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「イヤ」
言い切った。
「なんだとっ?」
声が驚愕している。
「当たり前でしょ? なにが巫女よ。あなたは一度もわたしの意志を聞かなかったわ。命令するだけ。そんな存在がいいもののはず、ないもの」
「ぐっ。なら力ずくで従わせてやる」
「……っ」
皮膚に刺さっていた爪が伸びる。
あなたの血を啜り、土気色の手が水気を取り戻していく。
手が吸収しきれなかった血が、手の平を赤く染めた。
激しい痛みで意識が朦朧としていく。
男の声が、憎々しげな声を放つ。あなたに聞かせるつもりのない呟きだ。
「……この娘だけで足りるわけがない。なんとしても龍神の力を得なくては……」
対抗手段を持たない自分が悔しくて、あなたは唇を噛んだ。
手の平から滴り落ちる赤いものが、血ではなくて炎ならいいのにと思う。
(そうしたら、こんなヤツ燃やしてやるのに)
怒りがあなたに満ちた。
(……熱い)
不意に全身が熱くなった。
「ぐわっ?」
望んだとおり、赤い血が炎となって土気色の手を燃やし始める。
やがて、嫌な匂いと黒い煙を漂わせて、手は消えた。
あなたの皮膚には爪痕も残っていない。
(でも……)
あなたは男が消えていないことを確信していた。
後ろで草木が揺れる、ガサガサという音がする。
あなたは振り返った。
枝をかき分けて、ふたりの男が空間に入ってくる。
日本刀を持った学生服の少年と、無精髭を生やした破れデニムの男。
自称退魔師たちだった。
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