表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭霧町奇談  作者: @眠り豆
19/156

18

「……なんだよ」


思わず河童の背中に隠れたあなたを、鬼が睨みつけてくる。

あなたは縮こまった。鬼の乱暴な口調が怖かったのだ。

ぽんぽん、と河童の骨ばった手が優しくあなたの頭を撫でる。


「悪かったな、丸」

「あぁ?」

「俺が彼女にお前のことを面白おかしく話したから、少し怯えさせてしまった」

「けっ。まあ大体ホントのことだろ。俺はスケベな乱暴ものだ。……てかお前」


鬼があなたを覗き込み、不思議そうに首を傾げた。


「一だって、そんなにとっつきやすい男じゃねぇぞ。なんだってそんなに懐いてんだ」

「え、あの……サンドイッチ、くれたし」

「ふうん」


鬼は赤いジャージのポケットから、白いまんじゅうを取り出した。

表面に可愛らしい赤ん坊の寝顔が描いてある。


「これも食うか?」

「そういえば野点だったな。人間避けのまんじゅうか。……もしかして用事は、寅ネエ関係か?」

「ああ、約束の時間を過ぎたのに、退魔師が現れやしねぇ」

「地縛霊のところじゃないか」

「とっとと浄化してくれりゃいいのに。お人好しの退魔師さまだぜ」

「いや、あの人はたぶん……おっと、ふたりだけで話してたな、すまない」


河童が振り返り、細い目をさらに細くして、あなたに微笑んだ。


「丸はお菓子作りが得意なんだ。これもきっと美味いぞ」

「おう」


ドヤ顔で頷く鬼は、さっきほど怖くない。

あなたは河童の背中から出て、大きな手の上に載せられたまんじゅうを取った。


「いただきます……美味しい!」


思っていたよりも繊細な味だった。

空気を含んだ、なめらかで軽やかな皮。

きめ細かい餡子は、ほろりと口の中で溶けていく。砂糖の甘味が体に沁みる。

赤ん坊の寝顔は濃いお茶で描かれていた。

その苦さがアクセントになって、甘さをさらに引き立てる。


「だろう?……丸、引き止めて悪かったな」

「あ、本当にごめんなさい。ごちそうさまでした!」


一礼して顔を上げると、鬼がじっとあなたを見つめていた。


「どうした?」

「俺も一緒に行く」

「いいのか?」

「どうせ退魔師を見つけても見つけらんなくても姉貴に八つ当たりされんだ。お前ら手伝ってて探せなかったことにする」

「しょうがないな。一緒に寅ネエに謝ってやるよ」

「頼む。んで、ウサギ探してるんだったな。こないだお前んとこのチビが、どっかでリス見たとか言ってなかったか?」

「ああ、ここから東の辺りだ。リスがいたならウサギもいるかもな」

「決まりだ。なあ、俺は鬼の若丸だ。お前は?」


あなたは河童にサンドイッチをもらったときに思い出した、自分の名前を告げた。


「じゃあ行こう」


河童の言葉に頷いて、あなたと鬼は東に向かって歩き始めた。


*あなたは鬼の名前を知りました。若丸です。

河童と鬼、ふたりの名前を知ったトライアングル数は『+12』です。

★のついた番号の章へ行ったとき、その番号に12を足した番号の章へ進むと、なにかあるかもしれません。

それでは──


→62へ進む

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ