表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭霧町奇談  作者: @眠り豆
98/156

97

東に進めば進むほど、風が強くなっていく。

木と木の間の細い道を入ろうとして、河童が振り向く。


「どうした?」


あなたは動けないでいた。

なぜかとても怖い。その道の向こうへ進むのが怖いのだ。

怖いといえば、ここに来てあなたは、べつのものも怖く感じていた。

石だ。

最初からずっと握っていた、しずく型の石。それが、なぜかとても怖かった。

あなたの恐怖に呼応したかのように、しばらく消えていた霧が、また辺りを白く染めていく。


「どうしたのじゃ?」


先に行っていた天狗が戻ってきた。

河童が呆れたように溜息をつく。


「女の子なんだぞ。疲れたに決まってるだろう」

「なんと! 気づかんですまなんだ。吾がおぶろうか?」


あまりに天狗らしくない発言に、河童が細い目を丸くする。


「ふふっ」


あなたは思わず笑ってしまった。

今も怖い。だけど進まなくてはいけない気もしている。


「ゴメンね。なんでもないの。……ううん。なんだか急に怖くなったの」

「疲れのせいだな。手、貸せよ」

「吾は後ろから押してしんぜよう」

「ありがとう」


河童に引かれて天狗に押され、あなたは勇気を振り絞って、その空間に足を踏み入れた。

激しい風が吹きつけてきて、霧が晴れる。

開けた丸い空間の上で、無数の星が煌いていた。

空間の真ん中に、苔むした小さな祠が鎮座している。


「よお、遅かったな」


石の祠に腕をついて、赤いジャージの少年が立っていた。

赤地に黒い線の入ったジャージに見覚えはない。

年のころはあなたたちと同じだが、厳つい顔なので老けて見える。

後ろで束ねてポニーテイルにした獅子のタテガミのように猛々しい赤い髪からは、ねじれた角が飛び出していた。大柄で、筋肉質な体の持ち主だ。

初対面だけど、あなたにはすぐにわかった。


「スケベな鬼さん?」

「おう、俺が……って、ちょっと待て。だれがスケベだ。お前ら、なに吹聴してやがる」

「事実であろ?」

「だよな」

「……えっと、変なこと言ってゴメンなさい。あなたもウサギ探しを手伝ってくれるの? ありがとうございます」


ふたりの妖怪少年が、どこかで彼に連絡していたのだろう。

ぺこりと頭を下げたあなたに、低い声が降ってきた。


「ウサギ? んなもん探す必要ねぇだろ」

「え?」

「ウサギはお前じゃねぇか」


指差されて、あなたは自分のパジャマがウサギ柄だということに気づいた。

鬼があなたの腕をつかみ、高く持ち上げる。


「丸!」

「乱暴なことはするな」

「もう龍神さまの結界の中なんだ。ホントのことを話しても、悪霊は逃げられない」

「悪霊?」


鬼は、あなたの手の平に載ったしずく型の石に視線を向けた。

それはもう、石には見えなかった。

石というより土の塊。いや、土ではない。

絡み合った木の根っこ──それも違う。

手首から上のない土気色の手が丸まって、あなたの手の平に爪を立てている。

普通の手よりも小さいのは、水分を失って乾ききっているからだ。


「いやあぁぁっ!」


あなたは恐怖の叫びを上げた。


→88へ進む

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ