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「そうだね。夜の山は危ないから、一緒に来る?」
「うん!」
「んむ!」
子どもたちは嬉しそうにはしゃぎ出した。
天狗はスマホに指を滑らせている。
(わたしがしっかりしなくちゃ)
「ねえねえ、ダークドッグさま」
「……うーん。恥ずかしいから、ダークドッグさまは止めてくれる?」
「そう? じゃあおねーちゃん!」
「なぁに?」
「妖怪じゃないんなら、どうして影から霧を出してるの?」
「え?」
「おじしゃん、おじしゃん!」
ぴょんぴょん跳ねる三太に、仁季が頷いた。
「そうそう。それに、どうして影がオッサンの形なの?」
「ええっ?」
あなたは自分の影を見た。
もうかなり薄くなっていたものの、地面には霧が漂っている。
それでもわかった。
月光が作り出すあなたの影は、あなた本人とは似ても似つかない老いた男のものだった。
心なしか、動きさえあなた自身のものとは異なって見える。
あなたの全身が恐怖に包まれるのと同時に、影から霧があふれ出た。
噴水のように激しい霧が、たちまち辺りを白く染める。
近くにいるはずの子どもたちも天狗も見えなくなった。
気配も感じない。物音も聞こえなくなった。
(……どういう、こと?)
あなたは自分の手を見つめた。
手の平に載っているのはしずく型の石、だとあなたはずっと思っていた。
だけど違う。
石というよりも土の塊、しずく型というよりも卵。
いや、どちらも違う。それは絡み合う木の根っこ──でもない。
あなたがずっと握っていたのは、干からびた土気色の手だった。
手首から上がなく、すっかり乾燥しているので小さくなっている。
土気色の手が、あなたの皮膚に刺した爪を伸ばしだす。
あふれた赤い血があなたの手を染め、あふれなかった血は土気色の手に吸われて、干からびた指や皮膚を潤していく。
「……っ!」
あなたはもういっぽうの手で、土気色の手を外そうとしたができなかった。
「……うぉーん、おぉーん……」
霧の向こうから犬の咆哮が響いてくる。
さっき仁季がリスを見たことがあると言っていたが、山犬もいるのかもしれない。
あるいは人間に捨てられて野性に返った野良犬だろうか。
自分の置かれた状況も忘れて、あなたは思った。
(仁季くんたち、大丈夫かな?)
あの天狗は、今ひとつ信用できない。
(悪い人……悪い天狗ではなさそうだけど)
なにかに夢中になると、周りが見えなくなる。
魔獣園のアニメに夢中な友達と同じタイプだ。
あなたは腕を伸ばした。とりあえずこの土気色の手を体から離したい。
どんどん濃くなっていく霧は、伸ばした腕をあなたの視界から消してくれた。
(あの影は、わたしのものじゃない)
老いた男の姿をしたあの影は、手の上で次第に重みを増していく土気色の手とつながっていた。爪を伸ばしてあなたの血を啜る土気色の手はきっと、影と同じ姿になろうとしているのだ。
(でもこの霧はわたしが出してる……気がする)
これまでもあなたの感情の波に合わせて、霧は変化していた。
(ほかのものも出せる、かもしれない)
あなたはダークドッグの呼び名に恥じない、中二病そのものの計画を思いついた。
土気色の手に血を吸われて、朦朧としているのかもしれない。
頭に浮かぶのは、魔術師の魔獣園で天狗を破ったカードのデッキ──
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オルトロスを召喚する→92へ進む
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