魔獣との戦い
こんなにでかくなるもんなのか?それとも、悪気の大きさで変わるとか?とにかく、これがリーナさんが言ってた魔獣化か。
しかし、巨大な蛇はあまり考える時間を、俺にくれなかった。
「シイィィィィ。」
「うおっ。」
大きく口を開いて威嚇してくる。今にもあのでかい口に食われそうだ。俺は剣を抜いて構えた。
やられる前にやるしかない。
だが、上手く間合いが詰められない。狭い上に素早いな…。尻尾を狙いたいけど、速すぎて捉えられない。
「わぁっと。」
「ギィィィィアァァァ」
スゲー牙だ。やっぱ毒とか持ってるんだろうな。気を付けないと。壁づたいに、一気に回り込むか…。
魔獣化した蛇が一瞬横を向いた。その隙に俺は反対側へ走り、覚悟を決めて斬りかかった。
「うおぉぉぉ!」
魔獣蛇のクネクネした胴の攻撃を二度・三度とかわし、剣を繰り出すが皮膚が硬い。少しでも弱らせてから尻尾を狙いたいのに、かすり傷程度にしかならない。
背中はダメ…腹を狙うか…。奴が上を向いた瞬間に行くしかない。
「今だ!」
喉元めがけて斬りかかった。硬さを俺の体が学習していたせいか、先程の攻撃よりも間合いは自然に詰まっていた。
「くっ、これでも浅いのか…ハッ!」
危険な間合いだった事に、魔獣蛇の頭突きが避けられないと思った時に気づいた。
殺られる!!
ドーン…
「何っ!?」
両腕で受けきるはずだった魔獣蛇の頭突きは、方向を変えて天井にぶつかった。助かったと思った次の瞬間、新たな危機が俺を襲った。
「マズイ!…天井が崩れる!!」
痛みでもがく魔獣蛇の動きは止まらない。何度も天井に頭をぶつけ、崩れた石や砂が洞窟内に降り注ぐ。何とか距離はとれたが、砂埃で視界があまりにも悪い。しかし、衝撃で天井に穴が開いた。偶然だが、月明かりで魔獣蛇の姿がハッキリと見えるようになった。暴れていた魔獣蛇は、傷を修復しながら徐々におとなしくなっていく。チャンスと思った俺は、再度斬りかかった。
「ハッ!しまったぁ。」
「ギィィィィアァァァ」
油断はあった。斬りかかった方向から、魔獣蛇は巨大な口を開き、鋭い牙を見せながら襲ってきた。
「くっ…。」
「ガアァァァァ」
しかし、俺を攻撃するはずだった魔獣蛇の頭が方向を変え、体を反って開いた口を天井に向けた。
「苦しんでる?何が起こった?」
「ハッ!」
聞こえた声と共に、俺は崩れて穴の開いた天井を見た。
この攻撃…この光は天士か!いや、さっき聞こえたのは男の声…。
「今です!奴の尻尾を。ハッ!」
まだ視界が悪くて姿は確認できないが、やはり男の声だった。再度放たれた光が、魔獣蛇の動きを完全に封じる。
誰だかわかんねーけど助かったぜ!
「うおぉぉぉ!」
渾身の一撃が決まり、俺は魔獣蛇の尾を切り裂いた。
「よし!」
尻尾の傷から悪気が漏れ始める。
「離れて!ハァー!」
その声と共に、魔獣蛇の浄化が成功した。
これはバイラインの時にリホがやった事と同じ。やはり天士の浄化だ。
俺は開かれた天井を再び見た。砂埃も治まり、逆光だが目に映ったその姿には見覚えがあった。
「あっ!あなたは…リホの…。」
「はい、堕天士のミラです。護衛団の代わりに来ましたが、大丈夫ですか?」
さすが天士の護衛だな。
俺は、ホッと一息ついてその場に座り込んだ。
「ありがとうございます。助かりました…。」
「いえ、マウア様。まだ安心するのは早いようです。」
「えっ!?」
なせだ?切り裂いたはずの尻尾が修復されていく?
「なっ?こいつ、尻尾が2本あったのか!」
「先程の浄化で悪気は多少減りましたが、どうやら2本を同時に切らねば完全に倒すことはできないようですね。」
「同時か…。」
「私が奴の動きをもう一度止めます。その隙に攻撃を。」
「了解ー!」
まだ修復中でおとなしい…今がチャンスだ。
「でりゃー!」
今度は、2本の尻尾を切り裂いた。
「やったか?」
魔獣蛇を見るが、弱っている様子がない。
尻尾2本でもダメなのか?
「それでは倒せません。すぐに尾は戻ってしまいます。」
確かに、もう尻尾はほぼ修復されて戻っている。
「くそっ。だけど同時は厳しい…。」
「グウゥゥァ」
攻撃?この矢は!
「マーウちゃん。崖だけじゃなくて、穴にも落ちちゃったのー?」
堕天士長さんの立っている反対側の天井にいたのは、洞窟の前にいるはずの闇士だった。
「マリーナ!?っていうか、落ちてねーし。」
「あれが裏士リーナの娘…、闇士か…。」
「ところでマウちゃん、そちらの背が高くてカッコいい白ロン毛のお兄さんは誰なのー?」
「リホの護衛の人だ。堕天士のミラさんだよ。護衛団の代わりに来てくれたんだー。」
「堕天士ね…。ふーん。お兄さん強そうだね。マウちゃん助けてくれてありがと!」
「礼には及びません。それより早く奴を。」
「うん。でもさー、上から見ると尻尾が2本あるよ?えいえいっ!」
闇士の放った2本の矢が、それぞれの尻尾に突き刺さった。
「ダメだマリーナ!その2本を同時に切らなければ、奴は倒せないんだ!」
「同時?それなら、簡単じゃん!」
闇士が矢を2本同時に構えた。
「えーーいっと。」
再び放たれた矢は、2本同時に突き刺さった。だが、魔獣蛇は止まることなく闇士を襲った。
「きゃぁー!」
「マリーナ!」
魔獣蛇は、闇士の足元の岩を噛み砕いた。
くそっ、同時に見えたのにわずかにズレたのか。動く相手じゃ至近距離じゃないとタイミングが合わない…どうする。
「グウゥゥ」
このやろう!睨み付けやがって。
「マリーナ、大丈夫かー?」
「平気…。ちょっとかすっただけ。」
闇士は、なんとか後ろへ飛んで避けたようだ。
「でも、あれだけウヨウヨ動かれると、同時なんて無理だよ。マウちゃん、どうするの?」
「今考え中!」
剣1本じゃ厳しいし…。ならマリーナと同時に…それもあまり変わらない。う~ん…。
「あ!わかったぁー。尻尾を結んじゃえばいいんだー。その結び目を切る!マウちゃんどう?」
「おぉ!」
なるほどね。マリーナらしい発想だな。
「でもどうやって結ぶんだぁ?」
「こうするのよ。ジャジャーン。」
矢に紐?そうか!
「でもすぐに切られちゃうんじゃ…。」
「マウちゃん、まだ気づいてないの?闇士が使えばこの紐だって強化されるんだよー。マウちゃんの剣と一緒!」
「あー、そっかそっか。」
今度こそ、やれるかもしれない。
「マウちゃん気を引いて。その隙に、私がちょちょいと結んじゃうから。そしたらスパッとやっちゃってよ!」
「わかった。行くぞー!」
だけど、こいつの速さは尋常じゃない。尻尾を結ぶには、丸まってる体を少しでも伸ばさなきゃな…。
俺は、近づくと見せかけて後ろへ大きく飛んだ。
上手くつられてくれれば、危険だが目的は果たせる。
「グワァァァ!」
来た!この牙を着地と同時に横へ飛んで避け、そのまま回り込むぞ!
「くっ。マリーナーー!」
ドーン…
魔獣蛇の頭が地面にぶつかって、わずかな隙ができた。闇士が素早く矢を放ち2本の尻尾を結んだ。
「成功!うまいうまい。マウちゃーん、今よー!」
闇士の声を聞いた俺は、結ばれた尻尾へ斬りかかった。
「もらったぁー!」
「ガウゥゥァァァ」
なにっ!?
「うわぁ。」
魔獣蛇の尾が、結ばれたまま俺を襲った。
「マウちゃーーん!あちゃー。尾を結んでも動くんだった…。あー!マウちゃん避けてーーー!」
「へ?だぁー。」
間一髪、結ばれた尾の二撃目はかわした。
「あぶねー。くそっ、失敗か。」
「マウア様、あなたがリホ様に選ばれた方なら、こんなものではないはず。そのお力を、今こそお見せ下さい。」
そんな事言われても…。そうだ!
「ミラさん!さっきの力で奴をもう一度止められないの?」
「申し訳ありません。力を使いすぎました。当然ですが、堕天士の力は天士には及びません。ですから、今は浄化に備えさせて下さい。あなたなら必ず倒せます!」
そんな…。くそっ、俺は全力でやってるのに、これ以上どうすれば…。
「マウちゃんあぶなーーい!」
「ぐおっ。」
やられた…。
魔獣蛇は、口を開けずに最短距離で俺に頭突きした。
まともにもらっちまったか。いてぇ…体が動かねぇ…。
飛ばされて仰向けに倒れた俺は、再度襲いかかってくる魔獣蛇の頭突きを、見ている事しかできなかった。
「こんのー!もう許さないんだからねー。」
矢を放って魔獣蛇の気を引いた後、闇士が短剣を手に洞窟内へ飛び降りた。
ダメだマリーナ、逃げるんだ…。
だが、俺への攻撃が闇士に向けられてしまった。
「きゃぁぁぁ!」
無情にも、魔獣蛇の頭突きが闇士の全身を捕らえてしまった。体を反りながら、闇士の体は自由を失い宙を舞った。
「マリーナぁ!!!」




