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悪霊退治の件が評価されて、あなたと若丸はC級退魔師に任命された。
今日はふたりで、狭霧町にある廃病院の浄化に来ている。依頼人は土地の持ち主だ。
どうしてかこの建物には、霊を引き寄せて呪縛する力があった。今は霊の巣窟となっている。
プロ最低レベルのC級でも退魔師の報酬は大きい。退魔師協会に紹介料を天引きされても、学生のアルバイトとしては破格の金額をもらえる。
ただし、退魔師協会は命の安全は保証しない。
「……人間掃除機」
後ろを歩く若丸が、いささか失礼なコードネームを呟く。
薄汚れ、ところどころ壁が崩れた廃病院は引き寄せられた霊で満ちている。
あなたの霊力は強い。あの事件がきっかけで霊を視たり、その声を聴いたりするようになった今でも、少々の邪気なら無意識に浄化してしまう。
あなたの前には霊がいる。あなたの後に霊はいない。
もっともこの廃病院は霊が多い。あなたがいなくなったとたんに、浄化された場所はべつのところから押し寄せた霊で埋め尽くされてしまうのだった。
「掃除機でもいいんだけど、これじゃキリがないね」
「だよな」
あなたと若丸は、手首に腕輪をつけている。
退魔師協会から渡されたものだ。霊力を制御する効果とGPSの機能がある。
あの悪霊のときも、あなたたちになにかあれば若丸の腕輪から協会へ危険が発信されて、控えていたプロ退魔師が突入する予定だった。どんなに硬い結界でも、中から引き込むものがいれば簡単に入れる。
(……というか……)
あなたは若丸を振り返った。
鬼である彼の強過ぎる霊力を封印するためだったのも事実だが、あのときはGPS機能のほうが主目的だったに違いない。前の夜あなたに同行したことで、多少なりとも悪霊と接点ができた若丸に、内側から結界を崩させる。それが協会の狙いだったのだろう。
「どうした?」
「ううん。あのときの悪霊、無事に倒せて良かったなあ、って」
「俺とお前だぜ? 倒せるに決まってんだろ」
「……あれ?」
あなたは自分の腕輪に視線を落とした。
若丸はあのときと同じ、火気を抑える水気を表す黒色の布で作られた腕輪で、あなたの腕輪は透明な水晶を細い金鎖でつないだ腕輪。
傷がないはずの水晶が煙っている。
あなたは水晶に指を当てて、霊力を送り込んだ。あなたの力を依代にして、ふわん、と宙に実体のない鳥が浮かび上がる。式神だ。
「若丸くん、大変。屋上の先輩たちからSOSよ!」
今日、ここに来ているのはあなたたちだけではない。
この病院はかつて、狭霧町一大きな総合病院だった。
五階建ての建物が三棟、駐車場も大きい。
そんな敷地の広さを鑑みて、階や棟ごとにC級退魔師が配置されている。
若丸が片手に拳を打ちつけた。
「仕方ねぇ。助けに行ってやるか」
「うん。人間掃除機と赤いゴリラの力を見せてやろうね!」
「……B級に上がったら、ぜってぇそのセンスねぇコードネーム変えさせる」
こんな未来を夢見たことはなかったけれど、こんな現在も悪くはなかった。
狭霧町を舞台にした、あなたと若丸の退魔師伝説は、始まったばかりだ。
<若丸 退魔師END>




