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「天狗……さんに会ってみたいかな」
あなたは鬼にそう伝えた。
頭のいい引きこもりオタクの妖怪だなんて、なんだか面白そうだ。
「わかった。じゃあ……」
鬼は西へと歩き出した。
目指す方角の樹上で、銀色の宝石のような月が煌いている。
「こっちだ。たぶんスマホでアニメ観てやがる。この山は霊気が強いから、電波の入る場所が限られてんだ」
東から吹く風に、ほんのり後ろ髪を引かれながらも、あなたは鬼の広い背中を追って歩き出した。
(なんのアニメ観てるのかな? オタクってことは萌え系アニメ?)
天狗と会うのが、ちょっぴり楽しみになってきた。
南北に伸びる激しい傾斜を、鬼の広い背中を追って横切る。
生い茂る木々の隙間をくぐり、枝をかき分けて進む。
次第に霧が薄くなっていく。
しばらくして、あなたたちは月光が降り注ぐ開けた空間に出た。
鬼が上を向いて、なにかを探すように顔を動かす。
(天狗って翼があるんだったっけ?)
彼を真似て、あなたも樹上を見回してみた。
神主のような格好をした少年が、太い枝に立っている。
高下駄を履いているので、ひどくバランスが悪い。
彼はゆらゆらと揺れながら、月になにかを翳していた。背中で白い翼が揺れている。
(……スマホ持ってるの?)
「雪、降りて来い! 諦めろ、この山は電波入らねぇんだよ!」
鬼の呼び声に溜息を漏らし、天狗が降りてくる。
「仕方ない。円盤が発売されるまで待つとするか」
背は高いけれど、華奢な体つきの少年だ。翼も服も髪も肌も真っ白だった。
端整な顔立ちは陶器の人形を思わせる。
黒と見紛う深く濃い赤色の瞳が、あなたを見た。
「ん? こんな夜の山に女子がおるとは……もしかして、丸のカノジョかえ?」
あなたは即座に、違います、と天狗に答えた。
それから──
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