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狭霧町奇談  作者: @眠り豆


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「お気持ちだけで」


空腹に耐え、あなたはまんじゅうを断った。

冥府のものを食べたら冥府から帰れなくなるという、神話のお約束を思い出したのだ。

まんじゅうに腕を伸ばしかけたとき、しずく型の石を握った手の平が、危険を警告するようにひどく痛んだせいもある。

自分の好意を無にされて、鬼は太い眉を上げた。


「そうか。……まあ、得体の知れねぇ相手が出したもんを食わないってのはいいことだ。ところで、お前なにしにここへ来た? この山はうちの、鬼一族の縄張りだ。迷い込んだ人間に、勝手なことされちゃ困るんだよ」


低い声で脅すように言われて、あなたは渋々事情を話した。


「へーえ。恋人を復活させるためにウサギ探してんのか。んー……」


彼は南、自分が来た方角を振り返った。


「……アイツが一番いいんだけど、邪魔したら姉貴に殺されるだろうしな……」


小声で呟いた後、鬼はあなたに向き直る。


「よっしゃ。俺の友達に頭だけはいいのと機転が利くのがいっから、ソイツら巻き込むぞ」

「え?」

「さっさとお前を追い出してぇから協力してやる、ってんだ。後、これ着ろ」


彼はジャージの上を脱いで、あなたに押しつけてきた。


「お前、パジャマが霧や夜露で濡れて……目の毒なんだよ」

「あ、ありがとう」


あなたは鬼が着ていたジャージを羽織った。


「じゃ行くぞ」

「う、うん」


広く逞しい背中を追いかける。

鬼はジャージの下に、髪と同じ色の赤いタンクトップを着ていた。


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