始まりの終わり2
簡単に治療を終えた俺は、コロシアムを出た所でまた彼女に会った。帽子を被り、全身純白のワンピースとスカートを壁につけて立っているその姿は、あの日からは想像もつかない。
どうみても、普通の女の子だ。そんな少女が…まだ信じられないよ。
「マウア…。」
「1週間ぶりかな?リホ。今日会えたって事は話してくれるのか?」
「うん…。」
あの時は、すぐに護衛団が来たから名前しか聞けなかったけど、これで俺の疑問は解消できそうだ。でも、ここで立ち話って内容じゃないよな…。ん?あの建物の壁陰にいる男、こっちを見てる?まさか、悪魔の事でリホを狙っているのか?
「リホ、走るぞ!」
「え!?」
リホの手をつかみ、返事を待たずに走り出した。はずみでリホの帽子を落としてしまったが、命には変えられない。走りながら振り向くと、やはりさっきの男が追ってきている。
リホ、ハイヒールで走りにくそうだが我慢してくれ。もうすぐ店に入れる。
「いらっ、あーマウちゃん!おかえりー。」
「ハァ、マリーナ。すぐに鍵をかけてくれ!」
「はぁ?わかったけど…あの子は…誰?」
店の中を駆け抜け、二階にある自分の部屋へ入った。窓から外の様子を伺うと、追っ手はどこかへ消えたようだった。
「ふぅ、撒いたか。」
「マウア?もう大丈夫なら…手を。」
「手?あーぁ、ごめん!」
急いで手を放すと、リホは安堵したのか笑っていた。下へ行こうと声をかけ、一階の食堂へと降りた。
「リホ、そこ座んなよ。」
「素敵なお店ね。」
リホは物珍しそうに店の中を見回してる。
こういう店は初めてなのかな?どこか上品というか、俺とは育ちが違うようには思えるけど。
「いつもここに?」
「んー?剣士になってからは毎日。っていうか、お世話になってるのは幼いころからなんだ。実は腹減って残飯あさってるのを、ここのオーナーのリーナさんに見つかっちゃって。行くとこないって言ったら訓練団に連れてかれてさ。まぁ、リーナさんが世話してくれなかったら入れなかったんだけど…。それから剣士になって、今はここの居候だよ。」
「そっか。命の恩人なのね。」
「まぁ、そうと言えばそう…イテッ。」
誰だよ?いきなり頭叩くなんて。
「あ、リーナさん。」
「あ、リーナさん…じゃないわよ。マウア、これは何の騒ぎなんだい?」
「ごめんごめん。それよりいつもの食わせてよ。」
「そう思って持ってきたわよ。はいっ、いつもの(シチュー)。あんたライスでしょ。あなたはどうする?パンもあるわよ。」
「では…パンを下さい。」
「はいよ。ちょっと待っててね。この子、見た目はヤンチャだけど優しい子だからよろしくね。」
「余計な事言わなくていいのー。ほらリーナさん、お客さん呼んでるよ。」
「はいはい。」と、リーナさんは振り向いて手を振りながら厨房へ行ってしまった。
リーナさんには敵わないな…。
「ごめんなリホ。いっつもこんな感じでさ。それで、例の事なんだけど…。」
「私に命をって事?」
「う、うん。さっぱりわからなくてさ。それって、バイラインを倒した事と関係あるのか?」
「うん。」
「そっか。リホは、悪魔は倒せないって言ってたけど、何で俺がバイラインを倒せたんだ?」
「それは、マウアが選ばれた人間だからよ。」
俺が…選ばれた人間?う~ん…
「はい、パンお待ち。」
「ありがとうございます。頂きます。」
無邪気に無警戒にパンを食べるリホを見ていると、俺をハメようとかそんな気にさせる様子はない。
嘘はないって事か…。
「なぁリホ。やっぱりそれはないよ。俺は王族とか英雄の子とか特別な血なんて流れてないんだぜ?あの時は無我夢中で、なぜか行ける気がしただけなんだ。」
「それでも、事実は変わらないわ。」
「うーん、そうかもしれないけど…。そもそも悪魔って何だ?」
「私にも、詳しい事はわからないの。」
「そうなのか…。じゃあ、とりあえず俺はその選ばれた人間の可能性があるって事でいいんだよな?」
「うん。そうだと思う。」
「で、リホも選ばれた人間ってことか…」
「私は天士よ。」
「へ?ん???てんし?」
今サラッと言われたが、さりげなく凄いこと言わなかったか?
うーん…てんしね…
「はいはい、何暗ーい顔して話してるのー!
若者らしくない。」
リーナさんか…気がつくと側にいるよなぁ…
「何?リーナさん。」
「何?じゃないわよ。へーいてん(閉店)」
「え?もうそんな時間?やべっ、デリーの様子を見に行かなくちゃ。リホ、ごめんな。続きはまた時間作るから。」
「うん。明日コロシアムが見下ろせる丘で、試合が始まる頃に待ってるわ。」
「それだと夕方くらいか…わかった。じゃ、また明日。おやすみー。」
「おやすみなさい。マウア」
「こらーマウアー!お金は払っていきなさいよー。」
「あ、やべっ!ごめーんリーナさん、付けといてー。」
「ったく…。それよりリホ、話聞こえちゃったけど、あなた天士だったのね。」
「はい。」
「そう…。」
「…」
「まぁまぁ、こんなご飯しか出せないけど、いつでもいらっしゃい。歓迎するからね。」
「ありがとう…ございます。おやすみなさい。」
「はい、おやすみ。」




