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木々が生い茂る森の中、ぽっかりと広がる丸い空間だった。
真ん中には小さな石の祠が鎮座していて、星の光を浴びている。
あなたは地面に膝をついた。
握っていた拳を開き、しずく型の石を見る。
不意に記憶が甦った。
(わたし、恋人なんかいない)
あなたは思い出した。
恋人いない歴=年齢だ。
少しだけ寂しさを感じながら、あなたは冷静に石を眺める。
あなたがこの石を手に入れたのは、昨日の学校帰りだ。
通学路にある、何年も無人のアパートの前の道に落ちていた。
手の平を見つめる。そこに載っているものは、もう石には見えない。
あなたの皮膚に爪を立てている、手首から上のない土気色の手でしかなかった。
もちろん恐怖はあったけれど、あなたの心は凪いでいる。
こんな見るからに気持ち悪いもの、普通なら拾うはずがない。
干からびて小さくなっているものの、人間の手なのは明らかだ。
あなたが拾ってしまったのは、そのときどこからか聞こえてきた子どもの泣き声に心を奪われたからだ。意識の空白に、なにかが入り込んできた。
「あなたはだれ? わたしを利用して、なにをしようとしているの?」
頭の中に、年老いた男の声が響いてきた。
「わしは神だ。巫女よ、この祠を開けて、わしを復活させるのだ」
あなたは石の祠に視線を移した。
ここはおそらく狭霧山だ。
狭霧山は霊的な力が強い場所、いわゆるパワースポットといわれていた。昔は龍神山と呼ばれていて、今も龍神を祀る秘密の祠があるという。
これが、そうなのだろうか。
声が言う。
「そうだ。わしが龍神だ。早く復活させろ、なんでも望みを叶えてやる」
手の上の石に視線を戻し、あなたは──
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