表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭霧町奇談  作者: @眠り豆
128/156

127

錆びた階段を上がって、二階の外廊下に立つ。

外気にさらされた手すりとは逆の壁には、ふたつの扉が並んでいた。

あなたは首を傾げた。


「このアパートって、一階にも二階にも三室ずつあったと思うんだけど」

「ああ。俺たちはもう、悪霊の結界の中に入ってんだよ」

「それって……?」

「たぶんお前が、俺と一緒に来ると決めたときにだな。俺たちは現実と重なっているけど現実とは違う、幻の世界に入り込んじまったんだ。っつっても、形があるものは大体同じ形の現実の存在に近い」


しゃべりながら若丸は、真ん中にあった部屋の扉を開けた。


「扉は開けられる」


よくわからない。そういうものなのだと、割り切って行動するしかなさそうだ。

そういえば、昨日のあなたも実体ではなかった。

若丸に引き合わされた退魔師に言われたのだ。実体は家のベッドで寝ていて、霊力で作られた幽体だけが狭霧山に運ばれたのだと。

だから朝目覚めたとき、あなたの体にはなんの変化もなかった。


「あるはずの扉がないってのは意味深だ。要するに、悪霊が隠したいなにかがそこにあるってことだ」


あなたたちはあるはずの扉がない、二階の西端に移動した。

ここは生前の悪霊、自称教祖の部屋だったらしい。


「お前なら扉を呼び出して、開けることができるかもしれねぇな」


若丸の言葉に背中を押されて、壁に腕を伸ばしかけて、あなたは止まった。

東から風が吹いてくる。


「どうした?」

「子どもの泣き声が、聞こえてきた気がして」


若丸が風の吹く方向へ目を向けた。


「この階にゃガキの霊はいねぇが、霊力を運ぶ装置があるみてぇだな。悪霊の野郎をぶっ倒す前に、ヤツが回復できねぇようにしておくか」

「子どもたちは……」

「今は助けられねぇけど、霊力を運ぶ装置を壊したら、霊力を絞られて苦しむこたぁねぇ」

「そっか、良かった」


東へ向かう広い背中を追って、あなたも二階の外廊下を歩き始めた。

風を感じる。昨夜も今も、自分に実体がないなんて信じられなかった。


→125へ進む

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ