表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭霧町奇談  作者: @眠り豆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/156

82

通り過ぎる瞬間に、あなたは振り返った。

アパートの前には、真っ赤な髪の少年が立っていた。

獅子のように猛々しい髪は長く、後ろで束ねてポニーテイルにしている。

彼が着ている学生服を、あなたは知っていた。

あなたの通う高校の近くにある男子校の制服だ。その学校は柄が悪いのと、学力の低さで有名だった。

太い眉毛の下の鋭い視線にぶつかって、あなたは慌てて前を向く。

絡まれてはたまらない。


(でも……)


なにかを感じて、あなたはもう一度振り返った。

少年は俯いていた。太い眉が情けなく垂れ下がっている。


「……若丸くん?」


勝手に口からこぼれ出た名前を聞いて、少年が喜色満面で頭を上げる。


(ああ、そうだ)


髪から覗くねじれた角こそないものの、昨夜一緒に夜の森を歩いた鬼の少年だ。


「どうしてここに? その制服は?」

「昨日の後始末。退魔師に相談したら、ちょうどいいからって修行に繰り出されたんだ。っつっても……」


彼は腕を上げて、手首に通した黒い布の腕輪を見せた。


「暴走しねぇよう力を封印されて、だがな」


心なしか、少し自慢げだ。


「そっか。昨日の悪霊は逃げちゃったんだよね」


あなたは古びたアパートを見上げた。

あの手首を拾ったとき聞いた悲痛な泣き声が、耳に蘇る。


「……若丸くん」

「なんだ?」

「わたしって、本当に霊力が強いの?」

「ああ」


あなたは俯いて、唇を噛んだ。

今考えているのは、本当に言ってもいいことだろうか。

こんなことを言ってしまったら、二度と普通の生活に戻れないのではないか。


(でも……)


あなたは思い出してしまった。

ここで若丸と別れても、きっとここを通るたびに子どもの泣き声が聞こえてくる。


「若丸くんに協力させてもらえる? 足手纏いかな?」

「んなことねぇよ。ホントのこと言うと、こっちから頼みたくて、ここでお前が通りかかるの待ってたんだ。悪霊の結界は強い。巫女にされかけたお前以外が破ろうとしたら、どれだけ時間がかかるかわかんねぇ」

「そうだったんだ。だったら、若丸くんのほうから声をかけてくれれば良かったのに」

「退魔師に禁じられてたんだ。お前が気づかなかったら、諦めろって」

「そっか。でも気づいちゃったもんね」


あなたはアパートを見上げた。

昔のドラマに出てきそうな古びた建物だ。錆びた鉄の階段が一階と二階をつないでいる。

何年も無人だったのには理由がある、と若丸は語り始めた。

ずっとずっと昔、ここには自称・教祖が住んでいた。

彼は病気の子どもを案じる親の気持ちにつけ込み、神の力で病気を癒すと称して大金をせしめていた。彼が普通の治療を禁じたために、死んでしまった子もいたという。

罰が当たったのか、やがて彼自身も病気になり、死を待つだけになった。

彼は死後の復活を企み、治療を求めてやってきた子どもたちを殺して邪悪な儀式を行い、悪霊となった。


──そして今も、ここに、いる。


「んじゃ行くか。どこから見る?」


若丸に問われて、あなたは答えた。


「一階から」→57

「二階から」→127

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ