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東に進めば進むほど、風が強くなっていく。
木と木の間の細い道を入ろうとして、河童が振り向く。
「どうした?」
あなたは動けないでいた。
なぜかとても怖い。その道の向こうへ進むのが怖いのだ。
怖いといえば、ここに来てあなたは、べつのものも怖く感じていた。
石だ。
最初からずっと握っていた、しずく型の石。それが、なぜかとても怖かった。
あなたの恐怖に呼応したかのように、しばらく消えていた霧が、また辺りを白く染めていく。
「ん? 足でも挫いたか?」
あなたの前にしゃがみ込み、鬼が見上げてくる。
「お姫さま抱っこでもしてやろうか?」
「丸、下心が滲み出てるぞ。……なあ、本当に足を挫いたり、体の調子が悪いんなら言ってくれ。すぐに河童の霊薬を出す」
「あ、ありがとう」
ふたりの気持ちが嬉しかった。
彼らには関係ない、あなた自身にもよくわかっていないことなのに、こんなに親身になって協力してくれている。
どんなに怖くても、進まなくてはいけない気がした。
「ゴメンね。なんでもないの。……ううん。なんだか急に怖くなったの」
「そりゃそうだよな。夜の山で、鬼と河童をお供にしてウサギ探してんだ」
「怖くもなるか」
妖怪少年たちが、あなたに手を差し伸べてくる。
あなたは彼らの手を取った。鬼の大きな手も河童の骨ばった手も温かい。
ふたりに手を引かれ、あなたは勇気を振り絞って、その空間に足を踏み入れた。
激しい風が吹きつけてきて、体に纏わりつく霧が晴れる。
開けた丸い空間は、西の空に浮かんだ月の光に照らされていた。
空間の真ん中に、苔むした小さな祠が鎮座している。
石でできた灰色の祠の向こうに、白い塊があった。
「……?」
首を傾げたあなたから離れ、妖怪少年たちが白い塊に近づいた。
ふたり同時に、ぽかん、と白い塊を殴る。
「なんじゃ、もう朝か?」
眠っていたらしい。
立ち上がったのは、陶器の人形のように端整な顔をした少年だった。
髪も肌も白く、神社の神主を思わせる和装を纏っている。背は高いが華奢な体つきだ。
もしかしたら、とあなたは思った。
「あなた、天狗さん?」
「うむ。よく気づいたのう」
「翼があったから、そうかな、って」
「なるほどなるほど」
「初めまして。……あの、どうしてこんなところで寝てたんですか? 風邪ひきますよ」
妖怪少年たちが小声で、KYは風邪ひかない、と呟いた。
「吾はそなたのウサギ探しを手伝いに来たのじゃが」
「そうなんですか? ありがとうございます」
「探す必要もなかったのう。すぐそこにおるではないか」
天狗が手にしたスマホの先でつつかれて、あなたは自分のパジャマがウサギ柄だということに気づいた。
「ホントだ。こんな近くにウサギ。え? わたし、どうして」
天狗は微笑んで、あなたに尋ねた。
「のう。そなたが後生大事に握っている、それは、なんじゃ?」
「これですか? これは……」
あなたは拳を開き、手の平に載ったしずく型の石に視線を向けた。
それはもう、石には見えなかった。
石というより土の塊。いや、土ではない。
絡み合った木の根っこ──それも違う。
手首から上のない土気色の手が丸まって、あなたの手の平に爪を立てている。
普通の手よりも小さいのは、水分を失って乾ききっているからだ。
「いやあぁぁっ!」
あなたは恐怖の叫びを上げた。
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