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「わたし、恋人がいるんです」
忘れてはいけない、と自分に言い聞かせる。
あなたは亡くなった恋人を復活させるために、ウサギを探しているのだ。
(でも……)
とあなたは思う。
そんなに大切な相手なのに、どうしていまだに顔も名前も思い出せないのだろう。
天狗少年は、あなたの言葉に頷いた。
「そうであろう。丸は県下一のバカ男子校で、ケンカに明け暮れる不良鬼じゃものなあ。恋人になろうなどという、奇特な女子はこの世にはおらぬじゃろう」
「うっせぇし。てか、その県下一のバカ男子校でケンカに明け暮れるってなんなんだよ」
「事実ではないと言うのかえ?」
「そうは言わねぇけど、こないだ一の弟にも同じフレーズで言われたんだけど、お前らで流行ってんのか?」
「流行ってはおらぬよ。寅殿にそう言って追い詰めろと頼まれておるだけじゃ」
「姉貴の策略かよ!」
「修行が始まったら、吾らと同じ学校に編入してほしいと思っておるのじゃろうなあ。実際そなたのような火気の塊がああいう学校におると、生徒たちの攻撃性を煽ってしまう。今に死人が出かねないぞえ?」
「それは……俺だってわかってる。だから舎弟どもに菓子食わせて中和してるんだ」
「ほっほっほ。一の字をオトメンオトメン言うが、一の字は必要に迫られて家事をしておるだけなのだから、趣味で菓子を作っておるそなたのほうがオトメン妖怪じゃろう」
「ほっとけ」
「あ」
思わず声を上げたあなたは、鬼と天狗の視線を受けた。
「どうかしたのかえ?」
「なんだ?」
「えっと、さっきの赤ちゃんの顔を描いたおまんじゅう、もしかして鬼さんが作ったのかなあ……って」
「まんじゅうだけでなく、野点の菓子もこやつが作っておるぞ」
「黙れ、雪。この図体で菓子作りが趣味とか、気持ち悪がられるだろうが」
「彼女には恋人がおるのじゃから、好感度を上げずともよかろう」
「そ、それは……」
鬼はちらりとあなたを見て、頬を染めて顔を逸らした。
(え……?)
「てか、のん気に話してる場合じゃねぇんだよ。コイツがウサギ探してんだ。山は広いんだから、お前も手伝え」
「ウサギか。そういえばニッキーが、どこだかでリスを見たとか言うておったな。ちと待て、一の字にメールしてみる」
「この山は電波入らねぇって!」
「メールくらいなら大丈夫じゃ。そもそも動画は重いから、最新のスマホでも……」
「うっせぇ。わかったから、とっととメールでもなんでもすりゃいいだろ」
鬼にオトメン扱いされているというからには、天狗の言う一の字とは河童のことだろう。
彼のメールによって、ここより東でリスが目撃されたと判明した。
リスのような小動物が生息できる場所なら、ウサギもいる可能性がある。
「枯れ木も山の賑わいっつうし、お前も来いよ。どうせアニメ観れねぇんだろ」
「うむ。しかし山道を行くのは疲れるので、おぶってくれ」
溜息をついてしゃがみ込んだ鬼の背中に、天狗が乗る。
鬼が立ち上がって歩き出したので、あなたは彼に並んだ。
「優しいんだね」
「丸はお人好しなのじゃ。昔話なら、家だけ建てて嫁をもらえぬ大工鬼じゃろうな」
「黙れ、坂道で振り落とすぞ」
「飛ぶから平気じゃ」
「なら最初っから飛べよ!」
「飛んでおったら地面を走るウサギは見つけられぬじゃろうが」
「そうかもしんねぇけどよ」
「ふふっ。仲いいんだね。……全然関係ないわたしのこと、助けてくれてありがとう。えっと、お菓子作りが趣味の男の子って、ギャップがあっていいと思うよ」
「お、おう」
「ほう。丸の良さをわかってくれるとは、そなた、良い子じゃのう。吾は雪比古じゃ。今の恋人と別れたら、吾とつき合おうぞ」
「なにサラッとナンパしてんだよ!」
「うふふ」
「……まんざらでもねぇのか? だったら雪じゃなくて……」
「行くぞ、丸」
「お前が仕切んなよ!」
夜の森に、あなたたちの軽口が響き渡った。
今来たばかりの東へ引き返し、四方から風が吹きつける、最初いた場所に戻る。
河童の弟がリスを見たのは、一番強い風が吹いてくる、さらに東の方角だという。
あなたたちはそちらへ向かって歩き出した。
*あなたは天狗の名前を知りました。
雪比古。彼の名前数は『+4』です。
☆のついた番号の章へ行ったとき、その番号に4を足した番号の章へ進むと、なにかあるかもしれません。もちろん普通に選択肢を選んで進んでもかまいません。
それでは──
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