55
──あなたは、幸せな気分で目を覚ました。
なにか夢を見ていたような気がしたが、内容は思い出せない。
あなたはいつものウサギ柄のパジャマを着ていた。
どこも破けていないし、霧にも夜露にも濡れていない。
パジャマ以外のものを羽織ってもいなかった。
昨夜夕食を摂らなかったから、ひどくお腹が減っている。
ベッドから出て大きく伸びをして、あなたは自分の手の平に残る爪痕に気づいた。
なんだかとても、嫌な予感がした。
「あー、美味しかった」
忘れた夢に囚われていたのは、朝食が終わるまでだった。
夕食を摂らなかったあなたを案じて、母が特製のフレンチトーストを焼いてくれたのだ。
甘さ控えめの卵液に一晩つけたフランスパンは、プリンのようにやわらかくて、ほのかな弾力があった。カリカリのベーコンエッグにも合ったし、グラニュー糖をかけたものも美味しかった。
あなたは幸せな気持ちで通学路を進んだ。
進んだ、のだけれど──足は次第に重くなっていった。
(遠回りしようかな。走ったら遅刻しないかも)
いつも不気味に思っている無人のアパートの前を通るのが、今日は無性に嫌だった。
それでいてなぜか、どうしてもそこに行かなくてはいけない気もする。
石のように重くなった足を引きずって、あなたは歩いた。
「……」
あなたは結局、いつもの道に進んだ。
狭霧町3丁目236番地──
普段以上に不気味に感じるアパートの前に、見慣れないふたりが立っていた。
無精髭を生やした二十代後半から三十代前半くらいの男と、日本刀を持った学生服の少年だ。男は破れたデニムを穿いていた。
あなたの頭の中で?マークが飛び回る。
掠れた声に呼びかけられた。
「おはよう」
「お、おはようございます」
「おはようございます。お待ちしてましたよ」
「え?」
学生服の少年があなたに土でできた鈴を見せた。
鈴の表面には鳥獣戯画を思わせる筆致で、河童と鬼と天狗が描かれている。あなたの頭の中でもなにかが煌く。
(……あ!)
あなたは昨夜出会った三人の妖怪少年、龍神の名代たちのことを思い出した。
→5へ進む




