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(金気……あの手は木の属性を持つから、金属の斧に弱い)
教えてもらったことを頭の中で繰り返す。
あなたは目を閉じて、斧を握った自分の姿をイメージした。
ためらっていると思ったのか、河童が声を上げる。
「頼む。邪悪な存在は、けして満たされることがない。俺を喰らいつくしたら、今度は弟たちを狙う」
幼いふたりの姿が脳裏に蘇る。
夜の森の中、ただでさえ怖かったのに、勇気を出して話しかけたら脅かされてしまった。
だけど兄に殴られたあなたに、河童の霊薬を差し出してくれた優しい子どもたちだ。
腕が、ずん、と重くなった。
握った斧のイメージが薪割り用の手斧から、アクションゲームに出てきそうな巨大なものに変わる。あなたは目を開いた。
普通なら地面に立てて支えることも不可能だろう巨大な斧が、あなたの腕の動きに合わせて持ち上がる。刃の先は、白い光の軌跡を描いた。
深呼吸して、あなたは斧を振り下ろす。
河童だからか、体から離れた腕は水の塊に変わった。その中で、土気色の手が鮮魚のように暴れている。
いや、地面を掘ってどこかへ逃げようとしているのだ。
「とどめを!」
声とともに水の腕が消える。
泥を跳ねながら地面を掘り続ける土気色の手に、あなたはもう一度斧を振り上げた。
土気色の手が霧散して、河童少年に駆け寄る。
「大丈夫?」
「ああ」
あなたが切ったはずの彼の腕が、にゅっと伸びた。
そういえば緑色のパーカーの袖は切れていない。
「……あ」
「河童は、手足の長さを調節できるんだ」
「言ってよ。無駄にドキドキしちゃった」
「これから戦う相手の前で、作戦の種明かししてどうする」
「それはそうだけど」
少年は細い目をさらに細めて、なんだかイタズラな笑みを浮かべた。
骨ばった手で、あなたの頭を優しく撫でる。
「協力ありがとな」
「う、ううん。だって元々わたしのせいだったんでしょ?」
言いながら、あなたは奇妙な不安を感じていた。
土気色の手は消え去った。
それは疑いようのない事実だ。だけど──
「ねえ、本当のこと教えて。消えたのは、あの手だけだよね。だって、なんていうか、上手く言えないんだけど……断末魔が聞こえなかったの」
「鋭いですね」
茂みをかき分けるガサガサという音と、涼やかな声が同時に聞こえてきた。
あなたが飛び込もうとしていた場所から、学生服を着て日本刀を持った少年が出てきたのだ。彼の後ろには、破れたデニムを穿いた無精髭の男もいる。
「河童くんってば遅ーい。寅さんに怒られちゃうよ」
掠れた声で言う男に、河童少年は冷たい視線を投げかけた。
「……どうせあの女のところへ行ってたんだろ? うちには小さい子どもがいるんだ。さっさと退治してくれなきゃ困るんだがな」
絶句した無精髭の男の後ろで、日本刀を持った学制服の少年が頷く。
「まったくです」
「刃くんまで……だれもわかってくれない。俺は、傷ついて死を選び地縛霊となった彼女を力ずくで祓うような真似したくないんだ。だからゆっくり話をして、彼女の心を癒そうとしているのに……」
「惚れっぽい地縛霊に熱い目で見られて、鼻の下伸ばしてるだけでしょう」
「熱い目で見られたいんなら、寅ネエと手合わせでもしたらどうだ?」
「ふたりとも、そんなことより彼女だろ? ぽかんとしてるじゃないか」
「誤魔化したな」
「誤魔化しました」
「違うよっ!」
初対面だけれど、誤魔化したんだな、とあなたも思った。
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