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「仲がいいんだね」
あなたの言葉を聞いて、河童少年は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「不本意ながら幼なじみだからな」
天狗は腕を組み、うんうんと頷く。
「まっこと幼いころから世話になっておる。一の字がおらねば、吾はとっくに儚くなっていたじゃろう」
河童が頭を抱えた。もっとも短く刈られた黒髪の中に皿はない。
仁季たちのように自分の意思で出し入れできるのだろう。
「お前の家、ご両親も天然だからな」
「うむ。父はウェブデザイナー、母はイラストレーター、どちらも好きなものに夢中になると周りが見えぬ。吾にも受け継がれた由緒正しいオタクの血じゃ」
胸を張る天狗に、河童が長い溜息を漏らす。
あなたは笑いを噛み殺した。
羽織った黒いジャージに残った温もりが、河童の優しさを伝えてくれる。
「オタクはいいけど小母さんに、夜中飛び回るのやめてもらえないか。危ないだろ」
「一応言ってみるが、無理だと思うぞ。イラストの構想を考え出すと、どうしても首が抜けてしまうのだ」
「く、首が抜けちゃうの?」
「雪の家の小母さんはロクロクビなんだ。伸びるだけじゃなくて抜けて飛ぶヤツ。まあ、仁季たちの頭より高い位置を飛んでるから大丈夫だろうけど……」
「弟思いじゃのう」
「そうだねー」
あなたと天狗の賞賛に、河童は目の下を赤く染めた。
「そろそろ動くぞ。ウサギを探してるんだったな」
「あ、うん」
「仁季たちがリスを見たって言ってた辺りに行ってみよう」
「うむ。では一の字おぶってくれ、疲れた」
河童は無視して坂道を登り始めた。あなたも後に続く。
やがて、天狗も渋々歩き出した。
しばらく進んで、四方から風が吹きつける場所に戻る。
仁季がリスを見たのは、一番強い風が吹いてくる東の方角だという。
あなたたちはそちらへ向かって歩き出した。
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