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「雪比古くんは優しいよ」
思わずあなたが上げた声に、河童少年は怪訝そうに見つめてくる。
「えっと……お腹が減ってたわたしにチョコウェハースをくれたの」
「それってあれだろ、まんじゅう園のカードがついてるヤツ。仁季たちにもよくもらう。コイツ甘いのより辛いほうが好きだから、お菓子だけ余るんだよ」
親指で差されて、天狗は素直に頷いた。
「それでも……」
あなたはなぜか必死になってしまう。
「それでもわたしは嬉しかったし、だから、その、雪比古くんは雪比古くんでいいんだと思う」
天狗が嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、ダークドッグ殿!」
一瞬不思議そうな顔をして、河童少年は頷いた。
「そっか。仁季がダークドッグさまを守ってね、とか言ってたのはあんたのことか。あれだろ? プレイヤーネームってヤツだろ」
「……うん。あのね、雪比古くんが優しいのは事実だけど、KYなのも本当だね」
中二ネームはあまり言いふらされたくない。
KY天狗はせっかくの端整な顔をぽよーんとゆるめ、あなたに告げた。
「ダークドッグどの。キャットはKではなくCじゃよ? んん? そう言えば、Yはクイーンの頭文字ではないのう」
河童少年は吹き出した。
「これだもんな。でもありがとう」
「なんのこと?」
「こんなでも幼なじみで親友だからさ、良さをわかってもらえると嬉しいよ」
ぽん、と頭に手を置かれて、あなたの心臓が跳ね上がった。
「おっと、すまない。いつも弟たちの頭を撫でてるんで、くせになってるんだ」
「ううん。べつに……べつに、うん、いいよ」
骨ばった手の重さが、なんだか泣きたくなるほど心地良かった。
「俺、一平」
「え?」
「名前。あんたは?」
あなたは自分の名前を告げた。
「それではふたりとも、そろそろウサギを探しに行こうぞ。あ、一の字は吾をおぶってくれ、疲れたのじゃ」
「仕方ないな、置いていくか」
笑顔の一平に視線を向けられて、あなたも笑って首肯した。
座り込んだ天狗を置いて、ふたりで坂道を上がり出す。
「ひどいのう……」
ブツブツ言いながら、天狗も立ち上がって追いかけてきた。
しばらく進んで、四方から風が吹きつける場所に戻る。
仁季がリスを見たのは、一番強い風が吹いてくる東の方角だという。
あなたたちはそちらへ向かって歩き出した。
*あなたは河童の名前を知りました。一平です。
天狗と河童、ふたりの名前を知ったトライアングル数は『+41』です。
★のついた番号の章へ行ったとき、その番号に41を足した番号の章へ進むと、なにかあるかもしれません。
それでは──
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