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狭霧町奇談  作者: @眠り豆
13/156

12

あなたは子どもたちに近づいた。

ウソ泣きなのは見え見えだし、時間や場所も普通ではない。さっき会った少年のような妖怪ということも考えられる。


(でも……)


ウソ泣きしているからといって、不安でないとは限らない。

妖怪だって夜の森は怖いのかもしれない。


「どうしたの?」


あなたは腰をかがめて、子どもたちに声をかけた。

ふたりが顔を上げる。


「かっぱー!」

「かぱー!」


一瞬で彼らは頭に皿がある河童の姿になって、黄色いクチバシから奇声を発した。

パーカーの背中が盛り上がっているのは、大きな甲羅があるからだ。


「……っ」


思わず地面に尻モチをついたあなたの背後から、走ってくる足音が聞こえてくる。


「こらっ!」


サンドイッチをくれた河童少年だった。

あなたにジャージを貸してくれたときの黒いタンクトップ姿ではない。

目の前の子どもたちと同じデザインの緑色のパーカーを着ている。


「家にいないと思ったら、こんなところでなにしてる!」

「にーちゃんを迎えに来たんだよー」

「かぱかぱー」

「なにが迎えだ。人さまに迷惑をかけるんじゃない!」


どうやら彼らは兄弟のようだ。

河童少年が拳を振り上げた。


ごつん!


頭に河童少年の拳を受けたのは、あなただった。

自分でも無意識に、子どもと少年の間に滑り込んでしまったのだ。


「……いったぁ」


頭を押さえたあなたを見て、河童少年は呆然としている。

黄色いパーカーの子どもが自分の皿を取り、あなたに向けて裏返した。


「霊薬。痛くなくなるよ」

「あ、ありがとう」


あなたは皿の裏側に溜まっている、月光を浴びて煌く液体をすくい取った。

普通の塗り薬とは感触が違う。

それは髪に塗ってもべたつかず、染みとおって痛みを消してくれた。


「わあ。ホントに痛くなくなった。すごーい」

「へへっ」


あなたは黄色いパーカーの子どもの頭を撫でた。


「かぱー!」

「え……」


小さ過ぎて気づいていなかったが、青いパーカーの子どもも皿を差し出してくれていた。

驚かされたことには腹が立つものの、ふたりとも根は悪い子ではないらしい。

あなたは期待に満ちた瞳に負けて、もうひとつの皿からも薬を取ってつける振りをした。


「これで全快だー。ふたりともありがとうね」

「うへへ」


相好を崩した子どもたちを我に返った河童少年が睨みつける。


「お前ら、この人に言うことがあるんじゃないのか?」

「……ごめんなさい」

「めんさい」

「あ」

「なあに?」

「にに?」

「かぱー以外もしゃべれるんだね」


黄色いパーカーの子どもは最初から結構しゃべっていたけれど、小さな青いパーカーの子どもが普通の言葉をしゃべるのは、謝罪が初めてだった。


「三太はしゃべれるよ。まだ小さいから下手くそだけど。かぱかぱ言ってたのはキャラ付けかぱー」

「キャラ付け?」

「そう。俺たち河童キャラとして売り出して、将来的にはロイヤリティでがっぽがっぽの予定なんだかぱ」

「かぱー」

「バカか」


兄の河童が冷たく言い放つ。


「ああいうのは着ぐるみだから人気があるんだ。お前たち、本物だろうが」


初めて気づいた! とでもいうように、子どもたちの瞳が見開かれた。


「もういいから、とっとと家へ帰れ。……バスケの練習ばっかりしてて悪かった。今度の試合が終わったら、町へ連れてってやるよ」

「わかった。にーちゃんは?」

「わ?」


河童少年があなたを見る。


「この人を送ってくる」

「い、いいよ。わたし、ひとりで大丈夫」


河童少年は溜息をついた。


「あのな。コイツらはまだいい、イタズラなだけで悪意はないんだ。でもこの山には地縛霊やロクロクビもいる。地縛霊は退魔師が通ってもなかなか浄化しない悪霊だし、ロクロクビは悪意こそないものの周囲を気にせず飛び回る問題児だ。あんたがひとりでどうにかできるとは思えないんだがな」


あなたは言葉を返せなかった。

地縛霊やロクロクビを想像するだけで、背筋が寒くなる。


「おねーちゃん。にーちゃん強いから安心して頼ってよ」

「ってよー」

「う、うん……」

「お前らはとっとと帰れ。とーちゃんが畑でタソガレてたら、声かけて家に連れて帰っとけよ」

「はあい」

「おー!」


子どもたちが姿を消すと、河童少年はぺこりと頭を下げた。


「弟たちがすまなかった。俺も……さっき無理矢理にでもあんたについていけば良かったな。この山が危険だって知ってたのに」

「ううん、そんなことない」


同行を断ったのは、あなた自身だ。


「俺は一平」


あなたは彼に自分の名前を告げた。


「そっか。サンドイッチは役に立ったみたいだな」

「え?」

「あ、いや、空腹だと記憶も混乱するってことだ。ウサギを探してるんだったよな。ここらは人里に近いから、もっと山の中に行ってみようぜ」


あなたは河童少年の緑色のパーカーを追って、もう一度森の中へと足を踏み出した。


*あなたは河童の名前を知りました。

一平。彼の名前数は『-1』です。

☆のついた番号の章へ行ったとき、その番号から1を引いた番号の章へ進むと、なにかあるかもしれません。もちろん普通に選択肢を選んで進んでもかまいません。

それでは──


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