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あなたは鬼に会いたいと告げた。
夜の山でスケベな鬼に会うなんて冗談じゃないけれど、この天狗の友達なら、そう大したことはないだろう。
それに天狗のおんぶ要員として考えると、河童より鬼のほうが力持ちっぽくて向いてそうだ。あなたは河童という妖怪のことをよく知らなかった。
「わかった。……つながらん」
頷いてスマホをつついた天狗は、すぐに情けない顔になった。
「この山は電波が入りにくいのじゃ。仕方ない。丸は鬼屋敷におるじゃろうから、ちょっとだけ歩いて誘いに行こう。南へ向かえばすぐだ」
彼はダルくてたまらないという表情でフラフラと、急な傾斜を登り出す。
今にも転びそうで、あなたはハラハラした。
「だ、大丈夫? 良かったら肩を貸そうか?」
「いくら吾でも女子に肩を借りようとは思わぬよ」
「でも……」
ヨタヨタと前を行く白い翼を見ながら歩くのは、不安でならない。
あなたは腕を伸ばし、彼の背中を押した。
しずく型の石を持っているほうは、握り拳の状態で押す。
静電気だろうか。広げた手のほうは感じないのに、拳のほうだけ、天狗に触れると痺れるような感覚があった。
「すまぬのう。楽ちん、楽ちん、ありがたいぞえ」
ふたりでエッチラオッチラ坂道を進んでいると、なんだか楽しくなってきた。
「ご不自由はございませんか、マイマスター」
「うむ。心地良いぞ、マイモンスター」
魔術師の魔獣園ごっこを始める余裕さえ出てきたとき、前に茂る木々が震えた。
枝が揺れて、大柄な男が姿を現す。
年のころはあなたや天狗と同じだが、筋肉質な上に厳つい顔なので老けて見える。
獅子のタテガミのように猛々しい真っ赤な髪は、後ろで束ねてポニーテイルにしていた。
髪からはねじれた角が覗いている。
彼が着ている赤いジャージに見覚えはないけれど、あなたはすぐに察した。
「スケベな鬼さん?」
「ん? ああ、俺は……って、ちょっと待て。だれがスケベだ」
「事実であろ?」
「ちげーよ。てか、この女だれ? 雪のカノジョ?」
「いいや、彼女は吾の宿敵、ダーク……」
「わあああああっ!」
あなたは後ろから天狗に抱きついて、彼の口を封じた。
夜の森で中二ネームを披露されるだなんて、どんなプレイだ。
赤毛の鬼があなたたちを見て、舌打ちを漏らす。
「見せつけんなよ。……なんで24時間カノジョ募集中の俺にできなくて、引きこもりオタクの雪にカノジョできんだよ。あーもう、やってらんねー!」
言いながら、彼はジャージの上着を脱いであなたに突き出してきた。
「そんな薄いパジャマじゃ、尖った枝や硬い葉っぱで痛い思いすんだろ。これ着とけ」
「あ、ありがとう」
「こうして気が利くのに、なにゆえ丸にはカノジョができぬかのう?」
「知、ら、ね、え、よ! そりゃあれだ、お前が共学に行ってて、俺が男子校に通ってっからだ」
「受験勉強が嫌で、今の学校を選んだのは丸ではないか」
「あーそうだよ。勉強嫌いのアホが俺だ。つうか頭悪過ぎて、共学受けても落ちてたわ」
うんうん、と頷く天狗に、鬼は金切り声を上げた。
「幼なじみの親友だろうが! そこはそんなことないぞ、とか言うもんじゃねぇの?」
「丸、どこかでウサギを見なかったかえ?」
「話ぶった切りかよ!……なに、ウサギ探してんの? この前一ん家の弟がリスかなんか見たとか言ってたけど?」
「そうか、一の字に聞いてみる」
天狗はスマホを取り出した。
河童に連絡するつもりだろう。画面に指を滑らせ始める。
「ちょ、待てよ! なんで俺がここにいるのかとか聞かねぇのかよ」
天狗が顔を上げようともしないので、可哀相になってあなたが聞いた。
「どうしてなんですか?」
「お、おう。俺、退魔師探してんだ。姉貴との約束の時間過ぎても来ねぇから」
「そうなんですか。……ごめんなさい。わたしたち、だれも見てないです」
「おう。……お前、雪と別れて俺とつき合わねぇ?」
あなたは彼の前で手を振って見せた。
「あ、結構です」
忘れかけていたけれど、あなたは亡くなった恋人を復活させるためにウサギを探しているのだ。
「うっわー、チョーCOOL。さすが雪のカノジョだな」
「……一の字に聞いたら、ここから北東の辺りで見たらしい」
「あ、うん。わかった。疲れは大丈夫?」
「大丈夫ではない」
「んじゃ俺、おぶってやろうか?」
「え? 退魔師さんを探すんじゃないんですか?」
「俺や雪たちの修行の相談とか言ってるけど、実際は姉貴が退魔師に気があるだけだ。遅刻するってのは、向こうはそれを察して嫌がってるってことだろ。無理して探すほどじゃねぇよ」
「丸はシスコンゆえ、姉君に恋人ができるのが嫌なのじゃな」
「へーそうなんだー」
「違ぇし! てか本人の前で噂話すんなよ、リア充!」
そんなこんなで、あなたたちは三人で歩き始めた。
今来たばかりの北へ引き返し、四方から風が吹きつける、最初いた場所に戻る。
河童の弟がリスを見たのは、一番強い風が吹いてくる、東の方角だという。
あなたたちはそちらへ向かって歩き出した。
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