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「……っ!」
あなたは体を丸め、両手で頭を守った。
「……?」
しかし、いくら待っても蛇は襲ってこない。
囁くような小さな声が耳朶を打ち、あなたは顔を上げた。
黒い蛇は今も眼前で口を開けている。けれど前より距離があるように感じた。
……ダメー……
……オネエチャン イジメチャ ダメー……
西の部屋で聞いたのと同じ、子どもたちの声だった。
蛇はじりじりと、井戸へと引っ張られている。
だが速度は遅く動く距離は少ない。
蛇の表皮が波打っていた。どうやら水でできているらしい。
(あの子たち、井戸の中にいたんだ……)
さっきあなたの無意識の浄化によって逃げ出そうとした子どもたちは、きっと今とは逆にあの黒い蛇に井戸へ引き戻されてしまったのだ。
(あ、木って?)
あなたは昨夜のことを思い出した。
悪霊の霊力は木気だが、あなたと妖怪少年たちは『相生』で循環させて邪悪を浄化した。
木気=邪悪ではない。
清浄な木気なら、あの子たちを井戸から逃がせるのかもしれない。
(水生木だから……)
目の前の蛇や井戸の中に溜まっている水を変化させれば一石二鳥だ。
……オネエチャン!……
「え?」
蛇が子どもたちを振りほどき、襲いかかってくる。
あなたは慌てて部屋の外に逃げた。
外廊下に面した扉は内側から激しく何度も叩かれて──やがて、静かになった。
鉄でできた扉が歪んでいる。
もしかしたら現実の扉も同じように歪んで、退魔師たちを驚かせているのかもしれない。
「……」
あなたは手にした鈴を見つめた。
扉を開け、蛇に気づかれるより早く鈴を鳴らして木を作れば、子どもたちを救えるに違いない。
今度は鈴を鳴らしてみせる。
どんなに悪霊の邪念が強くても、それを勝る思いで──
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