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「ダメ」
河童少年に後ろから手を掴まれた瞬間、あなたは口走っていた。
彼に触れられることが嫌だったわけではない。
むしろ骨ばった彼の手の感触は、あなたの中に満ちた言葉にできない不安を消してくれた。
けれど──
河童少年は頷いた。
「そうだな。最初からわかってた。コイツの目的地がここだってのも気づいてた。だから各務たちを待たせてたのに……なんだって俺は、あんたの名前を呼んじまったんだろうな」
あなたの手を掴んだ彼の指の間から、土気色の指が伸びていく。
河童少年はあなたの手を離し、自分の手に移動してきたそれを見つめた。
しずく型の石、だとあなたはずっと思っていた。
だけど違う。
石というよりも土の塊、しずく型というよりも卵。
いや、どちらも違う。
それは絡み合う木の根っこ──でもない。
あなたがずっと握っていたのは、干からびた土気色の手だった。
手首から上がなく、すっかり乾燥していたので小さくなっているのだ。
「水生木だもんな。壊して霊力を吸い取らなくちゃいけない土属性の人間より、そのまま自分の力にできる水属性の妖怪の俺を選ぶことはわかってた。だから同行を拒まれても無理強いしなかったんだ」
「あの、ごめ、ごめんなさい。わたしのせい、なんだよね?」
知らず知らず涙を流していたあなたに、少年は優しく微笑んだ。
「あんたのせいじゃない」
土気色の手は、彼の体内に侵入していた。
伸びていく指が皮膚に浮かび上がる。
「しかしどうするかな。この状態じゃ各務の結界は通れないし。……あんた、さっき行こうとしてた場所に入れるか? 入れたら中のふたりを呼んできてくれ」
「え、あの……」
あなたは辺りを見回した。
霧に覆われた夜の森、木々は隙間もないほど密集している。
自分がどこから来たのか、どこへ行こうとしていたのか、もうわからない。
「そうか。こんな状況じゃ怖いよな。今夜の霧や風は、コイツがあんたの霊力を利用して起こしてたものだ。でもコイツが離れても、不安が霧を生み出し続けてるんだな」
「霊力? そんな……わたし、霊感少女だったことなんてない、と思う」
「目の前にある大きなものには、案外気づかなかったりするものだ」
彼の体を走る土気色の指は、次第に瑞々しく生気を取り戻していった。
伸びる速度はそれほど速いわけではない。まだ肩にも達していない。
しかし止まることもなかった。
「下手に霊力を使えば吸収されるし、気持ちを荒げれば乗っ取られる。……厄介だな」
「あの、わたし、わたしに霊力っていうのがあるのなら、なにかできない?」
「そうだな。金気が起こせたら、俺の腕ごとコイツを切り落としてくれ。コイツは蠢くもの、木の属性を持つ。斧の材料である金属に弱いんだ。ああ、心配しなくていい。河童の霊薬で治せるから」
あなたは──
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