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ぼんやり考えていたら、手の中から、ぽとりとお守りが落ちた。
慌てて拾い上げようとして、気づく。
(ここ、どこ?)
そこはさっきまでいたはずの家の前ではなかった。
古びたアパートの一室、一階東の角部屋の前だ。閉ざされた鉄の扉がある。
あなたは建物を見上げた。
「ここ……あのアパート?」
狭霧町3丁目236番地──
あなたの通学路の途中にある、近々取り壊される予定のアパートだ。
この前を通るとき、あなたはいつも不気味に感じて早足になっていた。
無意識でそんな場所に来るなんて。
背筋が冷たい。あなたはお守りを拾って、握り締めた。
「なあ」
背後から男の声がして、あなたは飛び上がった。
振り返ると、照原がいる。彼は学校の制服ではなく、チャラい私服を着ていた。
「ど、どうしてここに?」
「それはこっちのほうが聞きたいんだけど。女子がひとりで、こんな不気味な場所にどうして来たわけ? 知ってる? 昔このアパートに住んでた自称教祖が、何人も子どもを殺したんだよ。ソイツ、死んでから悪霊になってこのアパートに巣食ってるんだ」
「し、知りませんでした……」
「でもさ、そんな自称教祖のくせに、何人かの子どもは救ってたりするんだよね。偶然だろーけど。このアパートの持ち主の子どもも難病から救われたらしい。それで周りがなんと言っても、頑としてこのアパートに退魔師を入れなかったって噂」
「詳しいですね」
「うん。俺もね、霊感あんの。親父は霊なんていない、見えるのは気のせいだ、って言うんだけど、視えるもんは仕方ないっしょ。そんで、自己流で修行してるわけ。お前の持ってるそのお守り、俺が美鳥に作ってやったものなんだ」
あなたは手の中のお守りを見た。
よく見れば、美鳥が好きなアニメキャラクターをプリントした布で作られている。
「そうじゃなきゃ、俺はここには来れなかっただろうね」
「……?」
「気づいてない? ここは自称教祖の悪霊が作り出した異空間なんだ。現実とは違う。招かれたものと因縁のあるものしか入れないよ」
あなたは辺りを見回した。
狭い庭を囲むブロック塀の向こうには、あなたがいつも通る道がある。
(でも……)
確かに普通の状況ではないようだ。
辺りは真っ暗で、街灯ひとつついてないのに、あなたにはくっきりと辺りの光景が見えているのだから。
「ねえ、そこ、なにがあんの?」
「なにがって部屋ですよ。扉があるじゃないですか」
「やっぱお前、悪霊に招かれたみたいだね。俺にはそこ、壁しか見えない」
「……」
「どうする? 虎穴に入らずんば虎児を得ずって言うし、その扉開けてみる? 危ないの出てきたら、俺が倒すし」
あなたは──
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