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「あの……落としましたよ」
あなたは頭上の少年に声をかけた。
「おお。そうじゃったか」
枝の上で嬉しそうに答え、彼は翼を広げた。
(……翼!?)
真っ白だけれど天使ではない。きっと、この山に住むという天狗だ。
天狗は、あなたの目の前に降り立った。
喜色満面で腕を差し出してくる。
年のころは十代後半。あなたと同じくらいの少年だ。
背が高く、ゆったりした和装のせいもあって華奢な印象を受ける。端整な顔もあり、陶器の人形のようだ。
「ご苦労であった」
「はあ……」
彼がスマホをいじり始めたのをいいことに、あなたはこっそりこの場を離れることにした。
だけど、
「……のう、そなた」
神主のような服装に似合った、雅な話し方をする天狗に呼び止められてしまう。
「甘いものは好きかの?」
天狗に言われて、あなたは自分がひどく空腹なことに気づいた。
甘いものは嫌いではない。
「良かったら、スマホの礼にこれをもらってくれぬか?」
白い少年が突き出してきたのはナイロンに放り込まれたスナック菓子だった。
四角いウェハースでナッツ入りのチョコを挟んでいる。
無意識に言葉が口からこぼれ出た。
「魔獣園のチョコウェハース?」
「そなた、魔獣園を知っておるのか?」
「うん。対戦型のカードゲームでしょ? お休みの日に、よく友達とゲームセンターに行って遊ぶの。友達はアニメから入ったんだけど……ふふっ」
あなたは思わず笑ってしまった。
霧が漂う夜の森、自分の名前もわからない状況で、天狗を前にして思い出すには場違い過ぎる情報だ。ちなみに魔獣園の正式名称は『魔術師の魔獣園』である。
天狗はもっと場違いだった。
「チョコウェハースのシークレットだった、くのいちバージョンのバステトを持っておらぬか? 箱買いしても見つからぬうちにキャンペーン期間が終わってしもうたのじゃ」
あなたはたまたまそのカードを持っていた。
しかも2枚。友達が誕生日プレゼントにくれたチョコウェハースに入っていたのだ。
いくら特別なカードでも、ふたつとも同じカードじゃねーと、友達とふたりで苦笑した。
「ダブってるからあげるよ。わたしは犬派で、基本ケルベとオルトとアヌビスのデッキだし」
「そのデッキ編成……そなた、もしかしてダークドッグか?」
「う、うん」
顔から火が出そうだ。あまりに中二病めいたプレイヤーネームだが、つけたとき、本当に中学二年生だったのでどうしようもない。
天狗は喜色満面で、自分を指差した。
「吾じゃ。先日の大会、決勝戦で当たったキャットクイーンじゃ」
「えっ? バステトと猫又とケットシーでデッキ組んでる?」
「そうじゃ、そうじゃ」
魔術師の魔獣園はカードから召喚したモンスターを戦わせて、召喚魔術師の頂点に立つことを目的としたゲームだ。同じモンスターでもバージョンが違うとグラフィックや能力が変化する。また、戦いを重ねればデータがセーブされ、同じカードでもレベルが上がっていく。
オンラインで戦うので、対戦者の顔は見たことがなかった。
都会では並んだ二台で対戦することもあるらしいが、狭霧町にあるゲームセンターで、魔術師の魔獣園の筐体が二台ある店舗はない。
「嬉しいのう。一の字も丸もゲームには全然興味がないのじゃ」
「わたしの友達もアニメが始まるまではちっとも……」
日ごろの悲しみを語りかけて、あなたは我に返った。
ゲーム話に興じている場合ではない。ウサギを見つけて、恋人を復活させなければ。
(でも……ウサギって、本物の動物のウサギでいいのかなあ?)
「そなた、スマホは持っておらぬのか? 連絡先の交換を……どうした?」
「ごめんなさい。わたし、用事があって」
「そうか。ひとりで盛り上がって悪かった。どんな用事かは知らぬが、上手くいくといいな。バステトはまた機会があったときで良いので、チョコウェハースでも食べて鋭気を養っていくといい」
あなたは──
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