないか。シフおじさんが護衛団長の時の護衛団の二人だしな。でも、それが今は謎の特殊護衛団員…。暗黒剣士の集団か。
「うわぁー、人いっぱーい。」
会場に着くと、すでに賑わいを見せていた。軽く数えても百人はいる。
今日は、大晩餐会って言ってたからな。マリーナが驚くのも無理はない。
「すごいねー。」
「デリー、料理も旨そうだぞ?」
「さぁ、食べよー食べよー!」
俺たちは、バイキング方式になっている料理の前に来た。
「マウア見てよ。これエビかな?」
「バカだなぁ、デリーは。こんなでっかいエビがいるわけないだろ?」
「それがいるんだよねー!アタシは毎回食べてるから知ってるのだ。」
「マジ?これカニじゃないのか?」
「カニだっておっきいのがいるよー!ほら。」
「うえぇぇぇ。ホントだ…でかい…。」
「美味しいよ、これ。」
デリー、試食じゃねぇんだからさ。まぁ、子供の頃を思い出すよ。
「マウちゃんも食べてみなよー。」
う~ん…
戸惑いながらも、俺はでっかいカニを食べた。
「ん~、うまい!うまいよこれ。」
「でしょー!って、マウちゃんもう全部食べちゃったのー?」
「ん?マリーナ、何か言った?」
すっかりカニに夢中になってしまった。
「アハハ」
テーブルに着いた後、何だかんだで楽しく食事をしていると、舞台で挨拶が始まった。
「皆様、お待たせ致しました。これよりファイの国王主催による晩餐会を開催致します。では始めに、我がファイの国ルーヒ国王からご挨拶がございます。」
王様か。コロシアムで表彰の時に何度か見たな。リホの父親…になるのかな…。
「皆さん、今日はお集まり頂きありがとうございます。現在ある三国成立後、これまで互いに助け合い共に平和を築いて参りました。この平和は、未来永劫続くものであります。これからも、ここにいる皆さんを始め、各国民及び全ての人々と共に、同じ道を歩んで行けると確信しています。今日という日を神に感謝し、争いなき世界の為に、皆さんで乾杯しましょう。」
さすがに、王様の口から魔人騒動の話は出てこないか…。まぁ、他国の人もいるからかな。
「皆様、お手元のグラスをお持ち下さい。」
「マリーナ、グラスってこれでいいのか?」
「マウちゃん、それコップ。しかも水だしー。」
「マウアこれ。」
「おぉデリー。サンキュー。」
これがグラスっていうのか…。ふ~ん。
「乾杯ー!」
『乾杯ーーー!』
おっ。始まっちまった。どうするんだ?
「はい、マウちゃん乾杯。デリーも。」
闇士が、俺の持っていたグラスに自分のグラスを合わせた。コン…。
「あ。」
コン…。
「乾杯!マリーナ。」
慣れないせいか、場の流れについて行くように、急いで一気に飲んだ。
「君、いい飲みっぷりだね。グラス、いいかな。」
品のあるおじさんに声をかけられた。空になったグラスに、飲み物が注がれる。
「どうも。」
これはグレープ?かな。
ごくっ。
ん?違うな。何かがミックスされてる。こういう場だし、多分オシャレで高~い飲み物なんだろうな。
「うーん。せっかくだからお酒飲みたいね…。」
「マリーナ、それはマズイよ。」
「いいじゃーん、デリーは真面目なんだから。ね?マウちゃん?って、それワイン!?」
「へ?高級なグレープジュースじゃないの?さっきおっさんが注いでくれたけど…。」
「あーぁ、全部飲んじゃった…。」
「マウア、大丈夫?」
「平気だよ。だからこれはジュースなんだよ。マリーナおおげ…さ…アレ?」
足がふらつくぞ?これがワインなのか?
「あーぁ。マウちゃん顔真っ赤だし。」
「でへへ。」
ニヤニヤしながらふらつく俺を、暗黒剣士が支えて椅子に座らせた。
「デリーちゃん、ありがとう。」
「ダメだね、これは。」
「アタシ、お酒止めとこう…。」
「皆様、楽しんでおられますか?」
「堕天士長さん!アハハ、おかげさまで。」
「先程は、どうもありがとうございました。」
「いえいえ。」
「マリーナ、お久しぶり。」
「天士りーん!あ、違った。リホ様ー!」
ふぇ?リホぉ?
「辞めてよマリーナ。普段通りでいいわ。それよりごめんね。色々言えないこと多くて。」
「そんなの当たり前だよ。ミラさんから聞いた時はビックリしたけどね。」
「こちらが、マウアの言ってたデリーさん?」
「そうだよ。」
「はっ、初めまして。デリーと申します。」
「そんなに緊張しないで。私まで緊張しちゃうわ。初めまして、よろしくね。」
「はっ、はい。こちらこそ。」
「ところでマリーナ、マウアはどこ?」
「あそこでつぶれてるよ。間違えてワイン飲んじゃって。」
「あら…。起こしていいかな?」
「いーよー。」
ん?誰だよ、体揺するなって…。
「マリーナ。まだ夜じゃねーか…zzz…。」
「ウフフっ。ダメみたいだね。」
「マウちゃん…。せっかくリホりん会いにきたのに…。」
「いいのよマリーナ。ありがとう。」
「起きたら後で会いに行くね!」
「うん、待ってるわ。」
「ではリホ様、参りましょう。」
「はい。」
「またねー。まったく、マウちゃんって本当ドジね。」
「まだ時間あるし、しょうがないよ。それにしても、リホ様ってスゴイ綺麗な人なんだね。お姫様かぁ…。」
「デリー、マウちゃんにはもったいないでしょ?」
「え?うん、そうだね。」
「あんたたち!」
「あ、お母さんおかえり。」
「おかえりじゃないわよ。大変な事が起きたのよ!」
「え?事件?」




