☆150
──あなたは、自宅のベッドで目を覚ました。
なにか夢を見ていたような気がしたが、内容は思い出せない。
あなたはいつものウサギ柄のパジャマを着ていた。
どこも破けていないし、霧にも夜露にも濡れていない。
パジャマ以外のものを羽織ってもいなかった。
昨夜夕食を摂らなかったから、ひどくお腹が減っている。
あなたはベッドから出て、大きく伸びをした。
そして、
「……あー、美味しかった」
今朝は母が特製のフレンチトーストを焼いてくれた。
夕食を摂らなかったあなたを案じて、昨夜から用意してくれていたのだ。
甘さ控えめの卵液に一晩つけたフランスパンは、プリンのようにやわらかくて、ほのかな弾力があった。カリカリのベーコンエッグにも合ったし、グラニュー糖をかけても美味しかった。
お腹いっぱいのあなたは、幸せな気持ちで通学路を進んだ。
進んだ、のだけれど──足は次第に重くなっていった。
(遠回りしようかな。走ったら遅刻しないかも)
いつも不気味に思っている無人のアパートの前を通るのが、今日は無性に嫌だった。
それでいてなぜか、どうしてもそこに行かなくてはいけない気もする。
石のように重くなった足を引きずって、あなたは歩いた。
「……」
あなたは結局、いつもの道に進んだ。
狭霧町3丁目236番地──
普段以上に不気味に感じるアパートの前に、人影がある。
心臓が跳ね上がった。足が自然に早足になる。
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