79
「ふうむ……」
あなたは、唸る雪比古の腕を引っ張った。
ストーリーモード実装のおかげか、アニメの人気か、駅前の大きなゲームセンターの魔獣園の筐体が二台に増えた。並んでプレイしていたあなたたちの後ろには順番を待つ家族までいる。
好きなゲームの人気が、あなたは嬉しかった。
ビビッドでファンキーな衣装を纏った雪比古は、呟きながら立ち上がる。
「協力プレイなど惰弱と思うておったが、これはなかなか侮れぬ」
「パズル要素もあって、面白かったね」
あなたたちは自販機でジュースを買って、休憩コーナーの椅子に座った。
休憩コーナーはゲームセンターのある駅前の大通りに面していて明るいのだが、配線の都合か薄暗い裏口にある自販機は、少し嫌な雰囲気がした。強い存在ではなさそうなので、新米退魔師のあなたたちに、いずれ依頼が来るかもしれない。
あなたは魔獣園の筐体に目を向けた。
兄弟らしきふたりの子どもが楽しそうにプレイし、元からのユーザーらしき父親が後ろで指示を送っている。スマホを見ている母親以外は、楽しそうだ。
(うーん。大したことはないと思うけど、自販機のなにか、放っておいたらここのお客さんが減っちゃうかもなあ)
依頼なしで除霊するのは禁じられている。今度協会に報告しておこう。
「のう」
「なぁに?」
雪比古が見せるスマホには、この前授業中に見せられたダークドッグの改訂版が映っていた。
ちゃんと犬頭の少年だ。
「あ、いいね! すごい可愛いよ、雪比古くん!」
「そなた、本当に犬が好きなんじゃのう」
「うん。いつか飼いたいなー」
あなたは立ち上がった。
「どうしたのじゃ?」
「そろそろ魔獣園空きそうだから、わたし、もう一度プレイしていい?」
「おう。吾も行くぞえ」
「今度新しいデッキ使おうと思ってるの。役に立てないかもしれないけど、いい?」
「かまわぬよ。和風犬神チームかえ?」
「うん! 雪比古くんにもらった犬神と、ウサ耳かぐや姫と、烏天狗!」
雪比古が目を丸くした。
「天狗は天の犬じゃが、それは金気の属性的な名称に過ぎぬ。それでも良いのかえ?」
「……雪比古くん、わたしを犬マニアだと思ってる?」
彼は力強く頷いた。
「んもー! 否定はしないけど、犬だけが好きなわけじゃないよ」
「否定せぬのか」
「最近はね、烏も好き」
「……そうか」
雪烏比古の真名を持つ天狗の少年も立ち上がった。
あなたのペットボトルも受け取って、ふたつの空のボトルをゴミ箱に捨ててくれる。
「後でクレープでも食べに行かぬか?」
「いいね。でもふたりでクレープ食べたりしたら、デートみたいじゃない?」
「吾は最初からそのつもりじゃが?」
さらりと言って、雪比古は先に進んでいく。
あなたは顔が熱くなるのを感じた。
(だったら雪比古くん、もうちょっと格好……)
今にも踊りだしそうなビビッドでファンキーな衣装の少年は、魔獣園の筐体の前で、カードを握り締めて駆け寄ってきた幼児と見つめ合い始めた。
「ちょ、雪比古くん譲ってあげて。後でいいでしょ!」
あなたは慌てて彼を止めた。人形のように端整な美貌が、唇を尖らせる。
「吾のが早かったのに」
「そういう問題じゃないでしょ」
「仕方ない。それでは一緒に写真でも撮らぬか?」
これでは正真正銘のデートだ。
あなたは無言で頷いて、写真の機械へと歩き始めた。雪比古も無言でついてくる。
狭霧町を舞台に、あなたと彼の第2ステージが始まる予感がした。
<エピローグ 雪烏比古>




