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扉を開いて部屋の中へ戻る。
黒い蛇は消えていた。井戸に還ったのだ。
(……お願い。木よ、あの子たちを救って!)
あなたは強い思いを籠めて鈴を鳴らした。
人間も動物もその木陰で雨宿りをする、大きく優しい木をイメージする。
リー……ン……
透き通った音色が響き渡り、爽やかな植物の香りが漂ってきた。
井戸から緑色の葉がついた枝が伸びてくる。
やがて太い幹も現れた。
……ワア キ ダ……
……コレデ オカアサンノ トコロヘ カエレルネ……
……オネエチャン アリガトウ……
嬉しそうな子どもたちの声がしたけれど、姿は見えない。
いくつもの丸い光が黄金色に輝いて、木を登っていく。
「良かった……」
天井を破って、さらに上へと登っていく木を見上げたとき、あなたはあることに気づいて首を傾げた。
(どうして、退魔師さんたちが来ないの?)
……キャー……
子どもたちの叫び声が聞こえた。
この部屋の西隣、一階真ん中の部屋で聞いたのとは違う。
はしゃいでいるのではなく、驚いている声だ。
見れば、木が枯れていく。
幹の表面が干からびてはがれ、黒ずんだ葉っぱがはらはらと落ちてくる。
黄金色の光が、ひとつ、またひとつと井戸へ吸い込まれていく。
あなたは木に駆け寄って、幹に手を当てて凍りついた。
(動けない……)
全身が激しい痛みに襲われる。
木を通してあなたの中の力、霊力がどこかへ運ばれていく。
ここは、そういう部屋だったのだ。
中で発せられた力を悪霊へと運ぶために作られた部屋。
鈴を鳴らしても退魔師たちに届くことはない。
(……悪霊の部屋はこの真上じゃない。きっと二階にも霊力を運ぶためのなにかがあったんだわ)
それを壊してからだったら、あなたが生み出した木で子どもたちを救えたに違いない。
後悔しても遅かった。
──あなたの霊力を動力源にして、悪霊は力を増していった。
もう退魔師たちが結界に入るすべはない。
いつかこの土地に、邪悪な神が誕生するのだ。
<BAD END>