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狭霧町奇談  作者: @眠り豆


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28/156

☆27

「そんなことより、なんのアニメ観ようとしてたんですか?」

「そんなこと、って……」


鬼が、愕然とした顔になる。

多少申し訳ない気持ちになったが、あなたは自分を抑えきれなかった。

だって思い出したのだ。

スマホを覗き込む天狗を見た瞬間に──


(今日の曜日でこの時間なら……)


「もしかして、魔術師の魔獣園じゃないですか?」


長いまつ毛に彩られた、天狗の瞳が見開かれた。

黒いのかと思っていたが、広がって月光が入ると、濃い赤色なのだとわかった。


「そなたも魔獣園が好きなのか?」

「はい! わたしは元々のカードゲームをやっていて、友達はアニメ化してから好きになってくれて……」

「お、おいっ!」


鬼が顔色を変えて、赤いジャージズボンのポケットからティッシュを取り出した。


「どうしたんだ、急に」


あなたの涙を拭ってくれる。


「ご、ごめんなさい。この山で気がついたときから、記憶がハッキリしなくて」


復活させたいはずの恋人の顔と名前さえ、いまだに思い出せていない。


「だけどなんか一気に魔獣園のこととか友達のこととか、断片的なんだけど蘇ってきて、なんか、なんか……ホッとしたの」

「そうか。苦しいとか辛いとかで泣いてるんじゃなけりゃいいんだ。ウサギが見つかったら、もっとハッキリするさ」

「ウサギを探しておるのかえ? こないだニッキーがリスを見たと言うておったから、一の字にメールして場所を特定してしんぜよう」

「この山は電波が入んねぇだろ」

「アニメの動画は重いからじゃ。メールくらいなら、どうということもない」

「んじゃ頼む。……あ、今のニッキーってのは河童の弟」


では一の字というのがオトメンの河童なのだろう。

彼のメールによって、ここより東でリスが目撃されたことが明らかになった。

リスのような小動物が生息できる場所なら、ウサギもいる可能性がある。


「枯れ木も山の賑わいっつうし、お前も来いよ。どうせアニメ観れねぇんだろ」

「うむ。しかし山道を行くのは疲れるので、おぶってくれ」


溜息をついてしゃがみ込んだ鬼の背中に、天狗が乗る。

鬼が立ち上がって歩き出したので、あなたは彼に並んだ。

降りてきたばかりの坂道を上がり、四方から風が吹きつける、最初いた場所に戻る。

河童の弟がリスを見たのは、一番強い風が吹いてくる、さらに東の方角だという。

あなたたちはそちらへ向かって歩き出した。


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