43
「お気持ちだけで」
空腹に耐え、あなたはチョコウェハースを断った。
冥府のものを食べたら冥府から帰れなくなるという、神話のお約束を思い出したのだ。
チョコウェハースに腕を伸ばしかけたとき、しずく型の石を握った手の平が、危険を警告するようにひどく痛んだせいもある。
「吾は甘いものよりピリ辛味のほうが好きなのじゃが、カードを愛するものとして、お菓子もきちんと食べねばならぬわなあ……」
がっくりと肩を落とした天狗を見つめる。
(アルビノ、なのかな?)
肌も髪も雪のように白かった。
瞳は黒いようでいて、月光を浴びるとほんのり赤く煌く。濃い赤色だ。
長いまつ毛が赤い瞳に影を落としている。
「ところでそなた、どうしてこんなところにおるのじゃ? 狭霧山は、人間の来る場所ではないぞ」
「え、でも狭霧山には村があるでしょ?」
「うむ。妖怪が住む村じゃ」
「そうだったんだ」
来たことはなかったが、普通の村だと思っていた。
地元のローカル番組で特集されているのを見たこともある。
赤い瞳を見つめると、照れくさそうな笑みを返された。
(ウサギ……)
最初見たときも勘違いした。それにはなにか意味があるのかもしれない。
あなたはウサギを探していることを彼に告げた。
「ほう、ウサギを探しておるのか。……もしかしてそれは、先日の大会の優勝賞品だったウサ耳バージョンのかぐや姫カードを落としてしまったということか?」
心から同情している顔で尋ねられて、あなたは俯いた。
必死に笑いを堪えたものの、答える声が震えてしまう。
「う、ううん。あれはちゃんと家にある。コレクションアルバムに入れてるから」
「使わぬのか?」
「犬神のカードを手に入れたら、和風コンボで使おうと思ってるけど」
天狗の顔が輝いた。
「犬神ならダブりがあるぞ。バステトと交換じゃ」
「ありがとう」
「では行くぞ」
「え?」
「ウサギを見つけたら、そなたの家まで送っていこう。バステトのカードも家にあるのじゃろ?」
「う、うん……」
しずく型の石を握った手の平が痛んだような気がしたけれど、断れる雰囲気ではない。
カード交換を夢見る白い天狗の細い背中を追いかけて、あなたは歩き出した。
→44へ進む




