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不意に手の平に痛みを感じて、あなたは拳を開いた。
しずく型の石──
(石……?)
光の加減か、違って見える。
しずく型というよりは卵、石というよりは土の塊。
絡み合った木の根っこ──どれも違う。
手首から上のない土気色の手が丸まって、あなたの手の平に爪を立てている。
普通の手よりも小さいのは、水分を失って乾ききっているからだ。
「や、だ……」
あなたは思わず腕を振り回した。
土気色の手は落ちない。本当にあなたの皮膚に爪を立てているのだ。
風が巻き起こり、螺旋状にあなたを包む。
普通の風ではなかった。だれかの息遣いのような、生暖かい嫌な風だった。
「いやあぁぁっ!」
爪があなたの手を破り、甲から飛び出した。
血は出ない。出るはずの血は土気色の手に吸われているのだ。
手から腕が伸び、体ができていった。
あなたの体と土気色の手の色が、少しずつ入れ替わっていく。
「ご苦労だったな、ウサギよ」
枯れ枝と化して倒れ伏したあなたに、だれかが囁く。
(わたしが、ウサギ……?)
あなたは、しずく型の石だと思っていたものを自分がどこで手に入れたかを思い出した。
それは毎朝毎夕歩く通学路。
なんとなく不気味な雰囲気を漂わせる、無人のアパートの前で拾ったのだ。
(それにわたし、恋人なんかいない……)
切ない事実を思い出した直後、あなたの意識は消え去った。
最後に、どこか遠くで子どもの泣き声が聞こえた気がした。
<DEAD END>