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あなたは身を翻し、急いでその場を離れることにした。
だって気づいてしまったのだ。
焚き火に照らし出された少年の髪は真っ赤で、獅子のタテガミのように猛々しい。
かなり長く、後ろでひとつに束ねてポニーテイルにしている。
そして、ねじれた角が飛び出していた。
(……鬼!)
焦る心が、転がっていた枯れ枝を踏みつけた。
枝の割れる音が、静まり返った夜の森で驚くほど大きく響き渡る。
「なにしてんだ?」
低い声で聞かれ、あなたは恐る恐る振り返った。
案の定、鬼の少年だ。かなり体が大きいから、距離が近いと威圧感がある。
太い眉毛の下、ぎょろりとした目が放つ鋭い光はあなたから離れない。
手にはさっき皿に盛っていた団子をひとつ持っていた。
(ううん、違う……)
その団子には顔があった。
寝顔だ。白い団子は眠る赤ん坊の頭だった。
「こんな時間に山の中うろついてるたぁ妙な女だな」
鬼に言われたくはない。
震えるあなたの目の前で、鬼は赤ん坊の頭を宙に投げ、大きな口でキャッチした。
「ん? なんだジロジロ見やがって。そうか、お前、俺に惚れたな」
あなたの視線に気づいた鬼は、まんざらでもなさそうな顔になる。
その大きな口の端には餡子がついていた。
(……餡子?)
「なんだ、こっちが目当てか。いいぜ?」
彼はジャージのポケットから、赤ん坊の頭をもうひとつ取り出した。
「なにビビってんだ?」
怪訝そうにあなたを見つめ、鬼は吹き出した。
「おまっ、これが本物だとか思ってんのか? ねぇわ。大きさ考えろ」
大きく太い指が、眠れる赤ん坊の頭を真っぷたつにする。
溢れたのは真っ赤な血──ではなく、黒い餡子だった。
「おまんじゅう?」
そういえば『まんじゅう』を漢字で書くと『饅頭』で、頭という字が入っている。
「おうよ。あのな、鬼は人間なんか食わねぇんだよ。勝手に縄張りに入ってくる人間をビビらせて追い返すため、宴のときは人間の頭を模したまんじゅうを飾るってだけ。てか今じゃ形骸化した慣習だよ。うるさ型の爺さまだって、ひと目でニセモノとわかる大きさでOK出すくれぇだ」
でも、と言って、彼は笑った。
大柄で口調も乱暴だが、笑うと子どもっぽくて、なんだか可愛い鬼だ。
「まんまと騙されちまう人間もいるみてぇだけどな」
半分に割ったまんじゅうをつきつけられる。
暗い森の陰影をもってしても、もう本物の頭には見えなかった。冷静になって見てみれば、動物の形に作られた市販のまんじゅうのほうがリアルに感じるくらいだ。
美味しそうな餡子の匂いがする。
あなたは、自分がひどく空腹なことに気づいた。
「妙なもんは入ってねぇから食えよ」
あなたは──
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