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「っ!」
木々の間から飛び出してきたものを見て、あなたは体のバランスを崩した。
山の地面の急な傾斜を転がり落ちてしまう。
視界を横切ったのは、ブツブツと呟きながら宙を飛ぶ女の生首だ。
生首の目もあなたを映したが、彼女はあなたに少しの興味も示さず、どこへともなく飛んでいく。あなたの親くらいの年ごろで、髪が短かった。
──坂道を転がり落ちたあなたは、なにかにぶつかって止まった。
曲がりくねり、皮がひび割れた古い巨木だ。
ひどく体が痛い。首がねじ曲がっている。
死んでいてもおかしくないのに、あなたの意識ははっきりしていた。
(ああ、そうだ……)
あなたは気づいた。
(これは夢なんだわ)
巨木にぶつかった衝撃で思い出した記憶は、ベッドに入ったところで途絶えていた。
起きて家を出た記憶も、電車に乗って狭霧山へ向かった記憶もない。
そもそも狭霧町と狭霧山をつなぐ路線は、あなたが眠りに就くよりも早い時間に終電になっている。
どうしてこんな夢を見たのかはわからないけれど、亡くなった恋人がいないことも思い出していた。
(これは……)
握ったしずく型の石を見ようとしたが、体が動かない。
いや、体なんか最初から存在していなかった。
だってこれは夢なのだから。
けれどあなたの鼻は、巨木から漂う腐臭の中に、ひと筋の柑橘系の香りを感じ取っていた。
不思議な夢だ。
ねえ、と呼びかけるだれかの声まで聞こえてくる。
一度も聞いたことない声、知らない女性の声を聞きながら、あなたは意識を手放した。
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