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狭霧町奇談  作者: @眠り豆


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──あなたは、幸せな気分で目を覚ました。

なにか夢を見ていたような気がしたが、内容は思い出せない。

あなたはいつものウサギ柄のパジャマを着ていた。

どこも破けていないし、霧にも夜露にも濡れていない。

パジャマ以外のものを羽織ってもいなかった。

昨夜夕食を摂らなかったから、ひどくお腹が減っている。

ベッドから出て大きく伸びをして、あなたは自分の手の平に残る爪痕に気づいた。

なんだかとても、嫌な予感がした。


「あー、美味しかった」


忘れた夢に囚われていたのは、朝食が終わるまでだった。

夕食を摂らなかったあなたを案じて、母が特製のフレンチトーストを焼いてくれたのだ。

甘さ控えめの卵液に一晩つけたフランスパンは、プリンのようにやわらかくて、ほのかな弾力があった。カリカリのベーコンエッグにも合ったし、グラニュー糖をかけたものも美味しかった。

あなたは幸せな気持ちで通学路を進んだ。

進んだ、のだけれど──足は次第に重くなっていった。


(遠回りしようかな。走ったら遅刻しないかも)


いつも不気味に思っている無人のアパートの前を通るのが、今日は無性に嫌だった。

それでいてなぜか、どうしてもそこに行かなくてはいけない気もする。

石のように重くなった足を引きずって、あなたは歩いた。


「……」


あなたは結局、いつもの道に進んだ。

狭霧町3丁目236番地──

普段以上に不気味に感じるアパートの前に、見慣れないふたりが立っていた。

無精髭を生やした二十代後半から三十代前半くらいの男と、日本刀を持った学生服の少年だ。男は破れたデニムを穿いていた。

あなたの頭の中で?マークが飛び回る。

掠れた声に呼びかけられた。


「おはよう」

「お、おはようございます」

「おはようございます。お待ちしてましたよ」

「え?」


学生服の少年があなたに土でできた鈴を見せた。

鈴の表面には鳥獣戯画を思わせる筆致で、河童と鬼と天狗が描かれている。あなたの頭の中でもなにかが煌く。


(……あ!)


あなたは昨夜出会った三人の妖怪少年、龍神の名代たちのことを思い出した。


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