新たな出発
おもいっきり泣いたおかげか、一晩グッスリ眠れた。
今日から、新たな人生が始まるんだな…。
部屋を出て一階へ行くと、闇士も起きていた。
「おはよーマリーナ。」
「おはよーって、マウちゃんそのまぶたは何?さては昨日大泣きしたなー。もー、子供なんだから。」
闇士は、人指し指を横に振った。
「何言ってんだよ。マリーナこそまぶたがこーんなに太ってるぞ。だから昨日あんなに重かったんだな。」
「軽いしーぃ!それにアタシのはオシャレだもん!マウちゃんのまぶたなんて、ボコボコに負けた剣士じゃん。」
「へへっ。俺はコロシアムで負けなしだもんねー。」
「じゃあアタシがその天才剣士様に初黒星を付けてあげるわー。」
闇士が右手を振り上げて飛びかかってきた。
「やれるもんならやってみろー。」
「言ったなー。」
「はいはい。」
裏士さんが手を叩いた音で、俺と闇士は動きを止めた。
「全く、どっちもおーんなじまぶたしてるわよ。だから引き分け。さっさとご飯食べちゃって。」
「はぁーい。」
「へーい。」
俺もマリーナも、リーナさんと飯には敵わない。逆らったら飯抜きにされるからな。
俺と闇士の戦いが飯の早食いに変わったその時、まだ開店前のドアからノックする音が聞こえた。
「リーナさんや、いるかのう…。」
ドア越しに、老人の声が店内に響く。
「あらお客さん?まだ開店してないわよ…。」
裏士さんがドアを開けると、隣のじいさんが立っていた。
「あ、おはようございます。」
「開店前に悪いね。今朝イノシシを捕ったから差し入れに持ってきたよ。みんなで食べておくれ。」
「すみませんねー、ありがたく頂きますよ。」
「いつもウマイ飯食わしてもらってるからのう。また世話になるよ。」
「いえいえ。ありがとうございます。」
じいさんは帰っていった。目の前には、二メートル程のイノシシが倒れてる。
「あれ?」
「マリーナ、気づいたかい?」
「うん。」
何か変?俺には普通のイノシシにしか見えないけど…。
「マウアは感じないかい?」
「う~ん、そう言われるとなんとなく、嫌な感じはあるよ。」
「あのじいさんがこんなおっきいイノシシ捕まえたって言うから、おかしいと思ったのよ。傷口から悪気を感じる…マズイわね。」
悪気?
「昨日、リホが言ってた魔物と関係あるのかな?」
「知ってたかい。そうよ。」
「さっそくか…。リホに伝えたいけど、護衛の堕天士に、天士に近づくなって言われたんだよね。」
「これくらい、アタシたちでやっちゃえばいいじゃん!」
「マリーナやる気だなぁ。でも大丈夫か?」
「へーきへーき。ね?お母さん。」
「そうね。マリーナにはいつもの事よ。心配ないわ。」
「そうなんだ…。」
知らなかった。だからマリーナを訓練施設に行かせたんだ。悪魔騒動の先輩ってことか。
「マウア、あんたが知らないとまずいから言っておくけど、悪気は体から入って最終的に魂を乗っ取る。でも、動物の場合は意思がないから憑依されやすいのよ。今回は、このイノシシになるわね。」
「ふーん。それで、このイノシシは大丈夫なの?」
「じいさんがタイミングよく撃ったんだろうね。だけど、魔獣化されたら倒すのはきついわよ?あたしは一応、護衛団に連絡しておくけど…。」
「なら先に、俺たちが行ってなんとかしてみるよ。な?マリーナ先輩。」
「待ってマウちゃん。まだまぶたが腫れてる。」
「それオシャレだって言ってたじゃん!こんなことしてたら、誰かが魔物に襲われちゃうかもしれないだろー。いいから行くぞ。」
「やだぁ。さっきは強がっただけなのー。恥ずかしいじゃん…。」
「大丈夫だって。相手は魔物だし、笑ったりしねーよ。」
「うーん。でもやっぱりヤダ。顔洗ってまぶた冷やしてくる。」
闇士は洗面所へ行ってしまった。
「しょうがねーなぁ。マリーナー!置いてくぞー?」
「それもダメー!」
「ったくー。」
「あの子、あたしに似たのかしらね。」
「ほーんと、危機感ゼロ。マイペースすぎるよ。」
「昨日の今日だしね。マウア、あんたの焦る気持ちもわかるわ。でも、あの子はあー見えて結構ベテラン。あの子を守る為に闇士にしたけど、
きっと父親の影響で正義感が強いのよ。わかってやりな。」
「うん。」
気性の荒さは母親似だな…。
「??何か言ったかしら?」
「ううん。そう言えば訓練場の騒ぎの時、マリーナ落ち着いてたなぁって思ってさ。」
「ね?そうでしょ?結構頼りになるのよ。」
「わかってる。」
それから、待っても待っても闇士が戻って来ない。
ふあぁーぁ、眠くなってきたよ。これじゃ先に、護衛団が片付けちゃうぜ。
「マウちゃんお待たせー!服選んでたら遅くなっちゃった。」
「服ー?」
闇士の姿は、動きやすそうな旅人仕様になっていた。
ふむ、確かに昨日は女の子らしいラフなお出かけ用だったな。ボーイッシュに見えるけど、それでもオシャレに悩んでたのか?
「まぁいいや。マリーナ急ぐぞ。」
「え?ちょっ、ちょっと待ってよーマウちゃーん!まだ靴が…。」
「二人とも、無理するんじゃないよー。」
「ブーツでいっか。行ってきまーす。」




