☆27
「そんなことより、なんのアニメ観ようとしてたんですか?」
「そんなこと、って……」
鬼が、愕然とした顔になる。
多少申し訳ない気持ちになったが、あなたは自分を抑えきれなかった。
だって思い出したのだ。
スマホを覗き込む天狗を見た瞬間に──
(今日の曜日でこの時間なら……)
「もしかして、魔術師の魔獣園じゃないですか?」
長いまつ毛に彩られた、天狗の瞳が見開かれた。
黒いのかと思っていたが、広がって月光が入ると、濃い赤色なのだとわかった。
「そなたも魔獣園が好きなのか?」
「はい! わたしは元々のカードゲームをやっていて、友達はアニメ化してから好きになってくれて……」
「お、おいっ!」
鬼が顔色を変えて、赤いジャージズボンのポケットからティッシュを取り出した。
「どうしたんだ、急に」
あなたの涙を拭ってくれる。
「ご、ごめんなさい。この山で気がついたときから、記憶がハッキリしなくて」
復活させたいはずの恋人の顔と名前さえ、いまだに思い出せていない。
「だけどなんか一気に魔獣園のこととか友達のこととか、断片的なんだけど蘇ってきて、なんか、なんか……ホッとしたの」
「そうか。苦しいとか辛いとかで泣いてるんじゃなけりゃいいんだ。ウサギが見つかったら、もっとハッキリするさ」
「ウサギを探しておるのかえ? こないだニッキーがリスを見たと言うておったから、一の字にメールして場所を特定してしんぜよう」
「この山は電波が入んねぇだろ」
「アニメの動画は重いからじゃ。メールくらいなら、どうということもない」
「んじゃ頼む。……あ、今のニッキーってのは河童の弟」
では一の字というのがオトメンの河童なのだろう。
彼のメールによって、ここより東でリスが目撃されたことが明らかになった。
リスのような小動物が生息できる場所なら、ウサギもいる可能性がある。
「枯れ木も山の賑わいっつうし、お前も来いよ。どうせアニメ観れねぇんだろ」
「うむ。しかし山道を行くのは疲れるので、おぶってくれ」
溜息をついてしゃがみ込んだ鬼の背中に、天狗が乗る。
鬼が立ち上がって歩き出したので、あなたは彼に並んだ。
降りてきたばかりの坂道を上がり、四方から風が吹きつける、最初いた場所に戻る。
河童の弟がリスを見たのは、一番強い風が吹いてくる、さらに東の方角だという。
あなたたちはそちらへ向かって歩き出した。
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