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「昨日と同じなのはちょっと……」
あなたの言葉に、一平は首肯した。
「それもそうだな。……うん」
しばらく考えて、彼があなたに尋ねてくる。
「水死体を探すとき船にニワトリを乗せるのは知ってるか?」
「ええっ? そうなの? なんで?」
「ニワトリが金気で、水死体、人間が土気だからだ。子は親を探すもの。土生金といって、土気から生じた金気は土気を探すんだ。うん、リバウンド作戦だ」
バスケット少年の言うことは、帰宅部のあなたにはよくわからなかった。
──しばらく相談して、あなたたちは二階西端、あるはずの扉のない壁の前に立った。
あなたは壁を見つめた。ここには扉があるはずだ。
悪霊の結界の中、実体のない幻は姿を真似た現実と影響し合っている。
毎朝毎夕前を通った古いアパートは、一階にも二階にも三室ずつあった。
あなたの記憶が古びた鉄の扉を浮かび上がらせる。
完全な形ではなく、半分透き通って壁に埋もれていた。
実体のない手を伸ばし、さらに希薄な存在のドアノブを握る。
開いたとたん、ぐにゃりと世界が歪んだ。
アパートが消えて、あなたと一平は暗闇に放り出される。
視線を感じて見回すと、憎悪で顔を歪めた男と目が合った。
腕組みをした男は、片腕の手首から先がない。
おおおぉぉぉぉぉっ!!
男が吠えた。
吠えたとしか言いようがない。
憤怒に満ちた叫びは青い蛇の姿になって、あなたに襲いかかった。
隣の一平の合図を受けて、あなたは白い光、金気の刃を蛇へと放つ。
帰宅部にしてはなかなかの一投だったのだが、蛇はそれを軽々と避けた。
蛇があなたたちの前で大きな口を開ける。ふたりとも飲み込まれてしまいそうだ。
あなたはさっき一平に教えられたこと、自分、人間が土気に属することを強く意識した。
──土生金。
避けられて、蛇の後方へと飛んでいった白い光があなたを求めて戻ってくる。
青い蛇が戻ってきた白い光に切り刻まれるのと同じくして、断末魔を残して男が消えていく。
「やったね!」
あなたが見ると、一平は上も下もわからない暗闇の中、どこかを見つめていた。
彼が見つめていた場所から、黄金色の丸い光が昇ってくる。
……ワーイ……
……コレデ オカアサンノ トコロヘ カエレルネ……
……オネエチャン アリガトウ……
……カッパサンモ アリガトウ……
楽しそうな子どもの声が、どこかへ昇っていく。
──やがて、あなたと一平は、壊れかけたアパートの一室にいる自分たちに気づいた。
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